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妙見菩薩、妙見信仰(超簡単に)

2022年10月24日

キャラクター画像ミル

今日は妙見さまのお話をしようと思います。ただし、大内氏の氏神としての妙見さまではなくして、世間一般の(?)妙見さまについてだよ。

道教との習合神?

妙見菩薩、もしくは、妙見、妙見さまなどのお名前で調べても、ほとんどの宗教辞典に載っていません。そもそも、神様なのか、仏様なのか、どっちなのかわからない。

神様系辞典類で調べる場合は「天御中主神」として調べるしかありませんが、そこには当然、天御中主神さまの説明文が載っているだけです……。

どうやら密教の神様(仏様?)みたいで、密教系のマニュアル本でやっと調べることができました。

しかし、なんとそこには「素性がイマイチわからない」みたいな説明が。

大内氏の氏神としての説明文には、妙見さまは北辰、つまり北極星の神だとちゃんと書いてあるのにね。

なにゆえに、素性がよくわからないのか、というと、この神様(仏様?)は、日本に入ってきたとき、すでに道教の神様と習合していたからだといいます。

習合という現象は、日本だけではなく、世界中にあるのですね。

道教の北辰(北極紫微大帝)信仰と習合している、というのですが、そんなこと言われても? ですよね。

やむを得ず、道教系の辞典を調べてみると、「妙見信仰」なる項目がありましたが、単に、北極星に対する信仰、としか書いてありませんでした。さらに、そこには密教系のものである、と書かれておりました。

そこで、ついで『密教大辞典』を調べてみると、ようやく載っていた!

北極星の神格化したもので、星の中の最尊、神仙中の神仙、菩薩の大将というが、実相は天部に属す。
出典:法蔵館『密教大辞典』

五郎不機嫌イメージ画像
五郎

まさか、これで説明終わりじゃないよな? そもそも意味わかんない。

ミル涙イメージ画像
ミル

あとは、お姿の説明だけど挿絵見たほうが早いし、これ以上のことは載ってないよ。

『中世神道入門』というご本にそこそこ長い記述があったのが、唯一のものです。そこから学んだことをまとめておきたいと思います。

妙見信仰とは?

星神信仰の一種で、北極星、北斗七星を神格化して「妙見菩薩」としてお祭りすることを、妙見信仰といいます。先祖伝説では「北辰」っていいますけど、北辰 = 北極星ですので、下松の鼎の松に降ってきた北辰をお祀りしたのが、文字通り「妙見信仰」である、ということになりますね。

妙見さまの功徳

国家鎮護、災厄除去、長寿延命

氏神として信仰するにあたっては「国家鎮護」の神様であることが重要です。一国の主として法会を行うとなれば、国家鎮護(ここでいう国家は守護領国ってことになりますが)が大事だからです。妙見菩薩さまのお力で、分国の安定と平和が守られていたのですね。

北極星信仰の起源

「星神信仰」には、北極星を信仰する、北斗七星を信仰する、北極星と北斗七星をまとめて信仰するという三種類のケースがあるそうですが、実際には一緒くたになってしまってるっぽい。古代の日本人には、星を見て方角を知るような習慣があまりありませんでした。星空を見上げて現在地を知るようなことは、遊牧民族や航海を行う民族などの特徴です。その起源は「紀元前数千年前、メソポタミア地域の遊牧民族や航海に携わる人々」(『中世神道入門』)でした。

北極星と北斗七星の信仰は、やがて中国にもたらされ、儒教や道教などの固有の宗教と習合することで、「北辰北斗信仰」となります。「北辰」は「宇宙の最高神」、「北斗」は「禍福を司る」もの、として区別されました。

習合の流れ

北辰は宇宙の最高神とされたため、仏教、特に密教との習合が進みました。結果、「北辰 = 妙見」となるわけですが、仏教の本場インドではことさらに北極星を重視する傾向はないため、仏神としての妙見の信仰は中国を起源とする説が有力です。

日本には仏教も、中国、朝鮮を経由して流入しましたから、中国で道教と習合した「妙見菩薩」がもたらされたわけです。『七仏八菩薩所説大陀羅尼神呪経』、『北辰菩薩陀羅尼経』、『仏説北斗七星延命経』などの経典が中国で翻訳されたものとして日本に伝わりましたが、これらも道教的色彩が強いもので、インド由来ではないようです。

日本における妙見信仰

日本に妙見信仰がもたらされたのは、奈良時代のことだといわれています。この時はまだ、中国における、道教と習合したかたちの信仰をそのまま輸入した感じでした。信仰は一般庶民にも広まっていて、人々が「妙見菩薩に燃灯を献じていた」というエピソードは『日本霊異記』にも載っているそうです。あまりに盛んとなったため、一時期「禁制」が出されたほどでした。その後は「御燈」といって、天皇の年中行事に限定されました。

日本で密教が盛んになっていくと、日本独自の「妙見菩薩」信仰が確立していきます。

北斗法:北斗七星を供養し、延命を祈願する。
妙見法:妙見菩薩を供養し、国難の消滅を祈願する(真言宗)
尊星王法:真言宗の妙見法に同じ(天台宗寺門派)

このような密教の祈祷は摂関政治全盛期に始まり、やがて院政の主や幕府の将軍などが、主要寺院で行うようになっていきました。これは、かつての「禁制」とは違い、上皇や将軍しか行なってはならない、という意味ではありませんから、権力をもつ領主ならば、領国の安寧のために行なうことは可能です。この時期には、あまりそんな人はいなかったかもですが。

ミル通常イメージ画像
ミル

山門派でも北斗法は行われているよ

妙見信仰は密教との結びつきが強いと書きました。密教ときくと、なんとなくミステリアスなイメージですよね。それでいて、天皇、将軍、大貴族などが行なう加持祈祷などといえば、大がかりで荘厳な雰囲気です。

ここらでちょっと仏教の復習をしておきましょう。

南都六宗

奈良時代の仏教は……華厳宗・法相宗・三論宗・成実宗・倶舎宗・律宗

まず最初に成立したのが、いわゆる南都六宗といわれている宗派でして、奈良時代にはこれらが行なわれていました。

やがて、平安時代になると、さらに二つの大きな宗派が生まれます。平安時代の初期、九世紀のことです。

天台宗と真言宗

伝教大師(最澄)……天台宗
弘法大師(空海)……真言宗

天台宗、真言宗両派こそが、密教です。何やら密教と結びついているときくと、妙見信仰も神秘的な感じがしてしまいます。そもそも、星に対する信仰などというところからして、すでにロマンチックですけど。ただ、一言で「密教」と言っても、その性格は少しく異なるようです。

小西甚一先生は、「中古の仏教は(天台・真言)両宗によって代表されるといっても、言いすぎではない」と書いておられます。先生によれば、天台宗は「理論的・哲学的な色彩がつよく、ヘーゲルを思わせる澄み切った知性をもつ」ため、平安時代の知識人たちは、天台宗の教学を「一般教養」として身につけていたそうです。いっぽうで、真言宗のほうは、「悩みの解決」のために加持祈祷することが中心でした。「国家的な大事件」から「個人の病気」までありとあらゆるものをお祈りに頼っていた時代ですからね。

京都に近いこともあり、比叡山延暦寺は、仏教の聖地となっていました。そこで、「山」といえば、それは比叡山、もしくは延暦寺のことをさしていました。これと対比して、園城寺(三井寺)のほうを「寺」と呼んでいました。「山」もしくは「寺」としか書いていなかったとしても、ピンと反応しなくてはいけないのです。

覚えとく

「山」もしくは「山門」といったら「延暦寺」
「寺」もしくは「寺門」といったら「園城寺」

で、その山門派と妙見信仰についてです。

山門派で行なわれた北斗法では、妙見菩薩は釈迦如来が人々を救うために姿を変えて現われた「一字金輪仏頂」であるとし、たいへん崇拝されました。

妙見菩薩の本地仏

真言宗……十一面観音
天台宗……七仏薬師

はるかに程経てのち、鎌倉新仏教の時代になると、妙見菩薩は日蓮宗で敬われる存在となりました。

武士階級と妙見信仰

北斗七星の七番目の星「破軍星」から、妙見菩薩を「軍神」としてあやかる氏族が多く存在しました。

千葉氏、秩父氏、相馬氏などが有名です。これらの一族の人たちが、各地に勧請することで、さらに信仰が広まっていきました。

五郎不機嫌イメージ画像
五郎

何なんだよ、こいつら? 妙見大菩薩は多々良氏の神なのに……。

ミル不機嫌イメージ画像
ミル

独り占めはダメだよ。「氏神」に指定されているというだけで、みんなの神様です。

妙見菩薩の姿

菩薩、童子、武将などさまざまな姿で描かれる。持ち物は蓮華や剣。

龍や亀、亀蛇に乗っていることが多い。

大内庭園オリジナル妙見菩薩さま画像

妙見菩薩イメージ画像

この庭園では、亀の上に乗っておられること、武将の姿で描かれることがある、という二点だけを採用して新進気鋭のイラストレーターさま・アイカワサンさまに作画をご依頼しました。大内氏の年中行事の中で、最も重要かつ、神聖なものに、二月会がありますが、そこでは、次世代の大内家当主を誰にするのか、ということを家臣、領民たちの前でアピールするというイベントがありました(二月会について詳しくは場を改めて)。その時、見ている人々は、跡継と定められた若子さまには、妙見菩薩さまがご降臨なさったものと認識されるような側面があります。

つまりは、一瞬ですが、新介さまは妙見菩薩さまと同一視されるので、ここで妙見菩薩さまの画像が不細工だったりしたら、法泉寺さまや凌雲寺さまのような麗しい若様にふさわしくないのです。ということで、ご制作にあたっては跡継宣言時に美男子だった当主様に一瞬乗り移られることを考慮して、イケメン画像としてください、とお願いしました(史料的根拠なし)。というようなわけで、世界に二つとない麗しい妙見菩薩さまの画像が完成しました。法泉寺さまと凌雲寺さま限定ですので、それ以外の(容姿については)こだわらない当主さま方とは無関係です。

現代の妙見信仰

廃仏毀釈ののち、習合神的性格が強かった仏神としての妙見を祭っていた神社は、祭神を「天御中主神」、社名も「星宮」などと改めている。

現在も妙見菩薩を祭っている神社として有名なものには、秩父神社、千葉神社などがある。

五郎涙イメージ画像
五郎

車塚にも妙見社あるのに。でも、祭神はたしかに、天御中主神さまになってた。だから秩父や千葉みたいに有名になれないのか。

参照文献:『中世神道入門』、『密教大辞典』

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ミル@周防山口館

大内氏を愛してやまないミルが、ゆかりの地と当主さまたちの魅力をお届けします

【取得資格】
全国通訳案内士、旅行業務取扱管理者
ともに観光庁が認定する国家試験で以下を証明
1.日本の文化、歴史について外国からのお客さまにご案内できる基礎知識と語学力
2.旅行業を営むのに必要な法律、約款、観光地理の知識や実務能力

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