厳島神社の摂社・末社は数えきれません。すべてにご参詣するには数年を要します。別にすべてを回る必要もないわけで、皆さまの心の中にある、お気に入りの神社を回ればそれで十分と思います。今回は、そんな中で、厳島神社本社とそっくりな朱色の大きな鳥居がある長浜神社についてご案内します。本当に瓜二つなので、偶然にも目にした方は驚かれると思いますよ。(訪問回数4回)
広島県廿日市市宮島町の長浜神社とは?
厳島神社の摂社です。管弦祭の時、本社に戻る御座船は、この神社のところで、祝詞をあげて管弦を奏します。浜辺に建てられた鳥居が、厳島神社の大鳥居にそっくりです。
なぜか、竈の神さまがお祀りされておりますが、相殿には所翁がおられます。ご由緒看板に、「漁業者の信仰が篤い神様」とのご案内がございます。残念ながら、創建年代は不明です。
長浜神社・基本情報
ご鎮座地 廿日市市宮島町
御祭神 興津彦命、興津姫命、相殿:所翁
主な建物 鳥居、社殿
例祭 十一月二十日
(参照:『宮島本』、現地案内看板、建物は目視、ご鎮座地はGooglemap)
長浜神社・歴史と概観
創建年代不明・竈の神を祀る神社
案内看板には、「御鎮座の年月は不詳です」と書かれております。管弦祭の時、重要な役割を果たしますので(後述)、ほかの創建年代不詳の神社さま同様、かなりの歴史があるのではないでしょうか。
御祭神の「興津彦命、興津姫命」がわからず。ご由緒看板に「竈の神」とあり、『日本 神さま事典』にも普通に記載がありましたが、なにゆえに竈の神なんだろう? としばし悩みました。『古事記』をペラペラめくってみましたら、似たようなお名前があり、解説に男女一対の竈の神と書いてくださってありました。このような場合、『日本書紀』記載のお名前のほうが、厳島神社摂社・末社と等しかったりするケースが多いので、探してみたのですが、今のところ見つけられておりません。
故其の大年神、神活湏毗神の女、伊怒比売に娶ひて生める子、大国御魂神。次に韓神。次に曽冨理神。次に白日神。次に聖神。五の神。また香用比売に娶ひて生める子、大香山戸臣神。次に年御神。二柱。また天知迦流美豆比売に娶ひて生める子、奥津日子神。次に奥津比売命7、またの名は大戸比売神。此は諸人の以ち拝く竈の神ぞ。
7 竈の神。男女一対になっている。
出典:中村 啓信. 新版 古事記 現代語訳付き (角川ソフィア文庫) (p.96). 角川学芸出版. Kindle 版.
奥津日子神=興津彦命、奥津比売命=興津姫命ということで問題ないと思われます。『日本 神さま事典』での記載も、長浜神社と同じでした。
「津」という文字が入っていることから、海に関わる神さまかと想像してしまったのですが、さにあらずでした。海すなわち水ですが、竈の神さまですので、火と関係が深いです。これはかなり意外でした。摂社になっていることから、厳島神社とゆかりが深いと思われるのですが、宗像三女神と竈の神との関係もよくわかりません。
あるいは、相殿に所翁さまがおられるから? とも考えましたが、メインは竈の神さま方のほうなわけで。やはり、ガイドさんのお導きがないと辛いですね。
管弦祭で御座船が管弦を奏でるところ
長浜神社は、厳島神社の管弦祭と大いに関わりが深い神社です。地御前神社から戻ってきた御座船は、こちらの神社の前で祝詞をあげ、雅な演奏が行なわれるのだそうです(参照:『宮島本』)。
厳島神社の大鳥居にそっくりな朱色の大きな鳥居が浜辺にあるところからして、心惹かれます。厳島神社の摂社・末社の中でも、雰囲気が本社にそっくりなのがこちらです。ご本殿は似ておりませんが、鳥居が。しかも、管弦祭の時、その麗しい鳥居のあるところで雅楽が演奏されるなんて。
『宮島本』に、興味深い記述がございました。現在この辺りは埋め立てられて景観が変ってしまったものの、元は「白砂青松」の浜だったそうです。その名も「八重の浜」とか。確かに、現在そのような雰囲気はまったく留めておりません。漁業関連の方の信仰が篤い、と御由緒看板にも書かれているのですが、そこも「?」です。竈の神だよね? と。ところが、当時は、漁業に使う網などを干す場所だったとか。まったくそのような面影はございませんが。日々生活する中で火は欠かせません。漁業=航海安全と単純に考えてしまいますが、付近にお住まいの漁業者の方々の信仰は、そんなところから来ていたのかも知れません。
長浜神社・みどころ
なんといっても、鳥居です。今は皆さま、本社の大鳥居に夢中になっていますが、麗しい鳥居はここにもございます。
鳥居
ご覧ください。どうみても、大鳥居そっくりです。じつは、こちらは裏側から拝見しております。表からですと、背景に海が入らないためです。
少し離れて見るとわかりますが、道路のすぐ傍といった位置関係になっています。これは、恐らく満潮時に撮影したものかと思います。
社号額
青海苔浦神社などと同じ方の手になるもののように思われます。
社殿
社殿は厳島神社のように海に浮かんではおりません。浦々の神社のような小さなお社ではなく、さりとて、大元神社のような大きな社殿でもなく。中規模とでもいうべきでしょうか。ご覧のように、社殿の木造部分はかなりの年代が経過していると思われ、最近再建されたものとは思えません。創建年代、その後の再建の歴史など、何とかして知りたいものであると感じました。
「長浜神社
厳島神社摂社
御祭神 興津彦命、興津姫命
相田 所翁
由緒 御鎮座の年月は不詳です
御本社管弦祭の時この
神社の前で雅楽が演奏
されます 漁業者の
信仰が篤い神様です
例祭 十一月二十日」
(看板説明文)
長浜神社(廿日市宮島町)の所在地・行き方について
ご鎮座地 & MAP
ご鎮座地 廿日市市宮島町
(※Googlemap にあった住所です)
アクセス
桟橋から、厳島神社とは反対方向に向かいます。たいした距離ではないのですが、厳島神社とは反対方向に向かうことは少ないと思われることから、見落としがちです。なお、反対方向に進んで行くと、右手のほうに、包ヶ浦自然公園に続いている車道が現われますが、そこで右折しないようご注意ください。桟橋から道なり、海沿いにご鎮座されています。
参照文献:『宮島本』、『古事記』(現代語訳)、『日本 神さま事典』
長浜神社(廿日市宮島町)について:まとめ & 感想
長浜神社(廿日市宮島町)・まとめ
- 厳島神社の摂社。創建年代は不明
- 管弦祭の時、戻って来た御座船が祝詞をあげ、楽を奏でるところ
- 御祭神は竈の神さまと、所翁(相殿)。漁業関係者の方の信仰が篤いという(由緒看板)
- 浜辺に建つ朱色の鳥居が、厳島神社本社の鳥居によく似ていることが最大の特徴
- 付近の浜は、かつて「八重の浜」といわれる白砂青松の浜辺だったが、現在は埋め立てられ景観が大きく変ってしまったという(『宮島本』)
- ご鎮座地が、桟橋から、厳島神社とは反対方向にある。そのため見落としがちだが、さほど距離もないため、ぜひとも立ち寄っていただきたい神社のひとつ
とにかく、鳥居が本社の大鳥居にそっくりという一言に尽きます。大鳥居が修復工事中だった時期、海に浮かぶこの鳥居のお姿を見て、ん? 大鳥居はここに場所を移して工事しているのか? ととんだ勘違いをしてしまったくらいです。そのくらい似ています。付近を歩いていて、この鳥居を見落とす方はまずおられないはずですが、厳島神社本社とは反対方向に歩いて行かないと辿り着かないことから、意図して向かわねば存在に気付きません。たいした距離ではないですので、お時間があればぜひご参詣ください。
御祭神が竈の神さまということにびっくりしました。厳島神社の摂社・末社はいずれも海関係だと思っていましたので。鳥居は浜辺にございますが、ご本殿は陸地にご鎮座されておりますので、別に海の神さまである必要もないのですが。ここしばらく、御祭神にも注意しながら記事を書くようにしております。ということは、これまで多くの摂社・末社を回りつつ、御祭神がどなたかも知らなかったのか! とお叱りを受けそうですが、日本の神々は八百万の神々といわれているくらいですので、とうてい覚えきれません。御由緒を拝見しても、その場ですぐに何の神さまかわかる例は少ないです。地元の方々はご存じでも、旅行中にふと立ち寄った神社にお参りして、見たこともない神さまの名前が書いてあるとお手上げです。
神さまのプロフィールとそのご利益を知れば、やみくもにご参詣した神社の数を競ったりすることなく、自らの願い事に相応しい神社さまを選んでご参詣できます。少なくとも、縁あってご参詣したところについて後からでも学んでいけば、知識は増えていくと思われます。そんなことを感じるこの頃です。
こんな方におすすめ
- 厳島神社の摂社・末社を極めたい方に
- 海に浮かぶ鳥居がお好みの方に
オススメ度
(オススメ度の基準についてはコチラをご覧くださいませ)
ミルがさ、なるほど、修理のために大鳥居はここに移されているんだ、と言った時、俺は言葉を失った。本人が恥ずかしいことを自白しているから、もう時効ってことだろう。
だって、写真で見た大鳥居にそっくりだったんだもん。君だって満更でもなかったじゃない?
(相変わらず恥ずかし過ぎる連中だ。見ざる言わざる聞かざるで行くしかあるまい)
お前、また俺たちを馬鹿にしていだろう? 長浜神社にお参りしてから出直して来い。そもそも、出て来なければいいじゃないか。
じつは友達になりたかったりして。
御免蒙る
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みやじま・えりゅしおん
宮島旅日記のまとめページ(目次)です。厳島神社とロープーウエーで弥山頂上は当たり前。けっしてそれだけではない、宮島の魅力をご紹介。海からしか行けない場所以外は、とにかく隅々歩き回りました。宮島の魅力は尽きることなく、旅はなおも続きます。
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厳島神社境外摂社&末社
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