宮島の浦々の神社を巡る旅。今回は、「御島巡り」で七番目にご参詣する山白浜神社をご紹介いたします。浦々の神社には珍しく、社号に「浦」の字が入っていないのは、「小高い丘の上」にあるからです。
海上から参拝する神社の中では、ちょっとだけ異色です。そのことをよく知らないと、社殿のお姿を見ることができないかもしれません。そんなことにならないように、山白浜神社ご参詣のポイントなどをご案内します。この記事が、何かのお役に立てたなら幸いです(訪問回数1回)。
広島県廿日市市宮島町の山白浜神社とは?
厳島神社の末社で、宮島の浦々の神社のひとつです。「御島巡り」で七番目に赴く神社であり、「第五拝所」として、海上から参拝します。
浦々の神社は、いずれも宮島を取り囲むようにしてご鎮座されている海辺の神社となりますが、山白浜神社はちょっとした丘の上に建てられております。そのため、上陸して参詣する際には、丘の上まで上がる必要があります。わずかばかり参道がついているという雰囲気です。海上から参拝する場合、樹木の繁茂によって、社殿が埋もれて見えないことがありますので、注意が必要となります。
山白浜神社・基本情報
ご鎮座地 廿日市市宮島町
御祭神 表津少童命
主な建物 社殿、鳥居、参道付き
(参照:『宮島本』、建物は目視、ご鎮座地は Googlemap)
山白浜神社・歴史と概観
ご鎮座地は小高い丘の上
『宮島本』に以下のように書かれていました。
ここだけ「浜」というのは小高い丘の上だからである。
出典:『宮島本』
浦々の神社は、確かに「○○浦神社」とお呼びするところがほとんどです。その意味では、山白浜神社さまに「浦」の字が入っていないのは異色です。「○○浦神社」はそれぞれ「○○浦」にご鎮座しておられます。山白浜浦なる海はないようですので、山白浜浦神社とはお呼びできなかったのでしょう。
ただし、浦々の神社で、「○○浦神社」とお呼びしない神社さまは山白浜神社だけではありません。養父崎神社と御床神社にも「浦」の字はついておりません。最初、ということは、山白浜神社さまも含め、これらの神社は「七浦」には含まれていないのだろうと考えましたが、養父崎神社以外はきちんと「七浦」に含まれておりました。「七浦」に入っているかいないかの理由については、本当に謎です。
『宮島本』に「小高い丘の上にある」とわざわざ注記してくださっている意味は、「浦」の字がついているかいないか、「七浦」に含まれるか含まれないかの問題とは無関係と思われます。ご参詣なされば、すぐにわかりますが、確かにほかの神社のご鎮座地とはやや異なる特徴があるのです。
山白浜神社も海からしか行くことができない神社となり、海に面して鎮座しておられます。しかし、ほかのそのような神社というのは、文字通り海からすぐの場所にあります。船を着ければ即参詣できるため、参道などありません。ところが、こちらの山白浜神社に限っては、小高い丘を上がっていく感じとなります。わずかな距離ではありますが、社殿に至るまでに道を歩かねばならないのです。
なお、ご鎮座地の丘は樹木が生い茂っておりますので、ご参詣時期によっては木々に覆われて海からは社殿が見えません。海上から参拝する場合は、樹木に覆われていない時期を選ぶ必要がございます。もちろん、上陸して丘に上って行くのでしたら、いつでも社殿を参拝することが可能です。
「綿津見三神」を祀る「海神社」
山白浜神社の御祭神・表津少童命とは、どのような神さまなのでしょうか。伊耶那岐命・伊耶那美命の「国生み」によって、国が形作られた後、「神生み」によって生まれた神々の中に、海の神・大綿津見神がおられました。その後、伊耶那美命が「神避り」なさり、伊耶那岐命は妻を慕って「黄泉の国」に向かいますが、連れて戻ることはできませんでした。黄泉国での穢れをとりのぞくために「禊」を行なった際、多くの神々が生まれました。
既に国を生み竟へ、更に神を生みたまふ。故、生みたまへる神の名は、大事忍男神。次に石土毗古神を生みたまふ。次に石巣比売神を生みたまひ、次に大戸日別神を生みたまひ、次に天之吹男神を生みたまひ、次に大屋毗古神を生みたまふ。次に風木津別之忍男神を生みたまひ、次に海の神、名は大綿津見神を生みたまひ、次に水戸の神、名は速秋津日子神、次に妹速秋津比売神を生みたまふ。
(中略)
次に水底に滌きたまふ時に成れる神の名は、底津綿津見神。次に底箇之男命。中に滌きたまふ時に成れる神の名は、中津綿津見神。次に中箇之男命。水の上に滌きたまふ時に成れる神の名は、上津綿津見神。次に上箇之男命。此の三柱の綿津見神は、阿曇連等が祖神と以ちいつく神なり。故阿曇連等は、其の綿津見神の子宇都志日金析命の子孫なり。其の底箇之男命、中箇之男命、上箇之男命三柱の神は、墨江の三前の大神なり。
出典:中村 啓信. 新版 古事記 現代語訳付き (角川ソフィア文庫) (p.58). 角川学芸出版. Kindle 版.
このうち、底津綿津見神・中津綿津見神・上津綿津見神の神々を「綿津見神三神」とお呼びし、「海の守護神」として各地の「海神社」にお祀りされています(参照:『日本 神さま事典』)。
山白浜神社の御祭神となっている「表津少童命(うわつわたつみのみこと)」と「上津綿津見神(うわつわたつみのかみ)」は同じ神さまです。一瞬別の神さまかと感じますが、神さま方のお名前は表記法が色々ございますので、その一例かと。
ここで『古事記』の原典(現代語訳部分)を拝読して気付くことは、浦々の神社の御祭神は、そのほとんどが伊耶那岐命の「禊」の際に生まれた海の神々であるということです。山白浜神社もその典型です。
海に面してご鎮座されている神社さまであることから、海の神さま方がお祀りされているというのは、当然と言えば当然ではありますが。整理してみて初めて気付くこともありますね。
山白浜神社・みどころ
丘の上に鎮座していることから、海上からしか行けない浦々の神社中ではやや異色です。上陸して参拝するような大規模な神社ではないにもかかわらず、丘を上らねばならないという一手間がかかります。それゆえに、「参詣に向かっている」という気分を味わうことができるのは、とても貴重なことです。
海上から見たご鎮座地の丘
ほかの浦々の神社でもお見かけした岩。ほかの神社さまでは、このような岩の上に社殿が建っておられたりしました。しかし、山白浜神社のお姿はまったく見えません。
丘の上にある社殿は、初夏の青葉に埋もれてしまい、完全に隠されてしまっていたのです。船長さんが、わずかに見える神社の屋根部分を見つけてくださいましたので、神社の存在は確認できました。しかし、ご覧のような岩もありますし、上がるのは無理かなぁ……と愕然となりました。
同じ海上から眺めるのでも、このように見える場所もございます。しかし、やはり「埋もれている」感じです。
参道
しかし、船を着けてみると、きちんと道もついており、上まで上がることが可能でした。これも歴とした参道ですね。
社殿
ご覧の通り、立派な社殿がご鎮座ましましておりました。周辺には、お姿を隠していた樹木が。これでは、海上から見えないはずです。
山白浜神社(廿日市市宮島町)の所在地・行き方について
ご鎮座地 & MAP
ご鎮座地 廿日市市宮島町
(※Googlemap にあった住所です。)
アクセス
海上からしか行くことができません。ご自身でボートを操れない方は宮島観光協会さまの定期観光船などに申し込みをすることで、ご参詣が可能です。
参照文献:『宮島本』、『古事記』(現代語訳)、『日本 神さま事典』
山白浜神社(廿日市市宮島町)について:まとめ & 感想
山白浜神社(廿日市市宮島町)・まとめ
- 厳島神社の末社で、浦々の神社のひとつ。「七浦」にも含まれている
- 「御島巡り」で七番目に向かう神社であり、「第五拝所」として、海上から参拝する
- 海からしか行けない場所にあり、ちょっとした丘の上に鎮座しているため、社号に「浦」の字が入っていない
- 「綿津見三神」の表津少童命を御祭神とする、典型的な海の神社。この神さまは、「黄泉の国」から戻った伊耶那岐命が「禊」をした際に生まれたという
- ご鎮座地の丘は、樹木に覆われているため、参詣時期によっては海から社殿が見えない。船を着けると社殿まで道が続いており、丘の上にあるということを実感できる
樹木に覆われてしまって海から社殿が拝見できなかったため、ご参詣は絶望的かと思いました。ボートに乗せてくださった船長さんが、わずかに見える社殿の屋根を確認してくださり、屋根だけの参拝か……となりました。それでも、わがままなお願いをして、船を着けていただきました。すると、神社まで上がっていく道を見つけることができた次第です。
船長さんと、船長さんをご紹介くださった廿日市の先生のおかげで叶ったわがままなご参拝でした。この場を借りて、心より御礼申し上げます。わがまま得と申しますか、「絶対に見たいです!」の一言がなければ、あるいはここは諦めて通過となった可能性もございました。あまり褒められたことではないのですが、これが最初で最後と思われる場所を訪れた場合は、ずうずうしく粘ることも必要です。サイトでご紹介している場所の中には、そんなわがままの末に辿り着けた結果も少なくありません。
地元の皆さまを巻き込みながら、わがままな旅を続けつつ、日々人に恵まれていることを実感しております。ボートを操れる地元の方と知り合いになり、浦々の神社を回ろうなどという下心から始まった話ではないからです。強く望み続ければ、夢は叶う。諦めてはいけない、そう思います。どこかに訪問したい場所があり、そこがなかなか行きにくい場所だったとします。そんな時には、まずは所在地の観光協会さまにお問い合わせをしましょう。執筆者も宮島観光協会さまにお問い合わせをし、その結果、浦々の神社を巡る船が出ていることを知りました。観光協会さまの船で浦々の神社を巡る予定です、と楽しそうにお話していました。それを聞いた心優しい廿日市の先生が、観光協会の船に乗らなくてもボートは貸せるよ、とおっしゃったのです。え!? となりましたが、その流れから、貸切りボートの旅が叶ったのです。本当に、夢のような一時でした。
それだけでも感謝すべきなのに、木々に覆われているから残念だけどここは無理かなぁというお言葉があったのにもかかわらず、絶対に見たいです! どれだけわがままだったのかと思います。深く反省しておりますが、結果として、全員で参詣できましたので、結果オーライかな、と言い訳しておきます。本当にありがとうございました。
こんな方におすすめ
- 厳島神社の摂社・末社を極めたい方
- 浦々の神社すべてに参詣したい方
オススメ度
(オススメ度の基準についてはコチラをご覧くださいませ)
お前たち、またしても元就公ゆかりの安芸国の人々にご迷惑を……。
木に埋もれちゃって、屋根の一部しか見えない時点で、俺も残念ながら……と思った。にもかかわらず、優しすぎる船長さんの「見たいよね? 船を着けてみようか?」というお言葉に、ミルの目がキラキラに。「絶対に見たいです!」と言ったと書いてあるけど、実際にはそこまでずうずうしくはないんだよ。でも、すぐに顔に出ちゃうからな。
船長さん素敵✨ 廿日市の先生最高✨ 山白浜神社の社殿が見れた✨ 感激✨
恥ずかしすぎる。心優しい地元の方に甘えすぎだ。
本人が感激しているのなら、それでいいじゃないか。感謝の思いはきちんとお伝えしたし、遠い所から宮島を慕って通い続けているという事実は、地元の方としても誇らしいことだと思うよ。嬉しく感じてくださっても、怒りを覚える方はおられない。もちろん、地元愛などない人もゼロではない。だけど、そのような方は、郷土史に関わってはおられないだろ? だから今の今まで、喜んでいただけても、嫌われたことは一度たりともないんだよ。
遠くから? お前たちは周南市に住んでいるはずだが。
ミルの所在地は城跡って設定だけど、中の人は遠いんだよ。
設定? 中の人? よく分からんが、今後はわがままは控えろよ。
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みやじま・えりゅしおん
宮島旅日記のまとめページ(目次)です。厳島神社とロープーウエーで弥山頂上は当たり前。けっしてそれだけではない、宮島の魅力をご紹介。海からしか行けない場所以外は、とにかく隅々歩き回りました。宮島の魅力は尽きることなく、旅はなおも続きます。
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