この作品は完全なるフィクションであり、いかなる実在する人物、地名、出来事とも一切無関係です。

周防国仁保・瑠璃光寺

蓮池に架かる橋の上。二人の童が欄干に腰掛け、足をぶらぶらとさせながら、膨らみかけた蓮のつぼみを見ていた。一人は鶴。一人は亀。

鶴は千年、亀は万年とか。縁起物のような一対の幼名で呼び合う二人は、この国の中で、この上なく尊い家柄の跡継ぎ。そして、お互いに誰よりも信頼し合う「友」であった。

大切なお世継ぎ様が、池に落ちでもしないかと、心配のあまり腰を抜かしている年老いた住職など知らんぷりで、二人はいつもこの場所で駆け回っていた。

もちろん、池に落ちたことはなかったが。

「このところ、館にも顔を見せぬゆえ、心配していたのじゃ。鶴が元気で良かった」

亀が心配そうに友の顔を覗き込んだ。

「あの館は縁起が悪い。二度と行くものか」

「縁起が悪い?」

「御館様に嫌われている。何度も叱られて、もう二度と来るな、と言われた。だから行かない」

「父上は鶴を嫌ってなんかいない。怒られるのは鶴がふざけすぎるからだ」

「それはどうかな」

「ん?」

「多分本当に嫌われてる。顔を見たら分る。鬼のように怖かった」

そう言って、鶴はにっと笑った。

「父上は鬼ではない。無礼だぞ」

亀は口を尖らせてしまった。

「亀でも怒るのか」

鶴は驚いた顔で見返した。

「のろまな人間は気が長いゆえ、怒ったりはせぬと思った」

それを聞いて、亀はますますむくれた。

幼い二人の間に主従の別はないが、亀が主君の息子、鶴が家臣の息子である。

「そろそろお戻りになりませぬと、日のあるうちに御館に帰れませぬよ」

ふいに、どこから現れたのか、若い男が彼らの後ろから声をかけてきた。

「時間が経つのは早いなぁ」

「亀がのろまだからだ」

亀はお供の男と共に帰っていき、後には鶴一人が残された。