今小路殿イメージ画像
 洛外の某尼寺にて。三人の女が茶と菓子を頂きながら、談笑していた。一人は新介の母・今小路。そしてもう一人は、妹の珠。最後の一人は、見慣れぬ人物だ。年の頃は三十半ばと言ったところ。お世辞にも美しいとは形容できない。所謂「醜女」という者はこのような女を指すのであろうか。
 そもそも、「美女」というのは、元々限りなく平均的な顔立ちなのだそうである。大きすぎる目鼻、もしくは反対に小さすぎる目や低すぎたりする鼻。そういうものが、目障りとなるので、平均的にする。最近では、写真の合成など、いともたやすくできるので、大量の顔データを重ねて平均値をとっていくと、大量にまとめればまとめるほど、それが所謂「美女」顔に近づいて行くのだそうだ(以上ネット検索の結果です)。というようなわけで、イケメンだ、美女だと言われないからといって自虐的になる必要はありません。あなたの顔はたいへんに「個性的」であり、平均的でありふれた顔とは違う、ということになりますね。
 美女と美少女の中にあって、この「個性的」な顔立ちの女は大変目立った。
「本当に夢のようですわ。こうして無事な娘の姿を見ることができて」
 今小路はまた目頭を押さえている。年のせいか涙腺が緩くなってきた。そこへ、この娘や息子たちときたら、母を泣かせるようなことばかり繰り返すものだから。
「『敵』を欺くには先ずは味方から、と申しますゆえ。わたくしとしても、いつお伝えするべきか迷いましたが、そろそろ大内様のほうも限界になられる頃だろうと思ったのですよ」
 個性的な顔の女人が言った。女は顔でないとはよく言ったものだ。彼女は確かに「美女」ではなかったが、そこには人の好さと、なにやら慈悲深いという形容が似合う優しさが溢れていた。
「本当に、赤松様には何と御礼を申し上げたらよいか」
 今小路と共に、珠もぺこりと頭を下げる。
「いえ、わたくしはほんの二月前に嫁いで来たばかりです。夫から話を聞いた時は驚きましたが、わたくしに話してくれたという事は、夫からそれだけ信頼されているゆえにと思えば嬉しくもあり。皆様方のお陰ですよ」
 どうやら、この女性は赤松政則の夫人、つまりは例の「鬼瓦」と呼ばれた、細川政元の姉であるようだ。
「でも、楓はどうなるの? 私の代わりに『大悪人』の所に連れていかれて、酷い目に遭っていたらどうしよう……」
 珠の言葉に今小路はおどおどした。弟が「大悪人」などと呼ばれていることが知れたら赤松夫人は気を悪くするだろう。
「あ……すみません」
 珠は母に睨まれている理由が分かったのだが、もう遅い。しかし、赤松夫人は豪快に呵々と笑っただけであった。この辺りも、普通の淑やかな「美女」とは違う。
「良いのですよ。わたくしとて仏門にあったのですから、弟が『悪事の数々』を行っていることには胸が痛みます。ただ、身内であるというだけで、どうしても見許しになってしまうのです。でも、尼寺から引きずり出され、嫌々ながらに嫁がされたお相手はお優しいお方でしたし、こうして、密かにお二人をお助け出来ましたことで、弟の『悪事』の罪滅ぼしも多少はできたかと」
 そう言いつつ、夫人は菓子を頬張る。こういうところ、もと尼僧というのだが、動作の一つ一つがなんとも豪快で、どうも元出家というより女傑に近い雰囲気だ。
「そのお女中のことは気になさらなくて大丈夫です。政元は人違いに気付いてはいないようですし、今のところ、特に酷い目に遭ってもおらぬ様子。それこそ傷一つでもつけたら、大内様を敵に回すことになるのですから、十分気にかけているようです。将軍様も無事に落ち延びていかれましたし、もう何も案ずることはありません。すぐにもご宿舎のほうにお戻りになると思いますよ。こちらからも、もう一度念を押しておきますがね」