千寿イメージ画像
 新年の宴から帰国した隆房と千寿。
 昌興から大除城という小城一つを与えられ、更に引き続き四国討伐を進めろ、と命令された隆房は腹が立って仕方がない。
 一方の千寿もなにやら機嫌が悪く、帰国の道中ほとんど口もきかなかった。それは、兄・昌興の隆房への扱いが酷かったせいだが、このことに関しては、隆房自身にも問題があった。四国へ向かい出来る限り多くの城を落とすように、と頼んであったのに、伊予一国で満足して早々に帰国してしまったからだ。
 しかも、それを咎めると、将兵も疲れており、何ヶ月も国を離れているわけにはいかないと言い、挙句、会えない期間がこれ以上長引くのは我慢できなかった、と千寿のせいにした。更に、「四国を全て手に入れるまで帰るな、というなら、お前も一緒に来い」と「陣中の稚児」になれと言い出す始末。
 そして、思った通り、昌興は隆房の「手柄」など評価に値しない、とみなした。元をただせば、千寿が隆房の元にいることがすべての元凶であった。しかし、そうとは知りつつ、離れられない二人であった。
 隆房は城に着いて着替えをすますと、すぐさま千寿を呼びつけたが、何やら部屋に籠もりきりで、一向に姿を見せない。仕方なく、こちらから訪ねると、部屋の中から「入って来ないで!」と言う声がした。ややあって、障子が開くと、むくれた顔が出迎えた。
 「何の用?」
 千寿は久しく確認していなかったゲーム機を取り出したところだった。そこへ、隆房がいきなりやって来たので、大慌てで隠していたのだ。
「我がお前の部屋に来るのが不愉快なのか? お前は常に我が元におらねばならぬ。次は戦にも連れて行く」
 機嫌が悪い隆房は千寿のつれない態度に、故意に嫌がる事を言う。
「行かないよ! 年が明けたら元服する。そうしたら一緒に行けるよ」
「しかし、昌興様はそれまでに帰って来いと命じたではないか」
 これも、隆房が腹が立つ理由の一つだ。自らの「所有物」であるはずの千寿が取り上げられ、しかも、昌興の元で成人することで、いやらしい「一門衆」が更に一人増える。
「大丈夫。絶対に傍を離れたりしないよ」
 千寿は言った。
「それよりも、早く支度をして大除城に行かないと」
「あんな小城、誰か適当な配下を向かわせれば良い。そうだ、例の乃木孝盛とか申す者、あの男で良い」
「勿論あの男も行くよ。だけど、隆房様が行かなかったら、誰が四国討伐をするの? まさか、若山から四国へ向かうはずないよね」
「……」
 やはりそうか。隆房はこの豪華絢爛な城から華々しく出陣するところしか想像できないのだ。あの大除城は、小城などではなく、千寿の指一本で難攻不落の堅城になるというのに。
 いっそゲーム機の存在を話してしまおうか、そう思った。そして、二人でいじくりながら無双すれば良い。だが、千寿には一抹の不安があった……。
「隆房様、大除城の事は心配しないで。江良殿は『築城名手』だから。あの、敷山城の豪勢なこと、見たよね? 江良殿さえいれば、大除城もここと同じくらいすごい城に変わるよ。毎回毎回若山から出ていたら海を渡るのも面倒だし、ちょっとの間腰を据えてやってよ。千寿も行くよ。隆房様が行かなくても行くから」
「何? お前があの城に?」
「隆房様、時間がないんだよ。一条恒持の言った事、聞いたでしょ? あいつが一条家と話をまとめる前に、中村御所を落とすんだよ。一条家のためにはそれこそどこか隅っこの小城一つだけ残してやればいい。次こそは四国をまるごと取ってくれないと」
「いや、お前は京に上るために四国を取るのであろう? だったら先に東へ向かうべきだ」
「細川や長宗我部より一条のほうが見るからに弱いでしょ? どうせ全部頂くんだから。弱いところから。それに、今京に上ったって国三十六個取ってないから無駄だよ」
「三十六個?」
「あ、いや、その……まだ兄上の手元には全然支配下の国が少ないってこと。中国、四国、九州、全部必要。天下を取るってこういうことだよ」
「天下を取る? また偉そうなことを」
 やっと隆房が笑い顔になった。しかし、千寿はそんなことで心動かされない。
 「偉そうなこと? 本気だよ! とにかく、早く支度して」