鷲塚昭彦イメージ画像
 1000年過去の時代に再びタイムトリップした鷲塚昭彦は、今回の密航のために取得した1週間の有給休暇のうち2日間を既に使ってしまった。最初の1日は牢屋の中で、2日目は千寿の到着を待ちながら、ネズミ妖怪相良武任と過ごした。そして、残りの僅か5日間で、彼なりに調べてきたゲーム、いや天下統一の攻略法のすべてをこの過去の少年に教え、更に、今回は見返りのお宝が一切手に入らないという、とんでもないことになってしまった。
 しかし、覚悟を決めた以上は最後までやり遂げる、これが鷲塚という男のモットーであった。
 山口城の一室で、二人はとにかく教え、学び合った。夜になると、陶隆房が迎えに来て千寿を連れて行き、ほかの部屋で二人して休むが、それ以外はほぼ缶詰状態である。食事と飲み物は相良が運んできたが、飲み食いしながらも講義を続けるという、やや行儀の悪いことになった。しかし、そのくらい、二人には時間が足りなかった。
 まったくもって、徹夜で議論を戦わせたいところだが、隆房は決して二人が夜になっても離れずに語り合うことを許さなかったから、時間はますます足りなくなった。

「君のあれこれの疑問は分かった。それは後回しにして、先ずは大まかなやり方を確認しよう」
 鷲塚は早速講義を開始した。
「捏造を加えると、様々な矛盾が起こる。倉庫にはあるはずのない物資が溢れるし、防御をいじられた城は、謎の天変地異のお陰で破壊されることが分かった。君の兄さんはそのせいで、妖術使いなどと後ろ指を指され、こまっているようだが、気にすることはない。次は我が身と怯える連中などが、要らぬ噂を流して君たちを貶めていると思われるが、もっともっと強くなれば、こんなことを言う輩は消えるはずだ。むしろ、神のお導きで、悪い敵方に天罰が下ったのだ、などと言い始めるだろう」
「そうなの?」
「ああ。勝てば官軍と言ってな、強い者、勝った者こそが正義なのだ。歴史なんてそんなものさ。で、大地震やら暴風雨で城が壊れるのは自然現象で説明がつくから、そんなに気にする必要はない。そして、金蔵と米蔵の事だが……これも、恐らくは、目にした者はとんでもなく驚いてしかるべきだ。しかし、今のところ、そういう声は上がっていない、そうだな?」
「うん」
「どうやら、この件については、関係者がだんまりを決め込んでいると見た。増える分には減るより良いし、こっそり横領したりしている可能性もあるが、いくらでも増やせるのだから目をつぶろう。しかし、防御力を上げる際には問題がある、そうだな?」
「そう。みんな腰を抜かしちゃうの……どう考えたって、自然現象では説明がつかないから」
「それで、君は、もう防御力を高めるほうの捏造をやめてしまった」
「だって、しょうがないよ。人の命にかかわるもの……」
 鷲塚は鞄の中から紙の束を取り出した。紙の資料を使うなど、デジタル化された世界ではありえないのだが、今回は特別にプリントアウトしてみたのだ。
 千寿は鷲塚からそれらの紙の束を受け取った。

「築城データ中国。周防:山口、岩国、周防高森、琴石山、鞍掛山、周防島田、須々万、徳山、若山、徳地、鹿野、仁保、敷山、嘉川。長門:指月、江崎、弥富、徳佐、渡川、明木、真名、門深川、大嶺、長生寺、丸嶽山、小串、小月、厚狭、宇部 、櫛崎、長門大井、日置……これって、例のゲームの中で、城を建てれるか、もしくは既に建っているところだね」
「そうだ、さすがに賢いな」
 鷲塚はふっと笑った。生徒が賢いほど、教師には教えがいがあるというもの。
「でも、この、人口、最大道数、最大進出数、最大改修数、それに、水田、城形状っていうのは……?」
 それぞれの、地名の後には、何やら数値が並んでいた。