千寿イメージ画像
「では、兄上や、父上についてはなんと書いてある?」
 やっと発作が治まったのか、千寿は力なくその場にしゃがみ込んで呟いた。
「残念だが、君らは捏造品だから列伝はない。……あ、すまん。怒るなって。能力値的にすさまじい強さになっているので、ほっといても天下統一するはずだ。とりあえず、現状をみてみるか……」
 山田はさらに画面をタッチ。
「おや? 君の言う隆房様には、造反フラグが立っている。それから、この青景という人物もだ。これはまずい」
「ふらぐとはなんだ?」
「いや、まあ、これを見てくれ。忠誠値が真っ赤だろう? しかも、『家臣の不満を気にも留めぬとは……』などというメッセージが。これは、たいてい、ほかの国から寝返りを勧める声がかかってるケースだ」
 千寿はそれを聞いて、ふふ、っと笑った。
「もしかして、声をかけたのは君か? うーん、君たちは仲良し度100%ではないか。これも捏造か?」
「仲良し度? 百ぱーせんと?」
 千寿の顔が何故か赤くなる。
「まあ、この有川昌春なる人物が君だと仮定した場合だが、陶隆房とは相性が最高なのだ」
 人物にはあらかじめ主義・思想が設定されている。保守的なのか、革新的なのか、その中間なのか。そして、性格は義理人情に厚いのか、そうでないのか等々。そうした主義・思想と性格の違いから、相性の合う合わないが決まる。
 見れば、陶隆房は保守的で、才を重んじるタイプ。そして、この有川昌春も全く同じ保守的で才を重んじるタイプだった。ここで、そもそも相性はバッチリなのだが、そのほかに「仲良し度」というものがある。これはまともにプレイするとなると、せっせと相手の家に会いに行くなどして高めていくべきものだが、実はこれすらも捏造できてしまうので、面倒なら最初から数値をMaxにすれば良い。
「仲良し度が高い状態で声をかけると、謀反に応じてくれる確率が高くなる」
 山田は眼光鋭く、千寿を一瞥した。スクエアフレームの銀縁メガネがキラリと光った。
「そ、そのような裏の事情を、お前に話す必要はない……」
「気にするな。私はただの通りすがりだ。君たちの裏の事情について気付いたとしても、告発などしない」
「……」
 何やら、先程までの生意気な態度が瞬時に改まったように、千寿は山田の前でうつむいてもじもじしている。
「どうやら君は、この陶隆房なる人物に相当思い入れているようだな」
 今度は山田がふっと笑った。
「確かになかなかのイケメンだ」
 山田はゲーム画面の隆房を眺めつつ言った。黒い甲冑に白の陣羽織。右手を掲げて手にした采配を肩に乗せたポーズが様になっている。まさに絵に描いたような美男子だ(というか、実際絵ですわな)。これだけで、どれほどの女性が魂を抜かれてしまうか分らない程のイケメンぶり。更に、萎烏帽子からはみ出た後れ毛が端正な顔にかかる様はどこか妖艶さすら漂う。
「い、いけめん……とは?」
「美男のことだ。彼は文字通り容姿端麗だ。しかし、どこか妖艶でナルシスの匂いがする」
「なるし……す?」
「ギリシア神話に出てくるナルキッソスという美少年は水に映った自分の姿があまりに美しいのに恋い焦がれ、もう他の人物を愛せなくなった。ナルシスト・自己陶酔の語源だ」
 1000年前の子供に、この話の意味が通じたとは思えないのだが、千寿はなにやら興奮し、最後は涙すら浮かべる始末。
「君たちの関係について私が口を挟むべきではないが、恐らく、君の言うところの『武家の嗜み』というものとは違うようだな」
 千寿は山田に、殿様の武家の嗜みのせいで、寝所のつとめをやらされており、そのお陰で殿様から大量の褒美の品を賜り、それを山田に横流ししてくれること、また、殿様の覚えめでたいがゆえに、山田と殿様との会見を成功させる自信があること、などを話していた。
 山田は唯一詳しい織田信長にも、森蘭丸のような人物がいたことを知っていたから、まあ、そんなものかと思ったのだった。しかし、どうやら、この大内家というのはかなり特別らしく、それに、スチル画像しか分らないが、このイケメン過ぎる男、陶隆房とやらも、この泥沼化した世界に深く関わっているようである。先程の殿様も、ゲーム画像とまるで同じ顔だったので、恐らくはこの陶もそうだろう。だとしたら、それこそ絶世の美少年だったはずで、年齢的に見て、数年前までは千寿と同じく、スケベな殿様のお傍にいた可能性が見え隠れする。
 これは、とんでもない三角関係ではないか。
「……」


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