相良武任イメージ画像
 一方、相良武任だが、何の因果か有川家の家臣となってしまった。しかも、仕官が決まると同時に、到底やり遂げられるはずのない難題を押しつけられた。
 誰があの瓦礫の山を元通りになど出来るものか……。ここはとんずらして他家へ向かうよりほかない。だが、一条家への推薦状は取り上げられてしまったし、何処へ行けば良いのか?
 そんなことを考えながら、とにかく、有川家の支配が及びそうにない遠い所を目指そうとしたのである。しかし、辰子の言うとおり、とんでもない方向音痴のこの男は、思いもかけない場所に到着してしまった。
 何やら、遠くに豪華絢爛な巨城がそびえ立っている。
 その天守の神々しいばかりの姿は、遠目にも分ったから、一体どこの誰が治めている城なのか確認もせずに、とにかく、仕官の口を求めてその城下に向かった。何やら分らないが、相当に繁盛しているようだ。
 そして、やっとの事で辿り着いた城の前で、勿論、いきなり、門番に仕官したいから通してくれなどとは言えぬから、通りすがりの町人風情をつかまえて尋ねてみた。
「そなた、ここが、どこの殿様の城か分るか?」
「俺はただの通りすがりだ。だが、ここは有川家の山口館だって事くらいは知ってるぜ」
 町人風情は馬鹿にしたような顔で相良を見ている。
「な、何? 山口館、と言ったか?」
「他になんて呼ぶんだ?」
「い、いや、その……元大内家の山口館では?」
「そのくらいは知ってる、って言ったろ? 元の腰抜けの殿様は有川の殿様に攻められて逃げ出したって話だ」
「いや、しかし、あの元館は、大地震で瓦礫の山に……?」
「はぁ? だから、俺は通りすがりだって言ってんだろ? 瓦礫の山だかなんだか知らんが、俺が見たときはもうこんなでかい城だった。それじゃな。あんた、大丈夫か? 頭」
 無礼な町人風情に腹を立てる余裕はなかった。
 相良は我が目を疑った。絢爛豪華なこの城が一夜にして建つはずはない。
 これは夢か幻か?
 その後も何人かの通行人をつかまえては聞いて回ったが、答えは皆同じだった。どうやら、本当に、元大内家の公家館改め現在は有川家の山口館(城?)であるようだ。
 そして、最後に尋ねた通行人が教えてくれた。
「ここだけの話だけどな、一晩寝て起きたら、こんなどでかい城が出来ていたんだ。有川家ってのは、どれだけすごいんだか……想像も出来ないだろう?」
 相良は確信した。もう間違いない。
 これは、一夜にして建て替えられた、有川家の新しい城だ。しかし、こんな巨城をどうやったら一晩で造れるのか?
 しかし、昌興は確か、守護館を修繕しろ、と言ったはず。城は鴻ノ峰に建てるのではなかったか? そして、館の修繕に向かわされたのは、他ならぬ相良自身だったはずでは……?
 何が何やら分らず、相良はその場で卒倒した。もう、正常な頭ではこの摩訶不思議な事態を説明することが出来なかったからだ。

 無論、これら諸々が、千寿の手になる、データ捏造の結果であるのは言うまでもない。
 こうして、有川家は元主家にあたる大内家の本拠地・山口館を手に入れ、そこに山田が見たら例によって信長の安土城もかくやと言うであろう巨大かつ堅固な城を一夜にして建ててしまった。それに引換え、雲外門のスイッチを使い、己だけでも助かろうなどと目論見、挙げ句、実の娘や養子にも裏切られた元主大内義隆の情けなさ。
 だが、新たに周防の国を治めることになった有川昌興はなおも行きがかり上「主に造反」するなどと「不忠」を働いてしまった自らを悔いていたし、異母弟の昌典はそんな兄をただの「戦馬鹿」と内心軽蔑しながらも、何故か湧き出る泉の水のごとく尽きることを知らぬ金蔵と米蔵の秘密を隠蔽し、それらの利益を自らの懐にいれたようである。
 どうやら、様々な問題を抱えつつ、しかしもう、後戻りはできないのであった。
 山田という未来から来た謎の男はこうして、千寿や兄たちの運命を変えた。
 さて、この先どうなることやら……。

 この続きは第二章にて。


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