厳島神社を代表する二つの仏塔、五重塔と多宝塔のうち、多宝塔についてご案内いたします。いずれも、現在は、仏教系の要素が取り除かれ、厳島神社管轄の建築物となっています。かつて安置されていた仏像(薬師如来)は大願寺に移りました。現在、工事中でして、しばらくお姿を拝めません。(訪問回数30回以上)
広島県廿日市市宮島町の厳島神社多宝塔とは?
厳島神社の管理下にある建物のひとつで、元は五重塔、大願寺などとともに、「厳島伽藍」を形成していました。薬師如来を祀る仏教系の建築物(塔)でしたが、廃仏毀釈の時代に、厳島神社の管轄下とすることで守られました。内部に安置されていた仏像は、大願寺に引き取られています。
一時期、加藤清正を祀る神社となっていましたが、現在は、豊臣秀吉と合祀されて、千畳閣に遷されました。桜の木の季節が美しいそうです。
なお、この場所にはかつて、大内氏の勝山館がありました。厳島合戦の時、大内方の陣が最初に置かれた場所でもあるといいます。
厳島神社多宝塔・基本情報
所在地 〒739-0588 廿日市市宮島町 70−2
元安置されていた仏像などは、大願寺に引き取られ、現在は厳島神社の管轄
付近に「勝山城跡碑」あり
(参照:所在地は Googlemap)
厳島神社多宝塔・歴史と概観
多宝塔とはどのようなものか
多宝塔とは「『法華経の見宝塔品』の説に基づいてつくった塔」(『図説歴史散歩事典』134ページ)をいいます。「法華経の見宝塔品」とは何ぞ? と思い、これだけだと何のことやらさっぱり不明ですが、説明はないので、多宝塔って何? と問われたら、そのままを答えましょう。
多宝塔は、五重塔などの多層塔とはまったくの別物です。なぜなら、何となく気付いている方もおられるとおり、一重だからです。深く考えずに見ていると二階建てで屋根ついてる……と見えます。しかし、これは、裳階というものがついているために「二重に見えている」のであって、実際は一重です。
受験参考書に必ず書いてある薬師寺東塔の説明文に、裳階がついているため一見六重塔に見えますが云々と同じくです。参考書だと、裳階とは、スカートみたいなものという説明がなされていることが多いですよね。東塔も実際には三重塔でしかありません。
「下の裳階は方形、上の塔身は円形で、上下の連続部に白色漆喰の亀腹がある」(同書)とあり、宮島の多宝塔もまったくその通りのお姿です。
よく、塔の話が出る時、外陣とか内陣という言葉が出ます。大概は塔の内部を見せてもらえる機会はないですので、外とか中とか何だろう? と思っていました。今回、多宝塔について調べていましたら、内部の平面図が載っておりましたので、例によってテキトー図をつくりました。
これは「法隆寺金堂」の内面図なんですが、塔の内部もだいたいこんなものです。個別に差異はあるかもしれませんが。外陣・内陣って読んで字の如くですが、やっとわかりました。
内部には仏像が安置されているのは、言うまでもないことです。
厳島神社多宝塔の特徴
永正三年(1523)に建てられたということなので、応永年間創建の五重塔よりちょい新しいですね。永正年間、本家のご当主は三十代の義興公。応永年間は、義弘、盛見公の頃なので、曾祖父(盛見公)とその兄上(義弘公)てな感じです。もとは薬師如来が祀られていました。
和様、 大仏様、 禅宗様折衷で、梵字をくりぬいた装飾性の高い蟇股が特徴とか、あれこれ建築学的なご案内をお伺いしてもさっぱりですが。
「多宝塔
一 重要文化財
一 大永三年(一五二三)建立
一 総高一五・四六メートル
昔は塔内に須弥壇を設け本尊薬師如来が安置されていました 現在本尊は大願寺に移されております」
(看板説明文)
由来看板の文字は目茶苦茶達筆で美しいです。
けれども、そもそも、誰が何のためにこの塔を建てたのか、ということが、『宮島本』にも由来看板にも載っていないのですが、不明ってことでしょうか? 「厳島神社多宝塔」という名称ですので、現在は厳島神社に帰属しています。
明治時代に入り、例の神と仏が分かたれ云々の際、本尊だった薬師如来は大願寺に引き取られ、ここはなにゆえにか加藤清正(マジ、なんで?)を祀る神社(宝山神社)にされてしまいました。明治十三年 (1880) のことです。そのご、大正七年 (1918)、加藤清正は豊国神社に合祀されていなくなりましたので、現在ここには、かつての本尊もなく、一時期御祭神だった加藤清正公(神?)もおらず、何も祀られていない建築物という認識であっているのでしょうか?
不勉強ゆえ、正確な由来がよくわからず、なのになにゆえにか惹かれてしまい、何度訪れたかわかりません。
厳島神社多宝塔・みどころ
五重塔と並んで、宮島のシンボルといえる建物です。五重塔ほどの高さはないものの、やはり高台にありますので、遠くからもその存在感がわかります。特にライトアップされるとその存在感が増します。
多宝塔全景
上述の、世間一般の多宝塔説明文そのままのお姿です。ここもまた、厳島神社カラーの朱色。麗しさに萌え萌えとなります。現在、この地には桜の木が植えられて、花見の名所となっているそうです。
現在工事中です……
多少は知識が増えたと期待し、恒例の勝山御館跡を訪問したついでに、多宝塔を観察しようとしたところ……なんと、修理中でした(202303 現在)。このショック、かなり立ち直れそうにありません……。
同じ岡に勝山城跡碑がある
多宝塔がある岡には、勝山城跡碑が立っています。つまりここには以前、大内氏の館があったんです。⇒ 関連記事:勝山城跡
厳島神社多宝塔(廿日市市宮島町)の所在地・行き方について
所在地 & MAP
所在地 〒739-0588 廿日市市宮島町 70−2
(※Googlemap にあった住所です)
アクセス
所在地は、初めての方には地味にわかりにくいです。ただし、塔の姿は見えておりますので、いずれは辿り着けます。行き方は色々ありますが、厳島神社参詣の方は、神社の宝物殿両脇の道いずれかを進んで行くのがおすすめです。
一、宝物殿向かって右手、あせび歩道。最もわかりやすいですが、急な階段が延々と続きます
二、宝物殿向かって左手、普通の道を進んで行き、中途で右折します。スロープになっていますので、階段が嫌な方にはこちらをおすすめします。途中に大聖院への分岐点がありますので、間違えてそちらへ向かわぬようにご注意ください。
参考文献:『図説歴史散歩事典』、『宮島本』、現地由緒看板
厳島神社多宝塔(廿日市市宮島町)について:まとめ & 感想
厳島神社多宝塔(廿日市市宮島町)・まとめ
- 元は大願寺を中心として、五重塔とともに、「厳島伽藍」を形成していた
- 廃仏毀釈による被害を避けるため、内部にあった仏像を大願寺に移し、厳島神社管轄の建物となる
- 創建年代は永正三年(1523)とされ、薬師如来が安置されていた
- 大正年間に、加藤清正を祀る神社になったが、現在清正は千畳閣に遷って、豊臣秀吉と合祀されている
- 付近には大内氏時代に、勝山館があったとされ、現在その石碑が立っている
- 桜の名所として知られており、多宝塔自身の姿とあいまって、宮島でも屈指の名所のひとつ
多宝塔が工事中というのは、なんともはやです。大鳥居が工事中であったことを嘆いた人は多いですが、それももちろん当然のこと。しかし、厳島神社そのものが見学不能となっていたわけではありません。しかし、塔については、修繕中は何も見えませんし、ほかに付属する建物もないですので、完全にアウトです。もしも、多宝塔目当てに訪れる方がおられるのでしたら、いつ工事が終わるのかを確認し、装いも新たになってからのご訪問をおすすめします。
それにしても、多宝塔の工事が間もなく終わるのかどうかもわからないうちに、五重塔まで工事に入るとは。貴重な文化財のメンテナンスは必要不可欠な事業ながら、同時進行でいずれも見ることができないとなると、観光客の楽しみは半減どころか、場合によってはゼロとなります。その辺り、まったく配慮がなされておらず、悲しかりけりです。まあ、いずれか一方だけでも、訪れる価値は限りなくゼロに近くなりますので、当分の間は無意味な場所となりそうです。
むろん、宮島の魅力はそれだけではないですので、この機に普段は行くことができない穴場を発掘するのも手です。五重塔と多宝塔を見学する時間がゼロになるわけなので。楽しみ方は色々ということですので、落ち込む暇はありません。ですが、これが一生に一度の機会、と宮島行きを計画している日本全国を巡っているタイプの方々には、現在行くことはおすすめできません。五重塔も多宝塔もない宮島は、完全に厳島神社と弥山のみの方御用達となる上、仮にそうであっても、五重塔と多宝塔は普通に視界に入るのが普通です。その意味で、それらが工事現場となっている時期にいくことは、風情も何もない場所に行くのと同じことです。
こんな方におすすめ
- 塔が好きな方
- 厳島神社に関係する建築物を見て回っている方
オススメ度
(オススメ度の基準についてはコチラをご覧くださいませ)
もう、工事中になってからしつこく来ているので、慣れてしまったよ。
恐ろしい状況だね……。
はて? 何かが足りないような……。
この機に包ヶ浦の元就公上陸碑を見に行くのが「おすすめ」とやらだ。記念撮影も忘れな……
むむ、多宝塔がないではないか!
(人の話を遮るとは。空気の読めない御仁だ。一応「元」主君なので、咎めないでおこう)
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みやじま・えりゅしおん
宮島旅日記のまとめページ(目次)です。厳島神社とロープーウエーで弥山頂上は当たり前。けっしてそれだけではない、宮島の魅力をご紹介。海からしか行けない場所以外は、とにかく隅々歩き回りました。宮島の魅力は尽きることなく、旅はなおも続きます。
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この記事は、20250129「厳島神社○○となっている建築物」から、多宝塔に関する部分を抽出して、加筆修正したものとなります。