陶隆房イメージ画像
招かれざる客

 我に「謀反」の疑いがある、とのあからさまな「讒言」が続き、面倒ゆえ病と称して御前に近づく事を避けていた。主は無能なのか、或いはかつて寝所に侍っていた時の誼でも信じていたのか、我が叛意を抱いている、という話を聞いても積極的に動こうとはしなかった。誅殺すべきであるという物騒な注進すら無視された事からも、それが知れる。一方で、我らが決起したところで何も出来はしまいと高を括っていた、というような見方も出来るであろう。

 年が明けて、行方をくらませていた相良武任が筑前で捕らえられ、周防に連れ戻されたとの知らせが届いた。すべては我が身可愛さゆえであろうが、大内家を出たり入ったりと、慌ただしい男だ。それこそ、信頼に足り得る「忠義の臣」とはとても思えない。
 だが、信じがたいことには、主はそれでもこの男を「重用」することを止めず、再度出仕させたと聞く。ここまで来ると、もはや、あきれて物も言えぬが、どうやら遂に、主も我らの「叛意」を「確信」したと見える。

 それから暫くしての事。豊前守護代の杉重矩から使いがあり、我らは密かに会う事になった。元々、あまり馬が合わぬゆえ、周囲からは犬猿の仲とまで言われてきた相手である。更に、家中の対立の輪の中では、むしろ主の側に従う素振りを見せていたから、このような男と会う理由はまるでない。
 しかし、どうやら風向きは我が方に向いているらしい事は分かっていた。何しろ、千寿の生前からこの方、御前に侍る者は替わっても、それらの者たちが我と通じていることは代々受け継がれて来ている。よって、相手側の動きはこちらに筒抜けとなっているのだ。
「このような夜更けに、一体如何なる用件ですかな? 伯耆守殿」
 年から言えば相手が上だが、官職ではまあ同等である。
 杉は居住まいを整えると、周囲に気を配りつつ慎重な面持ちで切り出した。
「単刀直入に尋ねるが、貴殿らの『企て』の話は誠か?」
「『企て』、というのは?」
 分かり切った事を敢えて問い返す。杉は更に間合いを詰めると、囁くように続ける。
「相良の『申状』については、聞き及んでおるであろう? 何やらわしが貴殿らと組んで謀叛を企てておる、とか」
 例によって、相良の讒言であったが、今度は勝手に出奔した罪を曖昧にしようと、更に大胆な申し開きをしたようである。例の「陶隆房に謀反の疑いあり」という話の中に、杉も一枚噛んでいる、という真新しいことを付け加えて申し述べたらしい。
「もとより我らは、互いに命を懸けて、そのような大それたことを語り合うほど親密ではないはずですが……」
 関心なさそうに言ってやると、杉は我の気を引こうと必死に語り始めた。
 杉によれば相良の「申状」とやらはこうである。杉は我らの『企て』に関して、御前にて注進したが、主がどうしても聞き入れようとしなかったので、業を煮やした挙句、逆にこちら側に寝返った、という事にされてしまった。また、注進を行った事で相良同様、我らに命を狙われてはかなわぬと、主の側に付くと同時に我らにも媚を売る風見鶏のような行為をしている、とも。
「わしはここで貴殿に斬られることもあり得ると、覚悟の上でやって来たのだ。これ以上は放置できぬ。御館様はいつまで、あのような男をご寵愛めさるるのか、もはや我慢の限界でござる。いっそ、あの男の『讒言』通り、貴殿らに付こうと思うたのだ」
「まあ、味方は多いに越したことはありませぬゆえ」
 我はそう言ってやり過ごしたが、そもそも、人と人との繋がりなどこの程度のものである。この男にとっては、現状我らの側に付くほうが、「まし」だと感じたのであろう。

 招かれざる客との面会を終えたあと、一人寒空を眺めた。
 桜の花が咲くまでにはまだだいぶ時がある。我にとって真に心を通わせることができる相手は、今は「妖」と化してしまった千寿しかいなかった。つぎに会える日はいつなのか、指折り数えて待っている。それがこのところの日課となっていた。