千寿イメージ画像
 周防国・山口城。
 隆房と別れ、兄の昌興の元に戻った千寿は、文字通りの「軟禁」状態に置かれていた。部屋の外には常に見張りの兵士がおり、勝手に外へ出ることはできない。
 目下、大内攻めの準備で忙しい昌興は、千寿の悪ふざけでまたややこしい事が起きるのを嫌い、部屋に閉じ込めてしまったのである。
 千寿は仕方なく、文字通り部屋で大人しくしていたが、その実、九州で高祖帯刀がひそひそやっているのと同じように、ゲーム機の操作をしていた。
 気掛かりなのは、兄の昌典と隆房に、またも「造反フラグ」が立っていることである。昌典の場合は、九州の領国を全て敷山家に奪われた上、昌興が山口城に入ったことで、城主の地位まで失ってしまったことがその理由。
 しかし、隆房のデータには、「家臣の不満を気にも留めぬとは」という、恐ろしいメッセージが加わっていた。これは、山田から得た知識によれば、他家から「造反」の誘いがかかっている証拠である。しかも、元々忠誠値が「14」と馬鹿高い昌典なら、ちょっとしたことで造反フラグが立ち上がるが、「9」という、高くも低くもない数値の隆房が「裏切り度」90%などという真っ赤な状態になっているのだ。
「大連合」のせいで、周り一面が敵ばかり。どこから声がかかっていてもおかしくはない。しかし、まさか、造反元の大内家に戻ることは考えられないから、恐らくは敷山家に違いない。
 敵を調略するためには、相当に高い「知略」が必要。千寿のような120の知略なら、元尼子家の不満分子・乃木孝盛を寝返らせるのに半月もかからなかったが、普通ならその何倍もの金と時間がかかる。
 もしも、同じ知略120の高祖帯刀が動いているのなら、恐らく隆房は一撃で撃沈だ。しかし、あのナルシスは、この高祖という男を嫌っているから、恐らくゲーム画面からは見えない要素も働いて、どこかでブレーキがかかっている。
 隆房と敵同士になることは耐え難いが、それよりも、敷山、若山、岩国の三城が全て敷山家に寝返ることは脅威であった。当然、もしも、敵に寝返るようなことになれば、全ての数値をいじくって無力化してしまえば良いのだが……。
(隆房様のお城はいじれない……)
 悲しいかな、隆房の想像したとおり、千寿はどうしても、いらぬ情けをかけてしまうのであった。
 この場合、自ら出向いて隆房を説得するしかないが、それは昌興に許されるはずはない。それならば、できることは……。
 (そうだ、『家宝』だ!!)
 千寿はすぐさま相良武任を呼びつけた。

「なんですと? 陶隆房のもとへ付け届けをしろと?」
 相良が故意に外に聞こえるような大声で言う。昌興に「嫌われている」千寿など、構ってやる必要はない。寧ろ、妙なことに巻き込まれたら迷惑だ。
「声が大きいよ。馬鹿」
 千寿は相良を蹴飛ばそうとしたが、ネズミ妖怪はそれを上手いこと躱してから、偉そうに言った。
 「それがしを馬鹿扱いする前に、ご自分のお立場をお考えになったらいかがで? 昌興様は、千寿様が再び屋敷を出てあの陶なにがしの所に向かうようなそぶりをみせたら、即刻『入牢』を命じると。まさか、そんなことになっては、ご一門として恥ずかしい限りでは?」
「牢屋なんて怖くない!」
 千寿は相良を睨みつける。
 「そんなことより、相良様のほうが危ないよね? 未だに例の勘定奉行・米倉とつるんで金蔵の金を自由自在に横流ししていること、兄上の耳に入れても良いの? そのお金を使って、どれだけ家宝を買い尽くしてるか。何もかも、兄上にお話ししてもいいんだよ?」