鷲塚昭彦イメージ画像
 鷲塚は大慌てで未来、いや彼自身が所属する時代へと帰り着いた。
「おい、なんだよ、随分と早いお帰りじゃないか」
 ジョニー・吉田が例によってへらへら笑いながら言う。
「1000年前のガキと、もっといちゃついてから戻るかと思ったぜ」
「悪い冗談だな。我々はそういう関係ではない」
 相手がカミングアウトした吉田でなければ、こんな事は言わないで無視する。しかし、何故か千寿との付き合いについてこの男に語られると、その度に嫌な気分になった。
 別に大人と子どもとがゲームを通じて繋がっていたところで、特に珍しい事でも何でもない。しかし、吉田が口にすると、どうも千寿と陶隆房を思い出してしまうのである。誓ってあんな関係ではない。

 しかし、今は議論している時間はないし、そもそも、吉田とは元々親しい間柄ではなかった。同じ上司の下で共に「部長補佐」となり、「補佐」の2文字が消えて、部長に昇格できるのはどちらかと、周囲にあれこれ噂された。
 能力値的には、吉田はITエンジニアとしては天才的な頭脳の持ち主であり、一芸に秀でた逸材であった。しかし、順調にエリート街道を進んできた鷲塚のほうが、上司らのウケは良かった。
 何しろ、吉田はマナーが悪く、更に同性愛者であることで、世間一般の出世街道からは外れた人間だ。しかし、二人の共通の上司は、おおらかな性格て、吉田のそのような一風変わった所を嫌う事もなく、むしろ純粋に、エンジニアとしての吉田の才能を気に入っていた。だから、補佐は二人となり、彼らは所謂ライバル関係となった。
 しかし、まさか、吉田が会社を辞め、こんな形で共に法に触れるビジネスをやることになるとは。だが、勿論それ以上の付き合いはないし、元々話も合わない。

「悪いが時間がない。もう一度マシンを貸してもらいたい」
 鷲塚は単刀直入に言った。
「は?」
「今回の積み荷は全て君の物だ。私は一銭も要らない。だが、もう一度、折り返しマシンを使わせて欲しい」
「折り返し、だと?」
 吉田はそう言いながらも、早くも「積み荷」を調べ始めていた。
「まあまあだな。値は下がっちゃいるが、たんまりあるからな。しかーーし、俺のマシンはそう簡単にあんた専用にされちゃ困るんでね」
「何?」
「これを全部金に替えたところで、割に合わねぇってんだよ。あんたが次に、縄文時代に行った時に、土器を持ち帰ってくれるのなら、話に乗っても良いけどな。例の、考古学研究室の低能なマシンで十分だろ?」
 全く、この男には一銭でも多くの金を手に入れる以外に、人生の目的はないのであろうか? しかし、鷲塚は何としても吉田のマシンを借りる必要があった。千寿の元に戻るためには、精巧なマシンと吉田の座標計測能力が欠かせないからだ。
「そのことについては後で相談しても良い。だが、今回は、もう一度、1000年前に行く」
「は?」
 最初の「は?」は訳が分からない、という風だったが、2回目のこれは、意味不明の意思表示と同時に、完全に鷲塚を馬鹿にしていた。別に、こんな男に理解してもらう必要などない。
「問題が生じているのだ。私はそれを調べ、答えを伝えるために、もう一度彼らに会わなくてはならない。金銭的な事は後から何とかする。取り敢えず貸してくれ」
 彼にとせず彼らにとして、陶隆房を巻き込む事で、吉田の嫌らしい揶揄を躱した。
 吉田は少し考え込んだ。また、金になるかどうか計算をしているのだろう。