今回は浦々の神社のひとつ、養父崎神社についてご案内いたします。八百万の神さまといわれるくらい、日本の神さま方には実に多くの方々がおられます。お祀りされているのは、動植物だったりすることもございます。動植物!? と驚かれる方もおいでかも知れませんが、案外多いように感じます。養父崎神社のご祭神も一風かわっております。でも、厳島神社の末社であることを考えれば、特に意外ではないと思われます。
さて、いったい、どのような神さまがお祀りされているのでしょうか。(訪問回数1回)
広島県市廿日市市宮島町の養父崎神社とは?
宮島を取り囲むようにしてご鎮座されている浦々の神社のひとつです。厳島神社の神使・神鴉さまをお祀りしています。七浦には数えないものの、「御鳥喰式」が行なわれる神社さまとして著名です。
岩だらけの地にご鎮座されており、社殿に近付くのは困難ですが、「御鳥喰式」も海上で行なわれることを考えると、海からの参拝でかまわないと思われます。
養父崎神社・基本情報
ご鎮座地 廿日市市宮島町
御祭神 神鴉
主な建物 鳥居、社殿
(参照:『宮島本』、建物は目視、ご鎮座地は Googlemap にあったもの)
養父崎神社・歴史と概観
佐伯鞍職を導いた神鴉
浦々の神社を巡り、女神さま(市杵島姫命)のお住まいに相応しい場所を探した佐伯鞍職。鞍職を現在の本社ご鎮座地に導いたのが、神鴉とされています。神鴉と書いて「おがらす」とお読みします。「おがらすさま」とお呼びすることを忘れないようにお願いいたします。
神鴉さまは厳島神社の「神使」として、とても重要であり、貴い存在です。絶対にそこらのカラスと同一視してはなりません。カラスは極めて知能が高い鳥として知られており、それゆえにゴミ捨て場を漁ったりするため、全国の自治体は頭を悩ませています。ゴミ問題とカラスのそのような習性が社会問題化したのは現代になってからです。古代にはゴミ問題が存在しなかったかどうかはわかりません。しかし、カラスをそのような厄介者扱いする考え方は往時はなかったのではないでしょうか(個人的見解です)。
カラスを神使としたり、お祀りしている神社さまは厳島神社だけではありません。熊野権現の八咫烏などは有名です。とても神聖な生き物という考え方があったのです。
厳島神社の伝説で、佐伯鞍職を導いたとされる神鴉は、養父崎の沖に現われたことになっています。粢団子を咥えて鞍職の舟を先導し、脇浦(有の浦の西部) 付近で姿を消しました。このことから、鞍職は女神さまの意図を察し、この場所に社殿を建立することに決めたのです。
神鴉さまは、出現なさった場所にお祀りされている、ということになります。
「御鳥喰式」と神鴉
神鴉さまをお祀りした養父崎神社の海上に、弊串と粢団子をお供えし、祝詞の奏上と笛の演奏を行ないます。すると、神鴉さまのつがいが姿を現し、団子を咥えて神社に運んで行きます。この一連の流れを「御鳥喰式」とよびます。
何とも神秘的な行事ですが、素朴な疑問として、本当に都合良く神鴉さまが現われるのだろうか、というものがあります。最初は、笛の音にあわせて飛来するよう、訓練された鴉が飼われているのかと誤解しました。鴉は知能が高い鳥ゆえに、そういうことも可能なのかと考えてしまったのです。しかし、決してそのような訓練された鴉などは存在せず、本当にごく自然に神鴉が飛来します。
疑り深い方は、そんなに都合良く、思い通りにいくはずがないと思われるかも知れません。神聖な行事に対してなんたることを言うのだとなりますが、ご想像の通りです。実際に行事が成功裡に終了せず、困ってしまった例について、『棚守房顕覚書』にも記述がございます。
天正九年二月条に以下のように書かれているのです。
「然レバ、二月以来島廻ハ五ヶ度、四月ニモ執行ストイヘドモ、鳥喰一度モ上ラズ」云々
「當社ノ神秘多々アリトハイヘドモ、 彼ノトクヒハ取り分ケ、御神秘ノ故、房顕、同五月十六日ニ島廻ヲ申ス處二、烏ハ二羽、ヤブサキノ社頭廻リ二渡リ候ヘドモアガラズ候間、色々立願ドモ、七浦ノ社、午王十社、百韻ノ連歌、速田ノ御供、進宮ノ願書ドモ仕り候テ祈念申ス處ニ、先例ノ如ク、ハルカノ海上ニトグヒ上り申スノ條、上和、當島安堵ス」云々
要するに、何度か儀式が行なわれましたが、一度も成功しなかったのです。最後は、房顕さん自らが執り行いましたが、神鴉は飛来したもののやはり成功せず。あれこれ祈願したところ、漸く成功させることができ、関係者一同はほっと一安心できたのです。
神鴉さまがおいでになるところまでは上手くいっても、きちんと団子を運んでくれないなど、長の年月の間、様々なことがあったと思われます。むしろ、上手くいくほうが不思議で、それこそ神秘的です。でも、常に成功しないとなったら、行事そのものが廃れてしまうでしょうから、成功する確率のほうが高いのではないかな、と思いました。
養父崎神社・みどころ
佐伯鞍職と神鴉さまの伝説に心引かれる人は、ぜひとも訪れなければならない神社さまです。規模や社殿のお姿などは、ほかの浦々の神社と相違ないです。ただし、ご鎮座地が岩だらけあることに驚かされるかもしれません。
遠景
ご覧ください。このごつごつした岩。神鴉さまならぬ参詣者は、空を飛ぶことができませんので、これらの岩を越えて行かなければ、社殿に近付けません。足場は悪そうですし、どこぞに隙間でもあれば海に落ちそうにも思えます。
社殿
誠に残念ではありますが、上陸は諦め、スマートフォンのズーム機能で拡大した社殿の写真となります。「御鳥喰式」でも、海上にて団子を投じ、笛を奏でるわけですから、海上からの参拝で許されるでしょう。と言い聞かせながら、名残惜しくもこの場を離れました。
養父崎神社(廿日市市宮島町)の所在地・行き方について
ご鎮座地 & MAP
ご鎮座地 廿日市市宮島町
(※Googlemap にあった住所です。)
アクセス
海上からしか行くことができません。宮島観光協会さまの定期観光船の利用をおすすめします。定員がすぐにうまってしまいますので、早めに予約を入れる必要があります。詳細は協会ホームページに書かれています。
参照文献:『宮島本』、『棚守房顕覚書』
養父崎神社(廿日市市宮島町)について:まとめ & 感想
養父崎神社(廿日市市宮島町)・まとめ
- 浦々の神社のひとつ。七浦には含まれないが、「御島巡り」で「御鳥喰式」が行なわれる重要な場所
- ご祭神は佐伯鞍職を社殿建立に相応しい場所に先導したとされる神鴉。伝説では、この付近から鴉が現われ、厳島神社のご鎮座地まで導いたのち、姿を消した
- 「御鳥喰式」では、神社沖の海上で、団子をお供えし、笛を奏でる。すると、つがいの神鴉が飛来し、団子を咥えて神社に運んでいく
- 神鴉は式のために訓練されたりはしていないため、儀式の成功には運もある。『棚守房顕覚書』の時代から、儀式が成功しなかった例はあった
- けれども、基本は手筈通りに進行していくはずで、極めて神秘的な行事として貴重
神鴉さまがお祀りされているというだけで、そそられる神社です。残念ながら、とんでもない岩の集合体の上にご鎮座ましましておられるため、海上からの参拝となりました。かなりみっともないことになりますが、ひとつひとつの岩を這っていくように進めば、社殿に近付けないこともなさそうに思えます。しかし、神聖な空間で、そのようなことをするのも無礼かと思われ、年々アップするスマートフォン機種のズーム機能に任せました。
神鴉さまにかかわる貴重な行事は、大頭神社でも行なわれています(四鴉の別れ)。しかし、御鳥喰式同様、儀式はやらせではありません。つまり、いずれにおいても、神鴉さまがご降臨なさり、望み通りに団子を運んでくださるかは運次第なのです。神事ゆえ、本来ならば、必ず成功するはずです。しかし、棚守房顕さんも告白なさっているように、稀には上手くいかないこともあるのです。そんな風に考えると、御島巡りに参加し、御鳥喰式も無事に拝見して戻って来られた多くの参詣者たちは、どれほど恵まれた方々だったのかと羨ましくて仕方ありません。
都会はどこもカラスだらけですので、偶然にも飛来する確率はとても高いです。しかし、神の島・宮島でカラスを見かけたことは今のところありません(特に浦々の神社)。都会のカラスではなく、神鴉さまなので、めったに人前に姿を現すものではないのかも。お姿を見せてくださり、お団子を運んで行く現場に遭遇できたらどんなにか素晴らしいことでしょう。そう考えると、ちょっと離れるのが名残惜しい、そんな神社さまでした。いつの日にか、御島巡りに参加してみたいものです。
こんな方におすすめ
- 浦々の神社を極めたい方
- 厳島神社の摂社・末社を極めたい方
オススメ度
(オススメ度の基準についてはコチラをご覧くださいませ)
うーん。棚守房顕の時代にも、御鳥喰式が成功しなかった例はあったんだね。カラスの数は、現代のほうが圧倒的に増えていると思うんだけど……
こら、何を言うの! それは普通の都会のカラスでしょ。宮島の神鴉さまが「数が増える」とかないから。つがいでお勤めしていらっしゃり、役目を終えたら大頭神社でお子さまと交替して、熊野へ去って行かれるんだよ。大頭神社で学んだことを忘れてますね。
わかってるよ。神さまなんだから、超越した存在だよね。だけど、そうならば、儀式が成功しないことがあるのはなんでなんだろ?
不吉なことは考えない。きっと成功するよ。成功しない時は、何らかの理由があるみたいで。そこは神秘のベールに包まれているから、凡人にはわからない世界なの。
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みやじま・えりゅしおん
宮島旅日記のまとめページ(目次)です。厳島神社とロープーウエーで弥山頂上は当たり前。けっしてそれだけではない、宮島の魅力をご紹介。海からしか行けない場所以外は、とにかく隅々歩き回りました。宮島の魅力は尽きることなく、旅はなおも続きます。
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浦々の神社(広島県廿日市市宮島町)
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