龍豊寺

『陶弘護肖像賛』で有名な肖像画を所蔵していたのがこのお寺。
この掛け軸(肖像画)があったということ、そして、奥方が、弘護の菩提を弔うために建てた寺院である、ということ以上の情報は少ない。
実は、東側に墓地があって、そこにもたいへんに貴重なお宝があるのだが。

文化財としての掛け軸のほうだけが、独り歩きして有名になってしまっており、自治体サイト様でも、探せるのはお寺というよりも、掛け軸のほうだったりする……。

しかし、ここは陶家一の猛将・陶弘護の菩提寺であるということ、肖像画は彼のものだということ、忘れてはいけない。
ついでに、あの画像は本人には似ていない。当時の肖像画というのは皆、そうである。
文化的価値は高いだろうが、写真と勘違いしてはいけないのだ。
若くて、強くて、美男で、聡明で……不幸な死に方で早死。
これ以上世の女性を狂わせる人物もいない。

寺自体は、とても素敵。のどかでゆったりと時が流れている。

入り口に「葷酒山門に入るを許さず」とある。

「ニンニクやニラ、生臭い肉や魚、そしてお酒を寺に持ち込むな、修行の妨げになる」という意味で、禅宗の寺院には必ず書いてある。
教養深い知人からの受け売り。知人の解説によれば、「僧侶たちは「般若湯」などと言って内緒でしこたま飲んでいましたし、兎なども鶏に見立てて「一羽、二羽」と数えていました。ズルイですよね。鳥は「肉」ではなかったのです」、と。

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なるほど、この文言、禅宗寺院の入り口には必ずある。持つべきものは教養人の友。
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誰なんだよ? 妖怪に友なんているはずないじゃんか。俺でも良かったら、なってやってもいいぜ、なんて……。あ、聞いてないし(涙)

寺院の由来看板は、入り口付近にある。これがないと、とんでもない重要なお寺だということに気が付かない方も多かろう。
そもそも、周囲ものどかな田園風景で、わざわざ訪れる観光客はそう多くないような。どちらかというと、地元に根付いた寺院の印象。
むしろ、ピンポイントでやってくるマニアックな人はいるかも。
寺院の外に看板があるため、きちんと読めば入ってみる気になると思われるのだが。ただし、この寺院を有名にしている肖像画を見るためなら、美術博物館を目指すべきなので、ここは、陶愛が限りなく深く、多分に空想の翼を広げられる方限定ご接待寺院。該当者ならたとえまる一日いても飽きないはずだが、地元の方々にご迷惑をかけることなきように。

石段


なお、当寺の石段はとんでもなく多く、山門までが遠い。いきなりぎょっとなるが、きちんと手すりがついており、足元が心許ない方でも安心。さすが義の人、弘護様の寺院。参拝者にも優しい作りなのだ。

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最新、バリアフリー寺院♪

陶弘護像

隆房の祖父・弘護の肖像画についての「国指定文化財」看板。
肖像画じしんが、室町時代から現在まで保管されていた貴重な文化遺産であると同時に、そこに記された「賛」が重要。
陶一門の起こりから、弘護の功績の数々を記しているが、史料的内容が極めて高い。
現在肖像画の実物は寺内にはないが、美術博物館に行けばレプリカが常設されている。遠方の方は、web上でも博物館のホームページなどに画像があったはずだ。
なお、肖像画は雪舟の筆とされる。
現在、掛け軸は寺を離れて、博物館に移された。実物を拝める機会はごく限られると思われるけど、レプリカは常設されているので、美術博物館へ急ごう。

肖像画が極めて貴重なものであることは重々承知ながら、弘護様がこんな容貌であったはずはない。飛鳥時代の美人画と同じような理論で、この時代の肖像画は皆、同じようなもの。
「かく描くべし」という型のようなものがあったと思われる。
イケメン過ぎる弘護様にこのおっさん画像がそうです、と言われたら、世の中の彼のファンは全員ショック死確実かと……。

なお、肖像画に書き込まれた「肖像賛」もたいへんに貴重なものであり、史料的価値も高い。

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_・)チラリ
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ん? あれ、今誰かここにいた?
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俺以外いないよ。
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そうだよね……。

建物はすべてメンテナンスがなされていて新しく、室町時代から続いていたのは、恐らくは「掛け軸」だけなのではないかな。まあ、それだけで、とんでもなくものすごいことなのだが。
何しろ、情報が少ない。掛け軸が残っていたこと、お寺そのものが残っている(元の建物ではないにせよ)ことからして、本当に貴重な場所。

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そもそも、日本は木造建築だから、建物は普通に燃えるし、壊れる……。
現在の建物が新しいから、歴史がないとは言えないんだよ。定期的なメンテナンスを続け、現代まで守り伝えてきた方々がおられる、それがとっても素晴らしいことなんだよ。
そう思うと、昭和だの、平成、いや令和何年の再建であっても愛おしく思えるよね。
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で、冒頭で言ってた墓地にある「お宝」って何?
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海印寺のところで話したじゃない。君の伯父上の供養塔があるんだよ。
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二か所もあるのか。羨ましいね。


季節外れの雪がちらついていた。
運が悪いというべきか。
いや、これは涙雨、ならぬ雪。
これだけの深い思い、通じないはずがないのだ。

初出:2020年4月15日 周防山口館「陶氏ゆかりの寺」改編