
今回は、宮島の浦々の神社を巡る「御島巡り」のトップバッターにあたる「第一拝所」、杉之浦神社についてご案内いたします。浦々の神社には珍しく、桟橋から普通に歩いて来れてしまいます。その意味では、どなたでもお気軽にご参詣できる神社さまとなります。
とはいえ、桟橋からはかなりの時間歩くことになるため、限られた時間で多くの場所を訪れたいと望む方にとっては難しい選択を迫られることになります。その問題も含めまして、杉之浦神社への参詣方法、みどころなどをお伝えします(訪問回数1回)。
広島県廿日市市宮島町の杉之浦神社とは?
宮島の浦々の神社のひとつであり、厳島神社の末社です。「御島巡り」では最初に訪れる神社であり、文字通りの「第一拝所」です。
浦々の神社には、海からしか行くことができず、参詣も海上からとなる神社も多い中、こちらの神社さまは桟橋から歩いて行くことが可能です。その意味では、どなたでも、いつでもご参詣可能であり、たいへん有難い神社さまです。
杉之浦神社・基本情報
ご鎮座地 廿日市市宮島町
御祭神 底津少童命
主な建物 社殿(拝殿付き)、鳥居、灯籠、
(参照:『宮島本』、建物は目視、ご鎮座地は Googlemap)
杉之浦神社・歴史と概観
「御島巡り」の「第一拝所」
「御島巡り」の際、一番最初にご参詣する神社です。朝一番にご神職ご同道の御師船に乗って出発した一行は、まずは杉之浦神社に上陸して、お祓いを受けます。上陸してご参詣となる神社には、ほかにも、青海苔浦神社と須屋浦神社がございますが、これらの神社はいずれも立派な拝殿付きです。ご本殿のほうは、海上から参拝する神社とほぼ同規模です。
杉之浦神社の大きな特徴は、桟橋から歩いて行くことができるという点です。青海苔浦神社もその点は同じなのですが、桟橋からはあまりにも遠く、途中で山道を通ることになります。その意味では、普通に車道を歩いて行ける杉之浦神社はご参詣しやすいといえます。ただし、徒歩で行くとなりますと、かなりの時間がかかります。普通に歩いて45分かかりました(所要時間には個人差がございます)。車道がついているという利点を活かして、タクシーで向かうこともひとつの手です。
ただし、杉之浦神社単体でご参詣してしまうと、七浦をすべて巡りたいと考えておられる方にとっては中途半端になります。他の神社には、徒歩で行けない場所が多いですので。いずれ、海上からすべて回りたいと予定しているのなら、その時まで、ご参詣はお預けにするのもよいかも知れません。
御祭神・底津少童命
杉之浦神社の御祭神は、底津少童命(そこつわたつみのみこと)という神さまです。底津少童命は、底津綿津見神と表記することもありますが、同じ神さまです。中津綿津見神、上津綿津見神とともに、「綿津見神三神」の一柱に数えられます(参照:日本 神さま事典)。「綿津見神三神」については、山白浜神社の項目で説明しましたので、繰り返しません。⇒ 関連記事:山白浜神社
宮島の周辺を取り巻く浦々の神社のひとつゆえ、御祭神も海の神さまなのですね。
杉之浦開拓の歴史と周辺の観光資源
杉之浦神社は、ほかの浦々の神社のように海上からしか参拝できない場所にご鎮座されてはいません。普通に徒歩で行ける場所、それも桟橋から車道が続いている場所にございます。海上からしか参拝できない神社の場合、まるで海に浮かんでいるかのような雰囲気ですので(実際には宮島島内にあるわけですが)、ご鎮座地は前は海、背後は手つかずの地(岩の上にご鎮座されているケースも)となっています。
杉之浦は利便性が高い場所であることから、古くから開拓が進みました。それゆえに、立派な道路も開通しているわけです。『宮島本』は、開拓の歴史について詳しいですので、ご参照してみます。
杉之浦の歴史
明治十一年(1878) 農作地としての開拓が始まる
明治三十年代(1897~) 日露戦争への備えとして、五日市から杉之浦沖へ向けて射撃訓練が行なわれる。また、魚雷試験も実施された
明治四十三年(1910)代~ 海水浴場が作られ、「夏の行楽地」となる
参照:『宮島本』
射撃訓練とか魚雷試験とかお読みするとぎょっとしますが、基本は農作地として開拓されたことがわかります。開拓が進んだ後は、海水浴場もでき、人々の憩いの場所となっていた模様です。
現在は、厳島神社が世界遺産となったゆえにか、皆さま桟橋から杉之浦神社とは反対方向に向かっておられます。夏にお伺いすれば、海辺で楽しんでいる方々をお見かけする機会もあるかもですが、今のところ観光客が倍増するであろう夏は避けている状態ですので、それらの賑わいを目にしたことがありません。
なお、杉之浦には「金岡水」や「世界遺産貢献の森林」といったみどころがあります(参照:『宮島本』)。金岡水については、洞雲寺のところに金岡用兼が得た名水として、金岡水がございました。杉之浦の同名の水と、洞雲寺のそれとは水脈がつながっているという伝説があります。⇒ 関連記事:洞雲寺
じつは、宮島の金岡水を未だに発見できておりません。杉之浦まではかなりの距離があるため、なかなか辿り着けないという事情もあり、毎度毎度次回の宿題となっております。「世界遺産貢献の森林」というのは、お名前から何となく想像はできますが、こちらも未見です。観光案内所でご教授願い、まとめて見学したいと考えています。
杉之浦神社からさらに歩いて行くと、厳島合戦で毛利軍の上陸地点となった包ヶ浦に着きます。しかし、包ヶ浦神社には、陸地から行くことができませんので、神社ご参詣の方はここで終了してください。合戦史跡を巡っている方はなおも進み、毛利軍上陸の記念碑をご覧ください。⇒ 関連記事:包ヶ浦、包ヶ浦神社
杉之浦神社・みどころ
杉之浦までは、普通に車道がついておりますので、あまり風光明媚な道のりでもありません。途中から視界に海が入るようになってくると、趣は一変しますが。神社は厳かで立派です。
杉之浦への道
桟橋から歩き続けて、杉之浦神社のやや手前まで来た付近の車道です。ここまで来れば、神社はすぐそこです。左手に海、正面には山と、なかなかに風情があります。
拝殿
大きくて立派な拝殿です。御島巡りの皆さまは、こちらでお祓いを受けるのでしょうか。浦々の神社は本殿だけのものが多いですので、堂々としたお姿に圧倒されます。
社号額
達筆の社号額。青海苔浦神社と同じ方の手になるものでしょうか。
本殿
立派な鳥居です。ご本殿はほかの浦々の神社と同じくらいの大きさでした。厳島神社本社と同じ朱色尽くし。
杉之浦神社(廿日市市宮島町)の所在地・行き方について
ご鎮座地 & MAP
ご鎮座地 廿日市市宮島町
(※Googlemap にあった住所です)
アクセス
桟橋から歩いて行くことができます。しかし、徒歩で向かうと時間がかかりすぎますので(およそ45分。所要時間には個人差がございます)、タクシーを使うことも視野に入れる必要があります。車利用ならば、腰少浦神社までの道なりの神社すべてにご参詣可能となり、お得です。ただし、浦々の神社すべてを見ることはできませんので、目的によっては却って無駄な道行きとなります。なお、宮島はタクシーの数が限られております。タクシー乗り場に行けばすぐに乗れるというわけには参りません。基本は皆さま、厳島神社と弥山登山が中心となると思われ、その範囲ではタクシーを使う人はあまり多くないとは思われますが。
参照文献:『宮島本』、『日本 神さま事典』
杉之浦神社(廿日市市宮島町)について:まとめ & 感想
杉之浦神社(廿日市市宮島町)・まとめ
- 厳島神社の末社で、浦々の神社のひとつ。「御島巡り」の「第一拝所」でもある
- 「御島巡り」の際、参詣者はまず、上陸して杉之浦神社でお祓いを受ける
- 「御島巡り」で上陸するイベントが行なわれる神社には、大きな拝殿が併設されているのが普通。杉之浦神社にも立派な拝殿がある
- 浦々の神社の中では珍しく、桟橋から歩いて行けてしまう。ただし、かなりの距離があり、歩くのが辛いと思う方には安易におすすめできない
- ご鎮座地の杉之浦は、明治時代から開拓が行なわれ、農地が作られた。やがては海水浴場もでき、「夏の行楽地」となった。そのいっぽうで、日露戦争に際して、五日市から杉之浦沖に向けて射撃訓練が行なわれたり、魚雷試験が実施されるなど、平穏な現在の姿からは想像できない歴史もあった(参照:宮島本)
- 御祭神は「綿津見三神」の底津少童命で、典型的な海の神社
- 杉之浦からさらに歩いて行くと、包ヶ浦に至る。ただし、包ヶ浦神社は陸地から見ることはできない
正直なところ、神社巡りのために歩くのはここまででやめておくのが無難です。この先、包ヶ浦まで行きますと毛利軍上陸碑がありますので、厳島合戦の史跡を回っている人は杉之浦まで来たのなら、もうひと息頑張りましょう。しかし、包ヶ浦神社を見ることはできませんので、神社巡りの方にはこれより先に行くことは辛いだけです。包ヶ浦よりさらに前進すれば、鷹巣浦神社と腰少浦神社にご参詣できますし、なおも頑張れる方でしたら、青海苔浦神社までも行けます。しかし、包ヶ浦神社を飛ばして行くことになりますから、結局はいずれ宮島観光協会さまの観光船に乗って、浦々の神社にすべて参詣すると徒歩で訪問済みの所とダブってしまいます。
もちろん、同じ神社に何度参詣しても問題はないですし、観光船では上陸しない場所もありますので、陸地から向かうことも無意味ではありません。包ヶ浦から先の包ヶ浦自然歩道はまさに風光明媚な道のりですし、徒歩で行く楽しみは多いです。その辺りはお好みで、となります。
なお、宮島のタクシーですが、以前地元のガイドさまから、島内にタクシーは三台しかないというお話をお伺いしました。観光客の方が激増している中、台数が増やされた可能性もありますが、運行時間は短縮されています。全国どこの自治体でも、路線バスの本数が減らされるといった現象は起こっています。宮島ほどの観光地でもそうなのかと愕然としました。この情報は202405訪問時のものですので、その後変更された可能性はありますが。タクシー利用を検討されている方は、渡海後すぐに、運行時刻を確認したほうがよいです。その時にタクシーが止まっていたら、迷わず乗りましょう。車ならば、杉之浦神社まであっと言う間です。ご参詣中も、タクシーには待っていただく必要がありますので、あまりまったりしている余裕はないですが。
常に歩ける範囲は徒歩で行ってしまいます。それが経済的であるのが第一の理由ですが、ほかにも歩いてみないと感じ取れない現地の空気感のようなものがあります。でも、最近は少し考え方が変ってきました。タクシー代金は確かに安くないですが、行き帰り数時間かけてひとつの場所に行くよりは、一度に何箇所もの観光資源を訪問するほうが、はるかに経済的です。翌日まで続く疲労などを考えても、まる一日歩いていたというような、無茶苦茶な予定は好ましくありません。ただし、空気感の問題は、タクシー利用だとまったく味わえません。けれども、タクシーや公共交通機関が充実している場所というのは、普通に都会化されており、周囲の景色はどこも同じという寂しい現実もあります。歩くべきか車を使うかの分かれ目はこちらかと考えます。杉之浦までの道は、ほぼ普通の車道です。海が見えてくれば、それなり風光明媚と感じられますが、海なんて珍しくもない、という方にとっては歩く意味はほぼないと考えます。神社に到着してから、付近の海を眺めればすむお話かと思います。ご参考になれば幸いです。
こんな方におすすめ
- 厳島神社の摂社・末社を極めたい方
- 浦々の神社すべてに参詣したい方
オススメ度
(オススメ度の基準についてはコチラをご覧くださいませ)

歩け歩けのミルにしては、珍しい感想だね。常に歩き疲れていた俺としては有難いけど。

宮川甲斐守腹切岩まで歩いた一件で、地元のガイドさんから教わったから。あの時は、さすがにボロボロになったもん。普通、歩ける距離ではないって。

すでに歩いてしまった後で気付いても、もう遅いけどね……。俺もぶっ倒れたのを覚えている。

中国山地の山々に抱かれた道を行くのは、気分最高だったんだけど。でも、正直なところ、どんだけ歩いても同じ景色だったから、せめて疲れ果てた帰り道はタクシー拾いたかった……。

そうそう。だけど、拾いたくてもタクシーなんて通っていなかったんだよね。バス停もあったけど、バスを見かけることもなくて。今はスマートフォンアプリでタクシーを呼べてしまう時代だけど、あの道でどうやって呼ぶのか考えているより、歩いたほうが早かった。ま、これからは、贅沢三昧貸切りタクシー旅で頼むよ。

費用対効果の問題だからね、君。贅沢三昧とは違うよ。条件に合うところはこれからも歩き続けます。
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みやじま・えりゅしおん
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