千寿イメージ画像
「あのさーー、結局、岩国の忍者砦ってどうなったの?」
 千寿が隆房に聞いた。
 二人は若山城の寝所の中で、まだ明るいうちから床についていた……のではなく、もう、昨夜から今日の昼時までずっとごろごろ寝て過ごしていたのであった。
 夜通し公家の稚児のコスプレ千寿と愉しんだ隆房は、もう起き上がる気もしない。山田ならぬ鷲塚同様、子どもと違って徹夜は辛い。
「ねーー聞いてるの!! 忍者砦!!」
 千寿が耳元で喚くので、仕方なく起き上がった隆房。
 寝起きがだるいイケメンは、喧しい子どもの声にイライラした。
「……忍者砦、とは?」
 隆房は欠伸を一つして、かったるそうに言った。
 まるで、あの公家館の大内義隆そっくりである。
「兄上から落とすように頼まれたっていう岩国の忍者砦だよ」
「ああ、あれか。お前の言った通り、たかが忍者砦だ。弘中に行かせた」
「それで? 落とせたの?」
 そう言えば……まだ、報告がないような? 隆房は思い出した。
「あんまりぐずぐずしていると、兄上に嫌われるよ」
「金も兵糧もないし、兵もおらん。たかが砦一つとは言え、そう簡単ではないわ」
 そう言って、隆房はまた横になってしまった。
「隆房様ーー、もうここは前の公家館の配下ではないんだよ。金蔵も米蔵も溢れてて、城は難攻不落の堅城になってるし、兵力は五万もある。これで、たかが忍者砦一つ落とせなかったら、もうおしまいだよ!!」
「うーん……何が公家館だ……お前が適当にやってくれ」
 何と、隆房は再び寝てしまった……。
 だめだ。こんな事では、兄上の家臣団の中では埋もれてしまう……。千寿は眉をひそめた。公家館の間抜けな殿様の下では軍事部門責任者などに抜擢され、武芸に秀でた将として、重宝されていた。だが、それは、殿様同様、他の家来が皆へろへろだったからだ。
 昌興配下の諸将は悉く命知らずの猛将ばかり。こんな風に寝転がっていたら、あっと言う間に、誰にも必要とされない無能な輩に成り下がってしまう。こうしている間にも、例の忍者砦は他の者に落とされてしまったかもしれない。

 千寿は隆房を置き去りにして自分の部屋に戻り、ゲーム機を調べた。
 隆房のデータを見ると、未だにイエローカードだ。主とはそりが合わない、勲功の割に報酬が少ない、家臣の数が足りていない……。
 そりが合わないのは仕方ない。主義・思想が異なる上、性格も合わないのだ。勲功のわりに報酬が少ない事は気の毒ではあった。しかし、山田の説明によれば、この「勲功」は「造反」したせいで、大内家にいた時の数値をそのまま引き摺ってきてしまっているものだ。
 隆房は大内家から寝返った事で、勝手に自分自身を有川家の大恩人のように思い込み、偉そうにしている。しかし、実際には、その後大した手柄もたてることができずにぶらぶらしている。
 その間に、昌興に張り付いて合戦に出まくっている徳山隆幸のような連中が、どんどん勲功を上げている。このままでは、そのうち追い越され、新たに支配下に入れた城は、これらの連中の間で山分けされてしまう。隆房が新しい城をもらえる可能性は更に低くなり、「勲功の割に報酬が少ない」という不満はいつまでたっても解消されない。何とかしなくては。
 とにかく、有川家の中では隆房は外様なのだから、手柄をたてまくるしかない! にも関わらず、昼まで寝ているとは何という体たらくだ。
 その原因はお前だよ、千寿は隆房の妖艶な囁きが聞こえた気がして、思わずぞっとした。

 そして、「家臣の数が足りていない」についてだが、全国津々浦々から(実際には畿内以東からのみ)集まった新しい家来達は、昌典の宇部も含め、すべての城に均等に配置されたはずだった。しかし、若山には誰も送られて来てはいなかった。隆房を警戒したのか、それとも、千寿が家出したことで兄に嫌われたのか、理由は分らないが、未だ人手不足のままのようだ。
 一体、ここには、どんな人物がいるのか見てみる。弘中隆兼、江良房栄、野島親成、野島通孝、陶八千穂、合計五名。弘中と野島父子、それに、隆房の姉・八千穂については、知り合いではなくとも、名前くらいは分る。
 しかし、この、江良房栄というのは、何者であろうか? 「列伝」を確認する。例の「厳島の戦い」の前に、隆房を裏切って毛利側に内通。しかも、その内通後の待遇について毛利側ともめ、結果、隆房に裏切りがバレて成敗された、とある。
「毛利元就、その息子、家来、寝返った奴、全員殺す……」
 千寿はまたも鬼気迫る表情になっていた……。


 さて、野島親成は陶家の名だたる家臣であった。一体どのような輝かしい列伝が記されているのか。わくわくしながら画面をタッチ。
「え? 列伝が……ない」
 何と、捏造された人物であった。そして、父親が捏造ならその息子の野島通孝も当然のごとく捏造品。そして、隆房の姉・陶八千穂までが捏造品であった。
 しかし、もしもこれらの捏造品がいなければ、この城には元々隆房以外に、弘中と「抹殺決定ターゲット」江良両名しかいなかったということではないか。隆房を合せてもやっと三人。これだけで、何をしろと?
 千寿は誰かは知らない捏造主の、隆房への配慮に感謝すると同時に、鷲塚が言っていたゲーム運営という輩を呪った。

 気を引き締めて、今度は地図画面を確認。
「岩国の忍者砦……っと。あ!!」
 岩国という地名は地図上にあった。つまり、ここに城を建てれば、その後捏造を加えて、この若山の公家館二号のような、豪華絢爛趣味悪しの城……いや、難攻不落の堅城に変えることが出来るのではないか?
 しかし、現状岩国に城はなく、その忍者の砦とやらがあるせいで、捏造が加えられない状態だった。先ずはその、忍者砦とやらを落とすことが急務のようだ。