高祖帯刀イメージ画像
 筑前・秋月城。
 城主の佐久間信盛は、敷山家が肥前を平らげ、肥後と筑後に兵を進めている、との報告を受けて目を丸くした。間者の報告によれば、隆邦は既に本拠地を筑後・柳川に移し、肥前の村中城には一門衆の高祖帯刀が入っていたが、驚愕に値するのはその配下の城が悉く難攻不落の堅城であり、また、兵力も相当なものであった点だ。
 敷山家は肥前のあれらの城を落としたばかりのはず。何故これほどの短期間にすべての城をそこまで堅固なものに改めることができたのであろうか? また、元々そこそこ数千くらいの兵力を集めるのがやっとであったはずのそれらの城が、悉く万を超える大兵力になっていることも摩訶不思議であった。
 皆は我が殿のことを妖術使い、などと恐れるが、この敷山隆邦こそ妖術使いではないか? さもなくば、この異常な状況をどうやって説明することが出来るのだ?
 秋月城でとてつもない大地震が起ったのは、その時であった。

 佐久間信盛は、危うく難を逃れて、瓦礫の山と化した館から這い出したが、家臣や兵士らは、その多くが塀や壁の下敷きとなり、城内はそれこそ凄惨な地獄絵のよう。
 そう言えば、ここ、秋月では以前にも謎の大地震が起り、有川家は戦わずしてこの城を手に入れた、と聞いた。しかし、攻める側ならこのような天変地異も大歓迎だが、守る側になったら大問題だ。
 信盛は無事だった家臣らを集めて、城内の様子を調べさせる。
 館はおろか、城壁や天守も損壊し、まともな防御は望むべくもない。とにかく、ここはすぐにでも補修工事を行い、気がかりな敷山家の攻撃に備えなくてはならない。
 ところが、城内の金蔵も米蔵も、すっかり空になっている、という報告が入った。
「何? 金も米もない、だと?」
 地震で建物が壊れるのは自然災害だから防ぎようがない。しかし、例え地震で米蔵や金蔵が壊れたとしても、そのせいで中身が空になるはずはない。これは、所謂火事場泥棒のような輩の仕業か? だが、このような惨状の中で、そんな行為を働ける者もおらぬだろう。
 呆然とする信盛の元に、伝令がやって来た。
「敷山隆邦率いる四万の軍勢と、高祖帯刀率いる三万の軍勢がこちらへ向かっている模様です」
 「む? 我らの惨状を知って早速やって来たか」
 しかし、現状、丸裸の城でどうやって守るのだ?
「府内へ早馬を送れ。援軍を、と」
 その頃、豊後でも大地震で多くの城が半壊する事態になっていたことを、信盛はまだ知らなかった。

 しかし、秋月のこの悲惨な事態に驚いたのは、佐久間信盛だけではなかった。
 攻め手の総大将・敷山隆邦もこの自然災害の事をきき、呆然となっていた。
「まさに、天も我らに味方したようでございますな。このような時に大地震とは。物見の報告によれば、既に秋月に城は『ない』とのことにございます」
 隆邦の軍勢と合流をすませたばかりの、高祖帯刀が言う。
「だが、このような事態に陥ったところへ、攻め込むのも不憫であろう。ここは一旦兵を返し、時期をあらためることとしよう」
 何と、敷山隆邦の頭の中では、自然災害で悲惨な目に遭っている敵をこれは好都合と攻めることは、好ましくない。正々堂々互角の戦いをするべきである、などという要らぬ考えが浮かんでいた。
 帯刀は主に向かってやや軽蔑した視線を投げかける。
「この乱世に要らぬ情けは禁物にございます。予定通りご進軍を」
「……そうだな」
 この情け容赦もない従弟に、隆邦は逆らいようがないのであった。

 こうして、秋月城、というより、城があった場所は敷山家のものとなった。
 戦というより、地震のせいで「落城」した秋月城主・佐久間信盛は、生き残った他の家臣共々敷山家に捕らわれた。隆邦は敷山家への仕官を勧めたが、信盛はそれを固辞。しかし、隆邦は信盛を処断せず、解放する事とした。
「ここでそれがしを斬らなかった事、後々後悔することになりましょうぞ」
 信盛はそう捨て台詞を残したが、隆邦は笑って許す。
 かわりに高祖帯刀が言った。
「いずれ日の本はすべて我らが統べるところとなる。その時には、貴殿も当家の配下に入る。人手は一人でも多いほうがよいゆえ生かしておくのだ。このこと、ゆめお忘れなく」