大内義隆イメージ画像
 山口館の主・大内義隆は、関心もなさそうに、山田太郎なる人物の謁見を許した。
 束帯姿で上座に陣取っているその姿は、山田が座標の設定ミスで「平安時代」に着いたと誤解したのも頷ける。義隆は公家趣味で有名な人物であり、装束も日常生活も、何からなにまで京の公家のそれに倣っていたからだ。さすがに家臣の日常生活までそれを強要することは無理だったが、身辺に置いている千寿のような者は皆、殿様の命令で公家風の衣装を身に纏っており、ここは戦国時代でありながら、見かけ上は平安時代であった。
 一方で、殿様本人は全体的に仰々しい装束とは真逆の、かったるそうな雰囲気を醸し出していた。細い目には覇気がなく、にやけたように見える容貌には人の好さというよりは、好色な匂いがぷんぷんする。実際には三十半ばを過ぎたところであったが、四十はとうに過ぎているように見えた。年より老けて見えるのは、「威厳」とは全く別物。文字通りのやる気のなさで、若々しさが感じられないのであった。


 さて、歴史的知識をSLGから得ている山田には、織田信長レベルにメジャーな人物しか分らなかったが、実は大内家はかなり「繁盛」していた。それこそ、山田が望むお宝の宝庫であった。南蛮人はひっきりなしに訪れるし、商人達の付け届けも半端ない。

 よって、山田のような怪しげな風俗の人物が訪れ、怪しげな品を持参したとしても、お殿様の謁見まで行く事は稀であった。しかし、今回は寵愛する侍童・千寿の推薦だったので、何とか直に会うことが叶ったのである。
「太守様、この者が申す雲外門とやらは、とんでもない品にございます。それがあれば、いつでも好きなときに好きな場所に行けるのです!」 
「ほお? いつでも好きなときに好きな場所に?」
 太守様は仰ったが、言葉とは裏腹に、そんな物には全く興味がなく、ただひたすらに千寿に戯れかかっている。
 歴史に詳しくない山田もこの「武家の嗜」について、おおよそのことはすでに千寿からレクチャーされていたので、そのようなシーンはさらっとスルーしながら、売り込みを開始した。

「まあ、とにかく、実際に試してみるのが一番です。どこか、勝手に使っても構わないドア、いえ、扉や門のようなものはございませんでしょうか?」
「この者に、使用人用の木戸を使わせてやれ」
 太守様は何の関心もなさそうであったが、千寿がその手を引っ張って山田の後に続かせる。

 この時に、使用人用の木戸を選んだことに後々後悔することになるのだが……。

 さて、下々の使用人どもはお殿様の目に入らぬよう、あらかじめその場から追い払われた。
 そして、程なく大勢のお供と一緒に、殿様がその薄汚れた木戸の前にご到着。
 山田は鞄の中から何やら機材を取りだし木戸を調べてから言った。
「使用条件は全てクリアしていますが、本当にこんな物でよろしいので?」
「そのほうの馬鹿げた商売に我が屋敷の正門を使えとでも言いたいのか?」
 太守様は気まぐれだ。つまらないことで命を落としては困る。
「いえいえ、これで十分ですとも。すみませんが、これと同じものをあと九つ用意して頂きたいのですが」
「そんなこと造作もないわ」
 殿様の命令で、同じような木戸が九つ作られたが、やや時間がかかるので、そこは省く。

 山田は出来上がった木戸の一つに何やら細工を施した後、それを館の外れに設置させた。
 そして、勿論木戸作りなどに付き合ってはおれず、自室に戻られていた殿様に再びお出でいただいた。
「現在、この木戸ともう一箇所がワープ出来る状態でスタンバイしております」
「わーぷ? すたんばい? 何じゃそれは……」
「ああ、その、準備完了という事です。試しに私も一緒に参りましょう。お殿様と、そちらのお小姓、それに私とで」
「誰がそのほうのような下郎とともに行くなど……」
「太守様、ここは戯れと思って、お付き合いを。何やらすごいことになりそうです」
 千寿に手を取られると、もう後には引けない。よって、殿様、山田、千寿の三名がそのボロい木戸の前に並んだ。
「一応、あちら側には仮に木戸二号、と入力しております。では、行きましょうか。木戸二号」
 山田がそう言って、木戸をくぐると、千寿に手を引かれた殿様も渋々付き従う。
 そして、三人が木戸を潜り抜けた先に、なんと、殿様の命令で作られた九つの木戸のうちの一つ、山田の言うところの木戸二号があった。
 殿様は、現在自分が立っているのが、木戸を潜る前とは全然別の、館の外れの場所であることに気が付いた。
「何? おぬし、どのような妖術を使ったのだ? なにゆえ我らはこのような場所におるのだ?」
「妖術などではありません。これは瞬間移動装置と呼ばれるものです。私が『幽霊ウォッチ』のゲームを見て、ええと、ああ、その500年くらい続いている人気のゲームなのですが、そこに出てくるうんがいミラーという装置を実用化しようと、あれこれ研究した成果です。一応、発明家ですので」
 山田の説明は、殿様にはさっぱり分らない。しかし、なかなか気に入ったとみえて、三人揃って木戸一号と二号の間を何度も行き来した。