広島県廿日市市大野の大頭神社とは?
推古天皇11年(603)に創建されたとされる、たいへん由緒ある神社です。厳島神社の摂社だったとされ、厳島神社の創始者・佐伯鞍職がご祭神となっているほか、御烏喰式の主人公である御烏ゆかりの「四鳥の別れ」という特殊神事でも有名です。
神社の裏手には景勝地として有名な妹背の滝があり、門山城の登山道に向かうにも神社の境内を抜けて行く必要があるなど、神社さまそのものはもちろん、ほかにも多くのみどころと関連があります。
大頭神社・基本情報
ご鎮座地 〒739-0488 広島県廿日市市大野 5357
御祭神 大山祇命、国常立命、佐伯鞍職命
社殿 幣殿、拝殿
主な建物 神楽殿、御供所、社務所、参集殿、鳥居
境内社 神烏神社、荒神社、稲荷社、金比羅社、祇園社、大社、天神社
境外末社 大田社(御祭神:酓隹山祇命、廿日市市大野塩屋)、三槍社(御祭神:葉山祇命 廿日市市大野三鎗谷)、椎宮神社(御祭神:中山祇命、廿日市市大野中山)、原神社(御祭神:奥山祇命、大竹市栗谷町奥谷尻)
主な祭典 例祭(10月第4日曜日)
特殊神事 四鳥の別れ
ホームページ https://ogashira.jp/
(参照:神社さま公式 HP、目視)
大頭神社・歴史
創建は推古朝
推古朝に創建された神社はじつに多いですね。あまりに古すぎて正確なところはわからないというのが真実だと思いますが、創建年代は推古天皇11年(603)となっています(参照:神社さまホームページ)。推古天皇11年と聞いただけで、琳聖太子来朝と同じ年だ! と妙に心がざわめいてしまいました。ともに伝承の域は出ませんが。しかし、琳聖とはまったく関連するところがなく、厳島神社と深いゆかりのある神社さまです。
何しろ、御祭神に、厳島神社の創建者・佐伯鞍職さんが祀られておられますので。それだけではなく、七浦巡りと御喰式にも深いかかわりがございます。それについては後述します。
神社さまのホームページに書かれた御由緒がとても興味深いものでした。『日本書紀』に出てくる伊奘諾尊の物語とかかわりがあるのです。
伊奘諾尊は軻遇突智命を五つに斬ってしまわれた。 これらがそれぞれ五つの山祇と化った。 第一は首の部分で、 これが大山祇に化身した。 第二は身中の部分で、 これが中山祇に化身した。 第三が手の部分で、 麓山祇に化身した。 第四 は腰の部分で、 正勝山祇に化身した。 第五は足の部分 で、 䨄山祇に化身した。 このときに、 斬った血がそそいで石や 礫や樹や草を赤く染め た。
出典:井上光貞. 日本書紀(上) (中公文庫) (Kindle の位置No.1734-1741). Chuokoron-shinsha,Inc.. Kindle 版.
なんだかおどろおどろしいですよね。なぜ、伊奘諾尊さまは軻遇突智命を斬ってしまわれたのでしょうか? 伊奘諾尊の奥方は伊奘冉尊であることは周知の通りです。このお二人から数々の神々が産まれたわけですが、伊奘冉尊は火の神・軻遇突智命をお産みになった際、火傷を負い亡くなってしまいます。伊奘諾尊は軻遇突智命を出産したせいで、愛しい妻を亡くすことになってしまった、と恨みに思われたのですね。五つに切り刻まれてしまった軻遇突智命でしたが、そのそれぞれがまた、神さまとなりました。
大頭神社さまの御祭神は大山祇命です。軻遇突智命の頭部が変化した神さまですね。大「頭」神社さまのお名前はここから来ていると言われており、四つの境外末社はそれぞれ別の部分から変化した神さまを御祭神としている、ということです。
ほかにも、これら末社の神々は大頭(頭部?)の分身という説もあるようです。要するに諸説あるということですね。
神烏神社と四烏の別れ
神烏神社の御祭神は神鴉の御霊です。神鴉が御祭神と聞くと、思い出されるのは厳島神社の浦々の神社の一つ、養父崎神社です。この神社は「御鳥喰式」の神事が行なわれる場所です。神鴉が現われて粢団子を咥えて養父崎神社に運んでいく、というアレです。
実は七浦巡りをして、厳島神社の建築場所に導いた神鴉は熊野から来たようですね。その子孫が延々と現在まで廿日市の地に住んでいるのです。神鴉は親子四羽おり、親鴉は無事「御鳥喰式」を終えると、その役目を子鴉へと受け継ぎ、熊野に帰っていくのだそうです。神鴉親子の子別れの儀式を「四鴉の別れ」と呼び、毎年大頭神社の例祭に際して行なわれる特殊神事となっているそうです。
厳島神社の神事もそうですが、烏はただの烏ではなく、神鴉とはいえ、言葉は通じません。そのため、神事に合せてちょうどよく、烏が姿を現し、望み通りの行動をとってくれるとは限りません。最初、特別に訓練して絶対にミスのないように学ばせた烏がやって来るのかと思っていましたが、そうではないようです。
つまり、待てど暮らせど、神鴉が現われず、神事が上手く執り行われないことも当然起こり得ます。そうなると、その年はとても不吉である、となるそうですね。『棚守房顕覚書』にも儀式が上手くいかなかったと書かれていた部分があったような気がしますし、大頭神社でも、儀式が上手くいかないことはあるそうです。氏子の方からこっそり教わりました。やはり、そういう時は不吉で、儀式参加者のどなたかに不幸が起るかもしれない、などと考えられるらしい。
烏なんてどこにでもいるから、一羽くらいは来るんだけどね……というヒソヒソ話をお伺いしてしまい、え!? だとすると、特別な神鴉の子孫ではなく、たまたま通りかかったそこらの普通の烏がたまたま参加してしまうこともあるの!? と思ってしまいました。どこかに鳥籠を置いて、神鴉さまを養育なさっているなんて、そう言えばきいたことないですし。いやいや、そんな無礼なことを考えてはなりません。
神鴉さまは廿日市のどこかにおられ、厳島神社の神事に参加したのち、翌年にはその役目を次世代に引き継ぐために、大頭神社さまでお別れの儀式をするのです。子別れという、ちょっとしんみりする貴重な神事なのでした。熊野まで帰ってしまったら、もう会えなくなりますからね。
大頭神社・みどころ
一の鳥居
大野浦駅から、神社に向かう途中に二の鳥居もあるのですが、あれ、何かこんなところに赤い鳥居がある、と思いながら、撮影もせずに通過してしまいました。次回は必ずそのお姿をおさめたいと思います。
拝殿
社務所
妹背会館
いわゆる参集殿です。こちらでは、結婚式なども行なわれるそうです。
手水舎
報国神社
大野の戦没者の方々をお祀りする神社です。
境内末社
公式アナウンスによれば、末社七社と神烏神社があるはずです。ほかにも小さなお社を見かけたのですが、まさか神烏神社のような尊い神社さまと気付かず通過した可能性があります。次回の宿題です。
妹背の滝
雄滝のほうはすぐわかりますが、雌滝はわかりません。門山城から降りてきた時に見付けましたが、水は涸れていました。雄滝は激しく水が流れ落ちており、圧巻でした。
雄滝
雌滝
大頭神社(廿日市市大野)の所在地・行き方について
ご鎮座地 & MAP
ご鎮座地 〒739-0488 広島県廿日市市大野 5357
アクセス
山陽本線「大野浦」駅から徒歩 20 分ほどです。実際にはそんなにかからない気もいたします。何カ所かナビゲーションで現在地を確認しつつ進めば、そうわかりにくい道でもないですし、迷うことはないと思います。
もちろん、歩きたくない方は、駅からタクシーを使ってしまってもよいと思います。
参考文献:『宮島本』、神社さまホームページ、『日本書紀』
大頭神社(廿日市市大野)について:まとめ & 感想
大頭神社(廿日市市大野)・まとめ
- 推古天皇11年(603)に創建されたといわれるとても歴史ある神社
- 伊弉諾は出産のために妻・伊弉冉を死なせたとして、軻遇突智を斬った。その斬られた部位ごとに新たな神々が産まれたが、頭部から化身したのは大山祇であった。ゆえに、当社の大「頭」という社号は御祭神である大山祇によるとする説がある
- 古来より、厳島神社とゆかり深く、厳島神社の創健者・佐伯鞍職も御祭神となっている
- 厳島神社で行なわれる御島巡りは、養父崎神社の沖で神事が行なわれる。神鴉が現われて粢団子を咥えて養父崎神社に運んでいく、というもの。その時の神鴉は後継者となる子鴉を養育したのち、熊野に帰っていく。その子別れの儀式を執り行うのが「四鴉の別れ」である
- 神社の近くには妹背の滝と呼ばれる一対の夫婦滝があり、著名な景勝地となっている
門山城の登山口が、こちらの神社さまの裏手にあるため、何度も参詣しています。無事に登山できるようにとお参りしてから山に入るのが習慣です。
景勝地にもなっている妹背の滝が見事でして、残念ながら雌滝は涸れていましたが、雄滝が激しく流れ落ちていました。滝の前でお弁当を食べているお姉さんがとても印象的でした。駅からの道々、ずっと同じ道を歩いているなぁと思っていたら、なんと滝の前でお食事を始めたからです。きっと、お気に入りの場所なんですね。
毎回、参詣者でそれなり混み合っており、地元の方々から慕われている神社さまであることがよくわかります。実は、展望台やキャンプ場などもあるため、門山城同様、それらの場所を目指して来る方も少なからずおられるかと。そんなわけで、ついでにお参りという無礼な事になっていましたが、何とびっくりすごい神社さまでした。
御祭神に佐伯鞍職命がおられることから、ゆかり深いとは知っていましたが、あの神鴉がこちらで親と別れる儀式が行なわれているとは知らなかったもので。どんなに小さなお社にも、きちんとご由緒がございます。まして、これほどの規模の神社さまともなれば。調べもせずに何度も通っていたことが恥ずかしくなりました。
こんな方におすすめ
- 普通に寺社巡りを好む人
- 厳島神社とのかかわりに関心を抱く人
オススメ度
(オススメ度の基準についてはコチラをご覧くださいませ)
俺たち、門山城に向かう度にこちらの神社さまを通ったよね。でも、まさか、烏がお祀りされた神社があったり、子別れの神事があったなんて。次回は参加したいなぁ。でも、烏が来ないこともあるって、当然だよね。何か運頼みみたい。
何を言うの! 神鴉さまはちゃんと来ます。君のように、神社さまを通り道にしちゃってるような人物が参加してるとおいでにならないかもね。
ミルだって通過したじゃないか。だって通らないと門山城に行けないもの。それに、烏に「さま」とか。へへへ。
君もあれだけ厳島神社に通っているのに、わからない子ですね。御烏さまは厳島神社の神使です。ですから、厳島神社のみならず、廿日市も含めて、「カラス」なんて呼ぶ無礼な人はいません。「おがらすさま」と呼ばなくてはならないのです。
すみません。神鴉さま。
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はつかいち町歩き
廿日市の観光資源と言えば、宮島と厳島神社の知名度が圧倒的です。それゆえに、ほかの観光地の影が薄くなってしまっている嫌いがあるのが、とても残念です。けっして、それだけではないですよ、ということを証明したく、町中を歩き回っています。
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