『宮島本』と宮島検定
いわゆる「ご当地検定試験」を実施している自治体は全国的に見たらかなりありそう。世界的な観光地として大人気の世界遺産の島・宮島でも、検定試験を実施しています。優れた成績で合格すれば、嬉しい特典がもらえるほか、そうでなくとも宮島について十分な知識を持っているということを、公的機関に証明していただけることはたいへんに名誉なことです。
宮島のことなら詳しいんです! と自信をもって発言できるよう、いずれは試験に合格できるよう頑張りたいあなたのために、試験の概要についてご説明いたします。
まずは、世界遺産の島・宮島ということで、世界遺産とはそもそも何か、どうやって認定されるのかということについて学びます。世界試験マイスターの方も使っている『世界遺産大辞典』を参照文献として、そのエッセンスを解説。
続いて、宮島が世界遺産に登録された歴史について、同じ書籍を使って説明。
最後に、宮島検定についてと、その対策用参考書『宮島本』についてご紹介します。
世界遺産とは何か?
世界遺産とは、ユネスコ総会で採択された世界遺産条約に基づき「世界遺産リスト」に記載されている、「顕著な普遍的価値」を有する自然や生態系保存地域、記念建造物、遺跡である。
出典:『世界遺産大辞典・上』015ページ
世界遺産条約とは、世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約のことで、1972年に、第17回ユネスコ総会で採択された国際条約のことです。日本をはじめ、世界の194の国と地域が加盟しています(202303現在)。
ユネスコ
ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)
本部 パリ
創立 1945(実際の発足は1946)
教育や科学、文化を通じ、世界の平和と福祉に貢献することを目的とする国際連合の専門機関
日本国内の世界遺産一覧
日本には25の世界遺産と35の国立公園があります。各種試験ではこれらの名称、登録年、主な内容などを暗記します。ちなみに、現在日本で世界遺産として登録されているのは以下の25ヶ所です。
1.法隆寺地域の仏教建造物 奈良県 平成5年(登録年、以下同じ) 文化(文化遺産の意味、以下同じ)
2 .姫路城 兵庫県 平成5年 文化
3. 屋久島 鹿児島県 平成5年 自然(自然遺産の意味、以下同じ)
4 .白神山地 青森県・秋田県 平成5年 自然
5 .古都京都の文化財(京都市、宇治市、大津市) 京都府・滋賀県 平成6年 文化
6 .白川郷・五箇山の合掌造り集落 岐阜県・富山県 平成7年 文化
7 .原爆ドーム 広島県 平成8年 文化
8 .厳島神社 広島県 平成8年 文化
9 .古都奈良の文化財 奈良県 平成10年 文化
10 .日光の社寺 栃木県 平成11年 文化
11 .琉球王国のグスク及び関連遺産群 沖縄県 平成12年 文化
12 .紀伊山地の霊場と参詣道 三重県・奈良県・和歌山県 平成16年 文化
13 .知床 北海道 平成17年 自然
14 .石見銀山遺跡とその文化的景観 島根県 平成19年 文化
15 .小笠原諸島 東京都 平成23年 自然
16 .平泉ー仏国土(浄土)を表す建築・庭園及び考古学的遺跡群 岩手県 平成23年 文化
17 .富士山ー信仰の対象と芸術の源泉 山梨県・静岡県 平成25年 文化
18 .富岡製糸場と絹産業遺産群 群馬県 平成26年 文化
19 .明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業 福岡県・佐賀県・長崎県・熊本県・鹿児島県・山口県・岩手県・静岡県 平成27年 文化
20 .ル・コルビュジエの建築作品ー近代建築運動への顕著な貢献ー 東京都
※フランス・ドイツ・スイス・ベルギー・アルゼンチン・インド 平成28年 文化
21. 「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群 福岡県 平成29年 文化
22. 長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産 長崎県・熊本県 平成30年 文化
23 .百舌鳥・古市古墳群ー古代日本の墳墓群‐ー 大阪府 令和元年 文化
24. 奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島 鹿児島県・沖縄県 令和3年 自然
25 .北海道・北東北の縄文遺跡群 北海道・青森県・岩手県・秋田県 令和3年 文化
これらについては、各種参考書などにも一覧表が載っていますが、こちらでは文化庁さまのホームページから、名称と登録年のみ転載させていただきました(参照:文化庁HP https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/sekai_isan/ichiran/)。
試験に縁のない方がまず驚かれるのは、富士山は世界遺産だ! ということはご存じでも、その登録名称は単に「富士山」ではなく、「富士山ー信仰の対象と芸術の源泉」のような長たらしい名前になっていることです。むろん、特に暗記する必要はありません。
そのほか、説明を必要とするのは以下のようなところでしょうか。
20 の「ル・コルビュジエの建築作品」は東京都・上野公園の国立西洋美術館を指しているのですが、ほかにフランス、ドイツなどの諸国の名が併記されています。これは、文字通りル・コルビュジエの建築作品をまとめて登録したゆえにで、日本では国立西洋美術館が登録されましたが、ほかの国々でも同時に、それぞれル・コルビュジエの作品である建築物が登録されたのです。国内の他の世界遺産でも、いくつかの都道府県に跨がっているものがございますが、国内どころか、海外に跨がって登録されているケースもある、ということです(後述)。しかも、この場合、地理的に隣り合っているためそうなったというわけではなく、ル・コルビュジエの建築作品というある建築家の作品群という形で登録されたため、世界各国あちらこちらに散らばっている、というわけです。
もう一つ、変ったところでは、19 の「明治日本の産業革命遺産」です。これは、明治時代の様々な工業施設などが登録されたため、やはり飛び地となっています。ある一つの県だけで産業が発展したということはあり得ないから当然ですが。特筆にあたる遺産(工場など)を拾っていったらこれらの各県に跨がってしまった、というわけです。しかし、山口県内のそれには、萩反射炉のほかに、松下村塾と萩城下町が含まれますので、いずれも極めて貴重な文化遺産ということは理解できますが、「産業革命遺産」に組み込まれるのはどことなく違和感があります。この二つだけで分けて登録することはできなかったんだろうか、と思う次第です(個人的見解です)。
なお、世界遺産登録は年々増えていくので(減っていくケースもあり。後述)、この一覧表が最新とは限りません。改正がある度に修正しますが、書き換えが間に合っていないこともあり得ますので、文化庁さまの HP で常に最新情報をご確認願います。
世界遺産の決まり方
自他ともに認める優れた文化遺産が世界遺産として登録されるのだろう、ということは理解に難くありません。その意味では世界各国に著名な文化遺産は数多いため、そのうちすべてが世界遺産になってしまうんじゃないかと感じます。しかし、そうはなりません。世界遺産に登録されるのは並大抵のことではなく、いくつもの手続きを踏み、多くの人々の賛同を得てやっと登録が決定するのです。
手続きは面倒ですし、基準も厳しいため、登録を希望しても望み通りになるとは限りません。また、一度登録されても、責任をもって管理をしていないと、登録を外されてしまうこともあるんです。世界遺産に登録されたら、永遠に世界遺産だ! と手放しで喜んでおれる事態ではないのです。世界遺産登録をされると、世界中から観光客が殺到することになります。中には心ない人たちもいるので、登録地のメンテナンスには非常にお金がかかります。ゴミ拾いだけでも、大問題となっているのが現状です。
よって、経済的に苦しい国では、遺産の管理が難しく、放置していたら荒れ果ててしまい、登録を解除された、という例もあります。
また、誰もが認める著名な観光資源であっても、「開発されすぎている」という理由で「え!? ココ、世界遺産になっていないの!?」というケースもあります。有名どころでは、アメリカとカナダに跨がるナイアガラの滝がそうでして、知らない人はいないくらいの観光地で、そのスケールの大きさなどからも、当然世界遺産になっているだろうと思い込んでいると裏切られます。むしろ、「世界遺産に登録されてはいない」という意外さで有名な観光地なんです。
なぜ、世界遺産登録されていないのでしょうか? それは「開発されすぎた」せいです。経済的にも富裕なアメリカやカナダでは、ナイアガラの滝の荘厳さを観光客に十分に満喫してもらうため、あれこれの整備事業を行ないました。観光客は大喜びですが、その整備のしすぎが裏目に出て、もともとの姿が失われている、ということから、世界遺産には登録されなかったのです。
放置してもいけない、整備しすぎてもいけない。何とも面倒なことですね。
目茶苦茶簡単にまとめると、世界遺産登録までの流れは以下の通りです
世界遺産に推薦する ⇒ 世界遺産を決定する機関が審査する ⇒ 審査に通れば無事に登録される
推薦はその遺産が存在する国が行なうのが普通です。しかし、中には例外もあり、エルサレムなどは、紛争中であるため、隣国ヨルダンによって推薦されるというイレギュラーなことになりました。しかし、審査は無事通過し、晴れて世界遺産に登録されております。
当然のことながら、審査に落ちれば、登録はされません。「通る」か「落ちるか」。誰がどんな基準で決めているのか。おちたらどうなるのか、面目丸つぶれではないのか。色々な疑問符が湧きますよね。審査の道のりは非常に長いですし、審査基準もあれこれあって面倒。また、審査する委員会のような機関も大量にあります。すべてを覚える必要はないですし、そんなことには興味がない方も多いでしょう。なので、本当にアウトラインだけ確認し、複雑化して混乱することは避けたいと思います。
世界遺産選定にかかわる関連機関等
「世界文化遺産委員会」
とにかく重要なのはココです。何しろ、世界遺産を決定しているのが、他ならぬこの委員会だからです。最初に「世界遺産条約」という条約が結ばれ、条約を結んだ国々が締約国会議に参加して、世界遺産についてのあれこれを話し合って決定しました。その会議によって成立したが、この委員会であり、世界遺産登録の可否を決定するところとなったのです。以下に、関係する用語を挙げておきます。単なる用語集ですので、細かな働きが気になった方は、それぞれお調べください。
世界遺産条約締約国会議:世界遺産条約を締結した国による会議。
世界遺産委員会:世界遺産への登録の可否を決定するのはココです。世界遺産リストへの登録推薦がなされた遺産について、審査し、登録の可否を決定します。審査の結果は三つのうちいずれかになります。
登録(世界遺産リストへの記載を承認)、情報照会(これだけじゃ決められないよ、ってことで、もっと追加情報を要求。情報を追加して書き直した推薦書は次の委員会に再提出)、登録延期、不登録(ふさわしくないためリストへの記載を却下)
世界遺産センター(世界遺産委員会事務局):委員会を補佐する機関。世界遺産リストへの登録推薦書を受理します。
世界遺産基金:世界遺産条約締結国は、二年に一度拠出金を払う。集めたお金は遺産の復興事業、事前調査のための費用、保護保全に従事する専門家の育成などに充てられます。
世界遺産委員会諮問機関:ICCROM(文化財の保存及び修復の研究のための国際センター)、ICOMOS(国際記念物遺跡会議)、IUCN(国際自然保護連合)からなります。それぞれに専門分野があり(名前からだいたい想像がつきますね)、世界遺産条約の履行について助言します。
色々な委員会だの機関があり、最終的に審査・決定するのは「世界遺産委員会」であることはわかりました。では、彼らはどうやって、世界遺産として認めるかどうかを決定するのでしょうか。世界遺産は主に、文化遺産・自然遺産・複合遺産の三つに分けられ、それぞれに以下のような定義があります(後述)。いずれの国の文化遺産にもそれぞれの特徴があるはずで、だいたいこれらの定義のどれかにはあてはまりそうに思えます。それなのに、世界遺産として認められないことがあるのはなぜなのでしょうか。それは、単に類似の特徴があるだけではだめで、これらの定義について、
いずれも「顕著な普遍的価値を有する」ことが条件。
となっているためです。要はこの「顕著な普遍的価値」があるか否かを審査しているとも言えます。また、審査には基準があり、最低でも一つはそれらの基準のうちどれかを満たしている必要もあります。
世界遺産の定義
世界遺産には、上述の三つ以外にもいくつかの〇〇遺産という呼び名があります。
世界遺産の種類
文化遺産、自然遺産、複合遺産、危機遺産、負の遺産
以下それぞれについて見てみます。
文化遺産:「人類の文化が生み出した記念物や建造物、文化的景観などのうち、登録基準ⅰからⅳのいずれか1つ以上をみとめられているもの」(参照:『世界遺産大辞典・上』、以下すべて、このご本を典拠としてまとめています。引用は「 」もしくは引用符使用)
記念物(建築物、記念的意義を有する彫刻おもに絵画、考古学的な性質の物件および構造物、金石文、洞窟住居、並びにこれらの組み合わせで歴史上、芸術上、または学術上いずれも「顕著な普遍的価値を有する」ことが条件)
建築物(独立または連続した建築物の群であって、その建築様式、均質性または景観内の位置のために歴史上、芸術上、または学術上いずれも「顕著な普遍的価値を有する」ことが条件)
遺跡(人工の所産、自然と人間の共同製作を含む及び考古学的遺跡を含む区域であって歴史上、芸術城、民俗学上または人類学上いずれも「顕著な普遍的価値を有する」ことが条件)
自然遺産:「地球の生成や動植物の進化を示す地形、景観、生態系など 登録基準ⅶからⅹのいずれか1つ以上をみとめられているもの」
無生物または生物の生成物・生成物群からなる特徴ある自然の地形(美観もしくは自然科学の観点からいずれも「顕著な普遍的価値を有する」ことが条件)
地質学または地形学的形成物、及び脅威にさらされている動物または植物の生息地・自生地(自然科学もしくは保存の観点からいずれも「顕著な普遍的価値を有する」ことが条件)
自然の風景及び区域が明確に定められている自然の地域(自然科学、保存もしくは美観の観点からいずれも「顕著な普遍的価値を有する」ことが条件)
複合遺産:文化、自然両方の価値をかねそなえているもの。
危機遺産:危機にさらされている世界遺産リストに登録されている遺産。
負の遺産:近現代の戦争、紛争、人種差別など人類が冒した過ちを記憶にとどめ教訓とするための遺産。「負の遺産」についてはじつは「定義」が存在しません。
種類がわかったところで、いずれか1つ以上を認められていなければならないという「登録基準」についての説明です。
世界遺産認定基準
登録基準ⅰ:「人類の創造性や人間の才能を示す遺産」。説明が抽象的すぎて、今ひとつわかりにくいですが、世界的に有名な文化遺産のほとんどはこの基準を満たしているそうです。だったら、世界遺産登録の推薦をする際に、基準の一つはクリアできていると考えていい気がします。はねられるのは、「顕著な普遍的価値を有」していないと見なされるゆえにでしょうか。
登録基準ⅱ:「文化の価値観の相互交流」。分るようなわからないような。「交易路、文化間の接する位置に存在する遺産」を指すようです。「異文化、同一文化圏の相互交流」どちらでも問題ありません。それを証拠に、日本の世界遺産には、この基準を満たしているものが多いそうです。同一文化圏はとにかくとして、異文化との交流はなさそうな遺産しかないですからね。にしても、あまり意味がわかりません。
登録基準ⅲ:「文化的伝統や文明の存在に関する証拠を示す遺産」。表現が回りくどいですが、要するに古代文明の遺産そのものです。ついでに、人類の化石遺産も含まれます。
登録基準ⅳ:「建築様式、建築技術、科学技術の発展段階を示す遺産」。後半が意味不明ですが、要するに「建築」が特徴の遺産です。
登録基準ⅴ:「独自の伝統的集落や人類と環境の交流を示す遺産」。人類と環境の交流って何? と思いますが。「存続が危ぶまれている集落や景観、農業景観、文化的景観、土地や海上利用の代表例」。集落、農業景観というようなところが分りやすいかと。
登録基準ⅵ:「人類の歴史上の出来事や伝統宗教芸術などと強く結びつく遺産」
登録基準ⅶ:「自然美や景観美、独特な自然現象を示す遺産」。文化遺産の登録基準ⅰ同様、世界的に有名な自然遺産の多くはこれを満たしているそうです。
登録基準ⅷ:「地球の歴史の主要段階を示す遺産」。これは何となく分りやすいですね。具体例を見ればなるほどです。「地層地形、恐竜や古代生物の化石遺産」。
登録基準ⅸ:「動植物の進化や発展の過程、独自の生態系を示す遺産」。意味はわかりますが、具体例が知りたいところです。
登録基準ⅹ:「絶滅危惧種の生息地でもある生物多様性を示す遺産」。
ここまでで、登録基準についての説明は終わりです。認定を受けるには、なおもいくつかのクリアしておいたほうが良さそうな事項があります。
真正性:それぞれの文化的背景の独自性や伝統を継承していること。字面はわかりやすいですが、要は「継承」していることがポイントで、例えば、再建物のような建築物であっても、独自性や伝統を継承していることが保証される限りは解体修復、再建されていても可能である、ということです。せっかくの貴重な遺産が経年劣化で崩壊寸前となり、あわてて修復作業を行なうことはよくあります。そんなときに、かつての姿に忠実に修繕されていれば問題ないですが、いきなり鉄筋コンクリートの復元天守を造るような形の修復をされた場合、残念ながら、かつてここには著名な名城があったのです、と主張しても通りません。
完全性:顕著な普遍的価値を構成する要素がすべてふくまれ、長期的保護のための法律などの体制もととのえられていること。前者のハードルが高い気がしますが、じつはこれまでのあれこれで厳しく審査されていますので、ここでは後者のほうが重要かもしれません。辛うじて貴重な遺跡がそのまま残されていたとしても、その後、きちんとメンテナンスを行い、現状維持していく姿勢がまるで見られない場合は「完全」とは申せません。
文化的景観:意匠された空間(人間によって意図的に設計されたもの)、有機的に進化する景観(社会経済政治宗教などの要求によって産まれ、自然環境に対応して形成されたもの)を指し、このような景観であれば、すでに発展過程が終了した「残存する景観」であるか、現在も進化し続けている「継続的空間」であるかは問わない。
関連する景観:自然の要素がその地の民族に大きな影響を与え、宗教的、芸術的、文化的な要素と強く関連する景観。具体例が知りたいです……。
さて、これほど厳しい基準を云々しておきながら、これまでの世界遺産登録の歴史の中では、ヨーロッパ中世の遺跡などが優先して登録されるなどの依怙贔屓が多々あったようです。現在は、そのような偏りが起らないように、選定方法の見直しや、ヨーロッパ以外の地域への配慮もなされています。そのほかにも世界遺産登録に関して、様々な見直しが進んでいます。主なものはいくつか挙げておくと以下の通りです。
グローバルストラテジー:リストの不均衡を是正し、条約への信頼性を取り戻すための選考基準や方法の見直しを指します。先程のヨーロッパ中世の遺跡ばかりを認定するといった「地域」「時代」「内容的」不均衡を是正しようという取り組みです。
地理的拡大:これまであまり重視されてこなかった、産業・高山・鉄道関係の遺跡、先史時代の遺跡群、20世紀以降の文化遺産なども積極的に登録するように「強化」をはかっています。
その他関連用語
シリアル・ノミネーション・サイト(連続性のある遺産):必ずしも個々の構成資産が普遍的価値をもっている必要はなく、全体として価値をもっていればいいという考え方。所在地を異にする複数の遺跡を総合し、一つ一つで見るとパワーが弱いものの、一つの関連する遺跡として捉えた場合、大きな価値を持っていると見なされるという考え方とそのような遺跡。例えば、日本の「明治日本の産業革命遺産」がこれにあたります。じつに多くの遺跡が含まれていたかと思います。これは他県に散在するいくつもの遺跡をまとめて見ることで、大きな価値を発揮するという一例です。
トランスバウンダリーサイト:国境を越える遺産。隣接する他国との間に広がる自然遺産などは、国境を跨いで登録されます。ブラジルとアルゼンチンに跨がるイグアスの滝は、二つの国でそれぞれ世界遺産申請・登録されました。
トランスコンチネンタルサイト:大陸を越える遺産。上の「明治日本の産業革命遺産」は国内の中で遺産が各地に散らばっていました。これが、他国間に散らばっている場合はこう呼びます。
暫定遺産リスト
とある文化遺産を、世界遺産に認定してもらうには、「推薦書」を書いて、世界遺産センターに提出します。登録決定までには、一年半ほどかかるということです。
まずは「暫定リスト」を作ります。これは、英語もしくはフランス語で記された、遺跡についての説明文となります。センターはこれを受理した後、公式サイトに公開します。「推薦書」を作るには「暫定リスト」に載っていることが絶対条件ですので、申請国はそれから必死で推薦書を書くことになります。詳細は省きますが、「推薦書」に書くべき項目は決まっており、漏れ、抜けがあれば受け付けて貰えません。
推薦書が受け付けられたら、現地調査などの審査に入り、世界遺産委員会の合意が得られれば晴れて登録決定となります。
こうして、定義と審査基準に照らして審査した結果、無念にも認定されなかったとします。その場合どうなるのか。なぜか、『世界遺産大辞典』にはこのことが書いてありませんでした。これは推測ですが、一度審査に落ちたからといって、二度と登録される可能性がないとは言い切れないと思います。認定されなかったのには何らかの理由があったからのはずで、それが改善されれば、登録される可能性は残されているのではないでしょうか。
じつは、日本の遺産でこの「暫定リスト」に載っているところはいくつかあります。推薦したけれど登録はされなかったためと思われます。暫定リストに載っていることが、推薦の絶対条件でしたので、今後新たに完璧な推薦状を作って再挑戦すれば、晴れて新たな世界遺産となる可能性はあるのかも知れません。しかし、中には登録された年度がやけに古く、二十年以上前だったりするものがあります。もはや無理と思って諦めてしまわれたのでしょうか。
世界遺産のある島・宮島
さて、いよいよ世界遺産の島・宮島について主に「世界遺産登録」の理由という点から概説します。
ここでやりがちな大きな勘違い。世界遺産に登録されているのは「厳島神社」であり、宮島ではありません。
まず、登録基準です。厳島神社は、基準ⅰ、ⅱ、ⅳ、ⅵ を満たしていると認められました。分類としては、「文化遺産」なのですが、審査基準ⅵは自然遺産の基準のはず。複合遺産にしてくれたらなぁ、と思いますが、メインはあくまで神社という宗教施設ですので、自然景観は信仰と深く結びついているものの、自然遺産としては認められていないのですね。つまり、複合遺産にもしてもらえない、ということです。
登録年は1996年です。上の遺産一覧表を見てお分かりの通り、国内での登録はかなり早いほうです。
さて、ここは、厳島神社のご案内ページではありません。観光資源としての厳島神社については、ほかのページに書きました。ですけれど、『世界遺産大辞典』に載っている次の一文は、「世界遺産としての厳島神社」について、その登録理由などが一目でわかるように書かれた名文ですので、下手なまとめをするよりも、まるっと引用させていただきます。ご本の解説は数ページにわたる長いものですが、これ以外の箇所は普通の観光案内の上位互換といった感じですので、ご興味がおありの方は、図書館で。⇒ 関連記事:厳島神社
『厳島神社』は、古くから聖域とされた弥山(彌山)の深い緑を背景に、海上に突き出す鮮やかな朱塗りの社殿が広がる、他に類のない独特の景観を持つ建造物群である。この景観は、当初は海を隔てたはるか対岸から拝む対象とされていた島に、次第に社殿が築かれるようになり、それらが背後にそびえる弥山の山容とともに受容されていく過程で次第に形成されていった。
現存する建造物は、原始的な社殿を現在のような姿に発展させた平清盛の卓抜した構想と美的センスを示すとともに、日本人の信仰心や精神文化の発展の過程を知る上でも、重要な史料とされる。
出典:『世界遺産大辞典・上』105ページ
構成資産概要:厳島神社・本社(本殿、弊殿、拝殿、祓殿、高舞台、平舞台等)、摂社客神社、能舞台、豊国神社、五重塔、多宝塔、弥山原始林
宮島検定とは?
昨今流行りのご当地検定試験の宮島版です。
試験の概要
主催者:廿日市商工会議所さま
開催時期:だいたい例年一月の日曜日に開催されている模様です。
検定料金:大人2500円
認定:成績70点以上の受験者にはカードが配布されます。つまりは、70点以上が合格と考えられます。ブロンズ(70点以上)、シルバー(80点以上)、ゴールド(90点以上)、プラチナ(満点=100点)の四種類があります。
得点:七浦巡り(ゴールド、シルバーなどの認定者限定で特別価格で参加できる「七浦巡り」を実施
試験についての詳細は、廿日市商工会議所さまにお問い合わせください。
ホームページ:https://cci201.or.jp/(https://cci201.or.jp/miyajima-kentei/)
宮島検定合格対策
試験というものには、たいてい傾向と対策があります。地元に住んでいて、観光案内のお仕事をしている方などはなにもせずとも満点ですが、そうでない限りは、試験に合せた対策を練りましょう。試験って、なんだかんだ言っても要は「暗記」です。なので、正直なところ、宮島に対して思い入れのない方や、仕事の関係で受験を命じられた方以外は受験する必要はありません。合格したところで、何かのメリットがあるわけではないためです。「七浦巡り」の船に乗れるではないか、と思いますけど、じつはこれ、宮島観光協会さまで毎年七浦巡りの船は出ています。特別価格で特別な船に乗れなくてもいいのであれば、七浦巡りのために受験する必要は皆無です。
ですけど、七浦巡りと聞いてお目々キラキラになってしまった方というのは、相当に宮島を愛している人だと思います。自らのお気に入りの場所について勉強し、知識を深めて実りある旅のために活かそうと考えるのであれば、受験する価値はおおありです。好きでもないし、地元民にもなっていない場所についてご当地検定を受ける意義はないですけど、好きならば話は別です! 大好きな場所について、公的な機関から「あなたはこの場所について、かなり深い知識を持っています」と証明していただけたら、これに勝る喜びはありません。ちょっと自慢したくもなりますよね。
宮島大好き! だから検定試験で、自他共に認める宮島通になりたい!
そう思ったらぜひとも挑戦してください。で、傾向と対策ですが……。試験問題の現物を拝見したことがないのでわかりません。一つだけ言えることは、試験には参考書と問題集が必要、ということ。でもって、ご当地検定の問題集など売っていませんから、過去問を取り寄せるしかありません。そして、この、過去問を解くということこそが、最高の試験対策となります。
実際の試験の過去問題集は廿日市商工会議所さまで購入可能です。とにかく、上のホームページを拝見して、問題を取り寄せましょう。これで、だいたいの難易度や傾向がつかめると思いますので、あとは試験日程までひたすら勉強して、知識を増やしていくのみです。
検定試験の参考書『宮島本』
過去問題集を手に入れたところで、解けない問題のオンパレードだったら意味がありません。何とかして、合格できるだけの知識を身につける必要があります。そのために存在するのが『宮島本』です。ご当地検定の数だけ参考書が存在する、これはその宮島版です。
その中身は宮島の歴史、史跡案内から始まって、ゆかりの人物、動植物まで……とにかくボリュームたっぷりです。こんなにたくさん覚えるの!? と真っ青になってしまう方もおられるかもしれません。でも、宮島が好きだから試験を受けようと思っているのですから、そんなことではダメです。
恐らく、すでに宮島に通い詰めているような方ばかりでは? だったら、これまでの渡海の思い出を整理しつつ、この本を使って知識も注入しましょう。好きなことを覚えるのは、あまり苦痛ではないはずです。大丈夫。きっとおぼえられますよ。
『宮島本』は、何も単なる試験対策本ではありません。宮島は好きだけど、試験には関心ありません。という方もおられるでしょう。そのような方でも、ある時はちょっと奥深いガイドブックとして、ある時は歴史の復習用に、いくらでも需要があります。一冊持っていて損はないですので、ぜひとも購入をご検討ください。
なお、なぜか、この手のご当地検定って、地元商工会議所で行なわれていることが多い(というか、そういう決まりなんでしょうか? 現住所のところでもそうなっています)ですが、もしも他県に住んでいる場合、オンラインショッピングなどで手に入れることは無理のようです。「古書」という形で取り扱われていたりしますが、稀に法外な値段になっていたりすることがあり、とても危険です。参考書は中古で購入する、という方も、大手の通販サイトなどではなく、古書店協会のようなところのサイトで探したほうが安全であることを申し添えます。
現在、広島県内の古書店さまで入手した初版本と、商工会議所さまから購入した第三版と二冊もっていますが、いずれもたいへん良心的な価格です。ですけど、某通販サイトできいたこともない転売屋(?)のような店をチラ見したらすごい値段でした。とても危険なので、絶対にやめましょう。
わーい、海だーー、大きいなぁーー
海なら富田にもあるじゃないか。君はホントに宮島が大好きなのね……。
厳島はこの俺のもの。将来ここに俺だけのパラダイスを開くんだ。
君のもの、というよりは君の「主」のものだと思うけど……。ま、まずはそんなに大好きな厳島のことをよーーくお勉強しようね。そのための最強ツールがコレだよ。
ん? なんだ、「宮島本」って?
宮島、えーと、イマドキの人は厳島を宮島と呼ぶのが普通なんだけど。で、その宮島の歴史や、風土について詳細に書いてくれている教科書みたいなご本だよ。名所旧跡についてももれなく掲載されているので、ガイドブック的な使い方もできます。この本に書いてあることを全部覚えて「検定試験」に合格したら、君も「宮島博士」だ。島の支配者を目指すなら、まずは勉強しないと。
なんかメンドー……。だったら、殿様はすでに、「博士」なのか?
うーーん。限りなく怪しいね。仕方ないよ、身分制度の下では、あっちがエラいんだから。頑張るしかない。
よーし、絶対合格するぞ! あ、でも、七浦巡りもうやっちゃたんだよね。ま、いっか。殿様より知識豊富なことを見せつけないとね。
……?
参照文献:『世界遺産大辞典・上』、『宮島本』、廿日市商工会議所さま HP、文化庁HP
※この記事は 20240704 に大幅に加筆・修正されました。
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みやじま・えりゅしおん
宮島旅日記のまとめページ(目次)です。厳島神社とロープーウエーで弥山頂上は当たり前。けっしてそれだけではない、宮島の魅力をご紹介。海からしか行けない場所以外は、とにかく隅々歩き回りました。宮島の魅力は尽きることなく、旅はなおも続きます。
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