千寿イメージ画像
 千寿はゲーム画面を見つめながら、物思いにふけっていた。
 山田は歴史は自由に捏造できる、と言っていたが、もしもその捏造をしないのであれば、隆房は謀反して殿様を殺し、その後、厳島で毛利との合戦に敗れて死ぬ運命なのだ。自分自身の身分も危ういのに、先ずは隆房のことばかり考えてしまう。
「仲良し度百ぱーせんと」
 そっと呟いてみる。
 そう、有川昌春なる人物と陶隆房は山田が教えてくれた仲良し度の♡マークがMaxになっていた。
 いったい、この昌春とは誰なのか? 山田は千寿自身のようだと言ったが……。
 千寿はその人物の画像を見つめた。
 鎧兜に身を包む英姿颯爽な若武者一人。そこそこ整った顔立ちではあったが、イケメン過ぎる隆房のような妖艶さはない。しかも、どこか小生意気な雰囲気。これが数年後の自分の姿なのか?
 ナルキッソスとやらも己の姿がこの程度であったら、見ても恋い焦がれはしなかっただろう……。

 そう言えば、山田は何やら、いべんとなるものも捏造できると教えてくれた。そしてこのゲームの元持ち主は、そのいべんとすら捏造しているらしいのだ。
「イベント編集機能……これかな?」
 画面を開くと、イベントとやらがずらっと並んでいる。きっかり百あった。
「な、何これ……!?」
 密会、二人だけの、書庫の秘密、春望、造反、独立……訳の分らないタイトルの羅列の中に「千寿のこと」と書かれたものがあった。
 画面を開くと、イベントのあらましが記されている。
「千寿と言うのは宇部の有川昌興の弟だが、今は人質として山口館にあった。館の主・大内義隆には稚児狂いの性癖があり……」
 読むに堪えない駄文の後に、延々と会話文が続く。
 会話の主は陶隆房と千寿で、二人が義隆の目を盗んで館の書庫で逢い引きをしている場面の睦言が綴られていた。
 それが、まさに、現実の自分たちがやっていることと、全く同じであったため、千寿は何やら空恐ろしいものを感じた。

 そして、そのほかのイベントもすべて調べ尽くしたが、どれにも必ず隆房が出ている。そのうちの半分くらいに、千寿もしくは有川昌春という人物も現れて、何やら密談したり、一緒に謀反したり、あるいは、そういう秘め事を行っていたりするが、とにかく、もう、これでもかと言うほど、どこもかしこも隆房だらけなのである。
 そして、そのイベント中の千寿と有川昌春とは、画像が同じ、つまり同一人物であるらしい。あるイベントには千寿が元服して昌春となったことが明記されていた。もう、これは間違いない。

 大内家では、主立った家臣の子弟が元服する際、当主が烏帽子親となり、偏諱を受ける習わしがあった(まあ、これは大内家に限った事ではないのだが)。内藤興盛の「興」の字は先代の義興から、陶隆房の「隆」の字は現当主の義隆から「一字拝領」したものであった。だから、家臣の中には「興」某もしくは「隆」某が大量にいた。
 これは、時には属国の子弟にも適用された。毛利家の嫡男・隆元の「隆」の字も、同じく義隆より賜ったものなのである。
 隆元は元々千寿と同じく人質の身分であったが、元服してこの名前を頂戴すると、更に養女ではあったが義隆の娘を娶り、国許へ帰ることを許された。
 現在の寵愛ぶりを見れば、当然千寿も同じように「隆」の字を賜るであろうことから、元服したら「隆昌」となるものと思っていた。この名前の響きが気に入らず、吐き気すら覚えたが、どうやらそうはならないらしい。
 そう、すでに、雲外門の存在が「人質」としての身分からの解放を表しており、あの凄まじいまでの捏造のお陰で、有川家が無双する事は明らかだから、「隆昌」として、このまま山口館で籠の鳥の一生を送ることはなくなったのだ。
 本来なら喜ぶべきこれらの事が、千寿には何故か受け入れがたかった。それは、名前や身分の問題ではない。あれらの謎のイベントなるもののせいであった。
 隆房だらけの物語の中に、添え物として現れる哀れな少年。時に隆房に命を救われ、時にその配下として謀に手を貸し、時には単に慰みものとして傍に置かれているだけの存在……。
 千寿は頭がくらくらした。もしやして、自分は単に隆房を輝かせるために創り出された文字通りの捏造品なのではないかと思えてきたのだ。