大内義興イメージ画像
 明応三年秋。
 興隆寺は再びその荘厳な姿を取り戻した。政弘は勿論、家臣たち、そして領民に至るまで、このことに狂喜しない者はいなかった。
 そんな中、義興は氷上山で装いも新たになった氏寺の姿を目にしながら、胸中複雑であった。
――焼けたものは建て直せばよい
 その言葉の通り、焼けた建物は元通りに再建された。しかし、建物と違い、「人」は失われれば、もう二度と戻っては来ないのである。
 陶弘護はある日突然、吉見信頼の凶刃に倒れ、二度と帰らぬ人になってしまった。幼い日、「遠い所に行ってしまった」と母から教えられた意味が、今の彼には当然分かっている。例え、こんな信じられない凶行に遭わずとも、戦や病、不慮の事故など、「遠い所」に行ってしまう可能性は誰にでもある。そして、やがて寿命が尽きるその時が来れば、誰もが「遠い所」へ行くことになるのだ。
(その時には叔父上に会えるのだろうか……)
「どうなさったのです?」
 脇にいた篠が尋ねた。夫婦そろって館の外に出たのは、これが初めてである。篠はこの日を楽しみにしていたし、当然、夫もそうであると信じていた。なのに、なぜか憂いの表情を浮かべているのが気になった。
「いや、氏寺の再建がなった事、まことにめでたいことであるな」
 めでたい、と言いながら、義興の顔にはまるで喜びは感じられない。
「……何か、気がかりなことでもおありなのでは?」
「ん?」
「お顔に書いてあります」
「そうか? いや、少し、今は亡き人を思い出していたのだ」
「武護様のお父上のことですね」
 まさに以心伝心。阿吽の呼吸とでも言うべきか。義興はやや驚いた表情で篠を見る。
「あなた様が心から慕っておられるのは、お父上とお母上を除いたら、武護様とそのお父上だけですもの」
「なぜそなたは中にはいっておらぬのだ?」
「……わたくしは、まだお知り合いになってから半年くらいですから」
「何が半年だ、まもなく一年ではないか。年越しまで、おそらくあっという間だ」
「では、わたくしもあなた様にとって大切な方々の中に入っているのですか」
「馬鹿な。聞くまでもなかろう。それに、我らの出会いは半年や一年ではない。違うか」
「そうですね」
 あの蛍火の一夜から数えれば、確かに半年一年ではない。篠はもはやそんな言葉を聞いたからと、頬を赤らめる少女ではなかったが、心の中でそれをどれほど嬉しく思ったかは言うまでもなかろう。
「武護様のお父上とはどんな方だったのですか? あの方も、亡くなられたお父上を慕っておられた。それも尋常ではないくらい」
「そうだな。武人として、政を行う者として、そのどちらでも、いや、人として、このようにありたい、と思わせるようなお人であった」
「まあ、お父上よりも優れていらっしゃるみたい」
「これ。そんなことはない……だが、あのようにして亡くなられたゆえ。惜しいことだ」
「お父上がお元気でおられたら、武護様ももっと違った道を歩んでいたのではないかと思います。お気の毒な方……」
「……」
 篠の言葉は、義興にとってずっしりと重いものであった。鶴の心の中には常に父上の死の悲しみがあった。そして、それは吉見の残党への恨み・憎しみとなって渦巻いていた。やがてその相手が、単に吉見の残党などというものを超え、何やらもっと大きなものになっていった、そんな気がする。また、武護が姿を消した謎について思い至り、義興は何とも言えぬ重苦しい気分になった。