鷲塚昭彦イメージ画像
「お金の事で思い出したんだけど……」
 千寿はいつになくいまいましそうに言った。
「あの、相良みたいなネズミ野郎が、この城の中を取り仕切ってるのは腹が立つよ。でも、現状家来の数が全然足りないの。ほら、隆房様も、『家臣の数が足りていない』なんて、怒ってたでしょ? 何とか家来を増やしたいんだ。どうやって捏造するの?」
 家来の捏造は難しいことではない。千寿そのものも捏造品ではないか。しかし、ここでそれを言うのはやや不謹慎であった。その時、千寿が思い出したように言った。
「そういえば、この機械、やっぱりおかしいよ」
 今度はなんだ? 鷲塚はやや警戒した。
「『列伝』のある人は実在した人物、ないのは捏造……だよね? でも、『列伝』もないけど、捏造表にも載っていないのがいるの!」
 千寿が言いたいのは、一条恒持の事であった。捏造表にはないのに、「列伝」もない。つまり、ゲーム機の中にはこの人物は存在していないのだ。謎過ぎるではないか……。
「ああ、そのことか。しつこく言うが、それも、運営会社の連中の手抜きだ」
「手抜き?」
「そうだ。一体、この時代、どれほどの人物がいたと思う? 全てをデータ化するのは不可能に近いんだ。だから、適当に、運営の連中が目を付けたものだけデータを作る。その他大勢は面倒だから作っていないんだ」
「作っていない!?」
 千寿はびっくりした。存在するのにデータを作ってもらえないなんて!<
「そうだ。列伝もデータもないが、歴史上は間違いなく、存在した、そういう連中だ。正直、そのような連中のほうが多いはずだ。この前君が言っていた、いじれない土地があるのと同じ理屈だ」
 鴻ノ峰に築城することは可能なのに、ゲーム機の中に鴻ノ峰のデータがないせいで捏造して手を加えることが出来ない。それと同じように、人物にも確かに存在するのにデータ化されていないため、手を加えられない者がいるわけだった。
「よし、次はいよいよ、この『家来を増やす方法』について教えよう」
 鷲塚の言葉に千寿の顔にぱっと笑みが浮かんだ。かつて大内義隆が愛した、あの天使のような笑顔。
 そして、この時、かつての主は未だ長く苦しい筑前への逃避行の途上にあった……。

「さて、今日は君に私オリジナルの特別な裏技を教えよう。これは攻略サイトなどには載っていないものだ」
 鷲塚はおもむろに言った。
「おりじなるって?」
「えーー、つまりその、他の連中には思いもつかない、私独自のものなのだよ」
「へーー」
 千寿はさも聞きたそうに目を輝かせた。相手が無条件で何でも教えたくなるような、なんとも愛らしい表情だ。
 ここまでくると、鷲塚にも、これは一種の彼一流の「演技」であり、かつて例の間抜けな殿様の前でそうやっていたのと同じく、相手の心を掴むためにわざとやっているのだとまる分かりであった。まあ、しかし、聞きたっがていることにかわりはないであろう。

「先ず言っておくが、このゲーム運営は相当な依怙贔屓なのだ」
「またそれ? その『運営』っての、悪者なの? それとも馬鹿なの?」
「両方だ……」
 鷲塚はかつて、普通版のこのゲームをプレイしつつ、何度も詰みそうになって喚いていた自分を思い出していた。そして、自らのルーツだとされる四国の長宗我部家に対する扱いの酷さ。学生時代親しくしていた友人の出身地の殿様、九州の伊東家に対する馬鹿にしているかのような扱い。
 そして、攻略サイトでまことしやかに囁かれていた、小田原の北条家に対する異常なほどのてこ入れぶり。今こそ全プレイヤーが立ち上がるべきなのだ!(と言っても既に鷲塚の世界ではこのゲーム運営は倒産、プレイヤーも当然いなかったが……)
「私はこの酷い運営のやり方に我慢できず、プレイ内で密かに復讐することを誓った。そして、今度は君の手を借りて、リアルで、この復讐を遂げる。そんな目で見ないでくれ。これは、勿論、君のためにもなる事であって、兄さんの天下統一には必要不可欠な事だ。我々二人のためになる事なのだ」
「よくわかんないけど、早くして」