神の島・厳島には、実に数々の興味深い神事がございます。管弦祭などが著名でしょう。いずれの行事もそれぞれに素晴らしいのですが、個人的には宮島を取り巻く浦々の神社に参詣して回る「御島巡り」の行事にとても興味があります。神事としての「御島巡り」には、参加したことはございませんが、参詣先にあたる浦々の神社には、すべてお参りしました。
今回はその中から、二番目に参詣する包ヶ浦神社についてご紹介します(訪問回数1回)。
広島県廿日市市宮島町の包ヶ浦神社とは?
宮島の浦々の神社のひとつです。「御島巡り」の際、二番目に参詣する場所となります。桟橋から、包ヶ浦までは歩いて行くことが可能ですので、包ヶ浦神社にも普通に参詣できるのではないかと思われる方が多いです。しかし、残念ながら、神社は海上にあります。陸地から仰ぎ見ることもできない場所にご鎮座されているため、ご参詣するには、海から向かう必要があります。
包ヶ浦神社・基本情報
ご鎮座地 739-0588 廿日市市宮島町1195※
御祭神 塩土老翁
主な建物 鳥居、社殿
(参照:『宮島本』、建物は目視、※Googlemap に包ヶ浦神社が載っておりませんため、最寄りの観光資源となる『包ヶ浦自然公園』の住所を載せております)
包ヶ浦神社・歴史と概観
地図では確認できるのにご鎮座地不明!?
包ヶ浦は桟橋からやや離れているものの、頑張れば歩いても行くことができます。それゆえに、包ヶ浦にあるゆえ、包ヶ浦神社とお呼びするであろう神社さまに行くことは普通に可能だろうと考えるのが自然です。実際、観光客の皆さまは地図アプリを起動し、包ヶ浦への道を確認しながら現地へ赴くと思われます。無事に包ヶ浦に到着した後は、「包ヶ浦神社」を目的地としてもう一度アプリを起ち上げます。すると、確かに、包ヶ浦からほど近いところにご鎮座されていることがわかります。これで一安心と思い、ナビゲーションに導かれるままに進んで行くわけですが、どこにもそれらしい社殿のお姿はありません。頭の中は疑問符でいっぱいとなります。
宮島に観光に来て、厳島神社と弥山以外の場所に行く時間的余裕がある方は少ないのが現状です。それゆえに、数日逗留している、すでに複数回渡海しているというような方以外、包ヶ浦に向かう方はさほど多くないでしょう。そのため、ほかの観光客の方とすれ違う確率は少なく、どなたかにお伺いしようにも付近には人影がないという事態になります。
彷徨うこと長時間に渡り、最後は諦めて空しく桟橋に戻ることになります。この謎が解けず、困っておりましたが、観光協会さまにお問い合わせをしたところ「海からしか行けない場所にある」とご教授いただきました。最初から、桟橋の観光案内所で確認すればよかったのに……と後悔すると同時に、何の収穫もなく振り出し地点(桟橋)に戻った包ヶ浦行きの道中が恨めしく思われました。
包ヶ浦には地元の方々のボートが多数係留されており、お仕事で海に出て行かれる方々は毎日のように包ヶ浦神社のお姿を目にしておられるのだろうと想像すると羨ましくてなりません。とはいえ、そのようなボートに乗せていただくわけには参りません。包ヶ浦から包ヶ浦神社に参詣するための観光客用ボートが出ているというお話は聞いたことがありません。ボートを用意できない方は、残念ながらこの神社についてはご参詣を諦めるほかないのです。
むろん、ボートを持たない観光客が包ヶ浦神社をご参詣することは無理なのか、といえばそんなことはありません。観光協会さまで、年に四回、浦々の神社を巡るための船を出してくださっています。それに乗せていただけば、包ヶ浦神社を参詣することは、どなたでも可能です。
御祭神・塩土老翁とは?
『宮島本』によれば、「神話海幸彦・山幸彦に登場する海流を司る神様(塩釜神)」とあります。海幸彦・山幸彦のお話は『古事記』や『日本書紀』にも書かれており、有名な神話のひとつと言えます。でも、塩土老翁なんて、どこに出て来たっけ? となりましたので、『日本 神さま事典』で調べました。「塩竃神信仰」として、宮城県の塩竃神社について記した項目の中で、解説がございました。
鹽土老翁神(しおつちのおじのかみ、塩筒老翁しおつつのおじとも)は『日本書紀』における表記であり、「古事記」では「塩椎神(しおつちのかみ)」と表記される。兄の釣り針をなくして困っていた山幸彦(火遠理命)に海神の宮への道を教える神である。また、天降った瓊瓊杵尊に都とすべき国の在処を教えた。このときは「事勝国勝長狭(ことかつくにかつながさ)」という名で伊弉諾神の子と記されている。
出典:『日本 神さま事典』220ページ
※原文では、神さまのお名前はふりがなでしたが、( )に入れました。
塩土老翁については、ほかにも色々の神話があり、ご利益も色々です。同じご本から、主なものだけ、箇条書きにてまとめておきます。
神武天皇に東征を勧めた神 ⇒「道の神」
「シオツチ」=「潮つ霊」⇒「航海や海路守護の神」
武甕槌神と経津主神(国譲り神話に登場。天孫降臨に先だち高天原から派遣され、国土を平定した神々)が奥州平定をした際、道案内をした神であり、奥州に留まり、製塩業を伝えた ⇒ 塩竈神社(宮城県)の起源
特に、「製塩の神」としての色彩が濃いように見受けられ、東国では広く信仰されたそうです。そのいっぽうで、さまざまな道案内をしていること、それも海路関係の道案内であることから、「航海安全の神」としての信仰も深いのです。
宮島で塩を作っていたとは耳にしたことがないですので、包ヶ浦神社に関して言えば、やはり航海安全の神さまとして、お祀りされているのではないかな、と思いました。
『御島巡り』における包ヶ浦神社
御島巡りの際、包ヶ浦神社は二番目に参詣する神社となります。海に浮かんでいるというご鎮座であることから、海上からの参詣となります。参拝の人々は船の中からお参りすることとなりますが、「御師は海上で祝詞をあげ、朝御鐉の粢団子を投じる」(参照:『宮島本』)というイベントがあることは特筆すべき点です。
浦々の神社は、基本、船に乗って海上からお参りするところが多くなります。何箇所か上陸する場所もあるのですが。その意味で、包ヶ浦神社は重要な役割を担っている神社のひとつと言えます。
「御島巡り」および浦々の神社については、以下の記事にまとめてございます。よろしければ、そちらもご参照くださいませ。
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浦々の神社(広島県廿日市市宮島町)
「七浦巡り」がやりたい~というわがままな願いが叶い、地元の方のご厚意により船で宮島をぐるりと一周。浦々の神社すべての写真をご紹介します。そこらのスマートフォンで素人が撮影していることだけが唯一惜しまれるところです。
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包ヶ浦神社・みどころ
海に浮かぶ麗しいお姿そのものが、最大のみどころです。なかなか訪れることができないという側面もありますが、海から訪れる機会に恵まれた方は、絶対に見落とすことがないようにお願いいたします。
社殿
遠景
ご覧の通りの岩の上ですので、どうやって参拝するんだろう? と思いました。船は着けられるかと思いますが、岩をよじ登らないとならなりませんよね。裏側に上るための石段があるとか、そもそもここは海上からしか参拝できない神社なのかについては、未調査です。
着岸はせず、海上からの参拝となりましたが、御島巡りでも海上からの参拝となっている場所ですので、強引に近づいて攀じ登るようなことはあきらめました。
背景に包ヶ浦自然公園の事務所らしき建物が見えています。つまり、本当に包ヶ浦からほど近いところにあるわけです。恐らくは後ろにある崖が邪魔となって陸地からお姿が見えないのでしょう。近くにあるのに手が届かない、本当にもどかしい思いとなります。
ちょいズームアップ
包ヶ浦神社(廿日市市宮島町)の所在地・行き方について
ご鎮座地 & MAP
ご鎮座地 739-0588 廿日市市宮島町1195
※Googlemap には、包ヶ浦神社が載っておりませんため、最寄りの観光資源となる『包ヶ浦自然公園』の住所と MAP を載せております。
アクセス
本文中にしつこく書いておりますと通り、船に乗らなければ参拝できない場所にございます。現状、最も確実かつ安価な行き方は、宮島観光協会さまが主催しておられる浦々の神社を巡るツアーに参加することになります。詳細については、観光協会さまホームページをご覧下さいませ。なお、とても人気のある企画となります関係で、早めに申し込まなければ定員オーバーとなってしまう可能性が高いです。
ぜひとも参拝したいとご希望の方は、お早めにホームページを確認し、募集開始と同時にお申し込みをすることを強くオススメします。なお、人気の企画と連動して、宿泊施設なども混み合う可能性もありますので、そちらの予約にもご注意なさってください。企画には応募できたものの、泊まるところがなくなってしまったら大変です。
参照文献:『宮島本』、『日本 神さま事典』
包ヶ浦神社(廿日市市宮島町)について:まとめ & 感想
包ヶ浦神社(廿日市市宮島町)・まとめ
- 厳島神社の末社で、浦々の神社のひとつ
- 「御島巡り」において、二番目に参詣する神社。御師が「海上で祝詞をあげ、朝御鐉の粢団子を投じる」場所
- ご鎮座地には、海上からしか辿り着けないため、船に乗って参拝するしかない
- 御祭神・海土老翁神とは、著名な塩竈神社(宮城県)の御祭神と同じ「塩釜神」である。製塩の神さまであるとともに、航海安全の神さまとして広く信仰されている
- 海からしか参拝できない神社ゆえ、ボートを持たない観光客が参拝することは絶望的のように思えるが、けっしてそんなことはない。宮島観光協会にて浦々の神社を巡る船を出してくださっており、そちらに申し込めば誰でも参拝可能。しかし、募集には定員があるため、毎年の予定表を確認して、早めに応募することが必要となる
どういうわけか、現在 Googlemap さまから、包ヶ浦神社がなくなってしまっておりますが、参拝しようと彷徨っていた際には載っていた気がします。海からしか行けないことを知らないために、迷子となる人が多発するためのご配慮でしょうか。確かに、地図に載っているのに行くことができないというのは辛いですので、もしそうなら、有難いご配慮かなと思います。
せっかく桟橋に親切な観光案内所があるにも関わらず、問い合わせをせずに強引に目的地に向かうということをしでかしてしまいます。それでも、何とか辿り着ける場所が多いからそうなるわけですが、あまり効率はよくありません。そうでなくとも、数日前に大風が吹いて倒木が道を塞いでいるとか、現在修復工事中であるとか、現地に行ってから遭遇すると何も見れずに疲れ果てる結果になります。観光案内所の皆さまは、とてもご親切な上、現地の地理に明るい専門家の皆さまです。厳島神社や弥山以外の場所に行きたいと考える方は、念には念を入れて、宮島についたら、まずは観光案内所ということを心がけるようにするのがよろしいかと存じます。
自らで適当に立てたプランが、遠回りで非効率的なものであることは多々あります。近道や、付近にあるのに見る予定に入れていなかった貴重な観光資源などをご教授いただけるかもしれません。
包ヶ浦神社などまさにそれでして、観光案内所でお伺いしていたら、海からでないと行けないという重要なことを知らずに彷徨うことはなかったはずです。結局、帰宅後、観光協会さまに電話をかけてお伺いするということになりました。その電話で、浦々の神社を巡りたい人のために船が出ているという貴重な情報を知ることが出来ましたが、観光案内所でお伺いしていれば包ヶ浦まで無駄に歩くことはせずにすんだのです。もちろん、道中の光景がとても素晴らしかったので、歩いたことは無駄にはなりませんでしたが。
こんな方におすすめ
- 厳島神社の摂社・末社を極めたい方に
- 浦々の神社をすべて回りたい方に
オススメ度
(オススメ度の基準についてはコチラをご覧くださいませ)
神社を探して彷徨い歩いたことも、今は懐かしい思い出だね。それもこれも、俺たちを包ヶ浦までボートでご案内くださった船長さんと、船長さんをご紹介くださった廿日市の先生のお陰と思えば、足を向けて眠れないなぁ。
そうだね。船長さんはお元気になさっておられるかな? この場を借りて、心より御礼申し上げます。
船ならぬ神社を求めて彷徨ったわけか。しかし、数年後にボートに乗せていただけたと。毛利元就公と三人のご子息を尊敬しておられる廿日市の先生ならではのご配慮だ。海よりも深く山よりも高い元就公のご仁徳のたまも……
お前、本当にいい加減にしたらどうなんだよ? 廿日市の先生や船長さんが毛利元就を尊敬しているかどうかと、ボートの件に何の関わりが? 廿日市の先生は確かに毛利元就贔屓のところがあるけど、少なくとも包ヶ浦神社は、毛利元就ゆかりの地ではないだろ? 宮島観光の人たちには外国から来た人も含まれているんだよ。それらの人たち全員が毛利元就び……
包ヶ浦は「上陸地点」だ! 元就公がこの神社に参詣しなかった理由がないだろう。
(そう言えば、この神社の創建年代って不明だよね? 全然書いてなかったことに気が付いた……。厳島合戦時点で存在していたんだろうか。観光案内版もないし、『宮島本』にも年代については書いていませんでした)
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みやじま・えりゅしおん
宮島旅日記のまとめページ(目次)です。厳島神社とロープーウエーで弥山頂上は当たり前。けっしてそれだけではない、宮島の魅力をご紹介。海からしか行けない場所以外は、とにかく隅々歩き回りました。宮島の魅力は尽きることなく、旅はなおも続きます。
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厳島神社境外摂社&末社
世界文化遺産・厳島神社の摂社・末社合計二十五社の一覧表。摂社、末社、外宮、境内社などの用語解説。三翁神社についての説明と、そのほかのすべての神社への歴史、観光情報、所在地アクセスについてがわかるページへのリンクを掲載。
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