イマドキ『陰徳太平記』

右田弘詮イメージ画像

おことわり

『陰徳太平記』は「歴史書」ではなく、「創作」です。馴染み深い中国地方の人々が総まくりな上、作者の脚色が絶妙であるため、有難くも楽しい読み物ですが、以下の点にはご留意ください。基本は史実に基づいておりますが、物語としての面白さを優先するため、史実とは異なる逸話を盛り込んだり、効果を高めるための脚色を施したりということが行われています。内容の受容については「自己責任」でお願いします。いちいちどこからどこまでが「脚色」なのかなど調べられません。

『陰徳太平記』とは?

これについては、やはり日本史の権威たる日本史事典の記述を見ておく必要があります。

「陰徳太平記」いんとくたいへいき
戦国期~織豊期の西日本を舞台にとする諸家の盛衰を、毛利氏の制覇を中心に記述した軍記。八一巻。香川正矩原作・宣阿(正矩次男)補訂。一六九五年(元禄八)頃成立。一七一二年(正徳二)刊。正矩は吉川家の老臣として、吉川氏歴代の武功と祖先の忠勇を後世に伝えるため原作「陰徳記」を書いた。また宣阿は本書の思想的原理ともいうべき、人知れずなした善行は必ず報われるという陰徳思想により、事実をまげながら毛利元就を陰徳の人として描いている。
出典:山川出版社『日本史広事典』190ページ ※マーカー引用者

『日本史広事典』の記述は当然信頼できるものです。これが、現時点での歴史学会の公式見解とみてよいでしょう。いわゆる軍記物の類でも、多少の誇張がある程度で、大筋は間違っていないと考えるのが普通です。実際、人数などがあり得ない大軍になっていることはあっても、その日その時に合戦があったことはいわゆる「史料」と合致していたりします。それならば、研究者の先生方御用達の史料より軍記物のほうがずっと楽しいし、一般庶民向けです。また、その程度の脚色でしたら、書かれた当時の人々の思想などを知る意味で、貴重な書物と考えることもできます。

問題は「事実をまげながら」という部分です。この点が、先生方がこの書物を「俗本」などと揶揄する所以であると思われます。『大内氏実録』の近藤清石先生など、何度この本を「俗本」呼ばわりしたか数え切れないくらいです。それでも、その原作にあたる『陰徳記』については普通に引用なさっておられます。『陰徳記』から『陰徳太平記』が生まれる過程で改変された部分があり、そこが先生のお気に召さなかったのでしょう。引用にある通り、この書物の目的は毛利元就を称賛することです。そのためには、都合の悪いことは書かなかったり、中身を変えてしまったり、輝かしい部分にはさらなる輝きを添えたりしていることかと思われます。これらの改変部分が、一般の軍記物による数値の誇張程度のものであれば許容範囲ですが、「事実をまげながら」となれば問題となります。

郷土史の本、地元ガイドさま方のご案内等では、普通にこの本の内容が引用されています。学術的な場面ではないためです。無味乾燥な貴族の日記や系図だけからですと、楽しいはずの史跡巡りが、何とも味気ないものになってしまいます。『陰徳太平記』に書かれていることを参照すると、歴史書ではわずかに数行しか書いていないことも、章段ひとつ分になったりします。要はそのくらい手を加えて、読み物として楽しいものに仕上げているのです。歴史書ではなく、創作なのですから、楽しければ何でもありと思います。ただし、何の知識もないままこの本だけを鵜呑みにすることは確かに危険です。

『平家物語』レベルになれば、この章段はこれこれの史実をこのように脚色して物語的効果を狙ったと思われる云々という研究が山ほどあります。『玉葉』や『吾妻鏡』のような史料として用いられている書物との相違点についても、詳しい解説がなされていることがほとんどです。けれども、残念なことに『陰徳太平記』についてはそこまで詳細な研究はないようです。「事実をまげながら」というのがどこを指しているか、一般人が正確に理解することは到底無理なことになっています。

たまたま先生方の歴史書などで勉強しそれなりの知識がある部分ならば、あ、おかしい! と気付きますが、よく知らないことについては真偽もわからないまま読み進めることになります。そのあたりの見極めができない人が、先にこの本から入ってしまうと、真実ではないことを信じてしまうという弊害が起こります。拝読するにあたっては、常にそのことを意識しておく必要がありそうです。

章段リスト 

そもそも 1555 までしか見ませんが、それでも未完成。

目次一(巻一~五)
目次二(巻六~十)
目次三(巻七~十一)
目次四(巻十二~二十)
目次五(巻二十一~二十五)
目次六(巻二十六~)

五郎セーラー服吹き出し用イメージ画像
五郎

これを全部読むなんてことは無理だよね?

ミル吹き出し用イメージ画像(怒る)
ミル

それゆえ章段リストを作ってる。

鶴千代吹き出し用イメージ画像(仕官)
鶴千代

まさか、リストだけで終えるつもりではないだろうな? 元就公のご仁徳について学ぶため……

五郎セーラー服吹き出し用イメージ画像
五郎

だったら、お前、全文現代語訳とかしたら? この本は長すぎて、すべてを訳した人はまだいないはず。あらゆるところに引用されているから、それを引っ張ってくるとかなり助かることになるけど。それでも、未開の部分はあると思うよ。

2024-06-13