千寿イメージ画像
 隆房と千寿は、若山城に戻っていた。いずこも同じ公家館と化していたが、やはりここ、若山こそが陶家の本拠地である。しかし、懐かしい場所に戻れた喜びを満喫する暇もなく、二人は様々な苦悩によって、押し潰されそうになっていた。
 刺客を恐れる城の中は大除同様、蟻の這い出る隙もない厳重な警備体制で息が詰まりそう。そして、山田から聞かされた「きかい」同士が「共鳴」するという話に、二人して天下を無双するという夢は露と消え、虚しさだけが残った。
 あの後、山田はそれこそ電光石火で戻って来てくれたから、二人とは大除城を出る前に面会できた。しかし、あの未来の男によってもたらされた事実は脅威でしかない。しかも、今の所、山田にも「共鳴」した「きかい」を元に戻す方策は見付からないとか。
 折角の「天下を操れる」ゲーム機も、あの高祖帯刀の手にもう一台あるせいで、もはやあってもないに等しい。こちらが壊せば相手は直す。こちらが直せば相手が壊す……。これでは、本当に、いつまで経っても先に進まないではないか。
「お前とそのきかいを守ると同時に、こちらからも刺客を放ち、あの男を消す。ついでにあっちのきかいも叩き壊す、これで全て上手くいくのではないか?」
 隆房は、未来の世界で吉田が言っていたのと同じ結論に達した。しかし、千寿は悲しそうに首を振る。
「命より大切な物だよ。どれほど厳重に守られているか。それに、その男自身が相当の手練れ。子ども一人狙えば良い向こうより、ずっとやりにくい。それに……」
 敷山家にゲーム機を渡した人物は山田よりも賢い。山田は一々未来の世界に戻らなければ、「共鳴」だの「編集ロック」だのについて説明できなかった。しかし、敷山家のサポーターはそれらを知っているようである。
 だからこそ、敷山家は千寿を狙い、ゲーム機を盗み出して、「共鳴」による不都合を消してしまおうとした。背後にいる「未来の人物」は山田より一枚も二枚も上手なのだ。ひょっとしたら、ゲーム機そのものも、こちらの物より上等な品かもしれない。しかし、これらは隆房には言わないほうが良いだろう……。

 大内義隆が恐れていた「妖術」と「妖術」のぶつかり合い。「妖術」ならぬ、二台のゲーム機のぶつかり合いが、今にも始まろうとしていた。いや、それは、すでに始まっていたのだが、兄の昌興が周防に戻り、敷山隆邦と直接激突すれば、どんな恐ろしいことになるのか……。そして、昌興が戻ると言うことは、千寿と隆房にとって、もう一つの恐怖であった。
「隆房様、兄上に会ったら、多分沢山のお小言を聞かされるね」
 昌興の書状を偽造し、中村御所を勝手に手に入れた。主君の書状の偽造など、それこそ首が飛ぶ大罪だったが、千寿は兄から「愛されている」と思って気にしなかった。しかし、事はそう簡単には済まなかったようだ。
 一条家は既に、昌興にこのことを抗議し、結果、中村御所を「取り返し」ていた。当然、隆房が勝手に攻めるべきではない場所を攻め、しかも主の書状を偽造した罪は昌興の耳に入っている。
 隆房とて恐ろしい。正直、二人して逃げ出したかった。千寿の「きかい」があればそれは可能なはずだったのだが……。全ての計画はやはり敷山家のせいでおじゃんになった。
「昌興様は詰問使と称して、あの相良を寄越した。お前が適当にあしらったが、本人の前ではそうはいかぬ。首が飛ぶのはお前ではない。安心しろ。まさか、実の弟を手にかけるはずがない」
 隆房は言ったが、心なしかいつもの「自信」は消えうせ、声もやや震えているようだった。
 元の主君・間抜けな大内義隆であれば、いくらでもあしらい方を心得ていた二人だが、付け届けの品すら受け取らない、曲がったことが大嫌いな昌興の前では、打つ手がなかった。唯一の希望は千寿が昌興の弟である事なのだが、それすらもこの場合、何かの助けになるとは言い難い。
 千寿は父の松宛に書状を書いた。「当主」という肩書が外れ、隠居して仏門に入った父ならば、甥である隆房と息子である自分を見殺しにはしないだろう。その確信はある。しかし、そのためには、幾つかの条件を出さなければならなかった。
(大丈夫。絶対に隆房様には手を出させないよ。でも……暫く、傍にはいられなくなる。ごめんね……)