大内義興イメージ画像
 取り敢えず、将軍様の件は、もう政元の仕組んだ方向に動いていくことで大勢が決まっているようである。見たところ、武護は主の義興が義理人情に縛られて政元の側には付かず、将軍共々、今まさに沈もうとする船に乗り込もうとするのを必死に救い出そうとしているように見えるのだが。
 いや、しかし、政則とても、義材のことを気の毒に思わぬではない。しかし、命を捨ててまで救おうという気はしないのであった。ゆえに、その他大勢共々政元の側についてしまったが、まさか、政元が将軍の討伐先の畠山基家と手を結んでいたとは夢にも思わなかった。何やら、とんでもないペテンにかけられた気分である。
 そして、武護はそんな裏事情まで嗅ぎ分けているにも関わらず、主の義興はなおも何も知らずに義材を守り抜くつもりでいるらしい。彼はそんな主を「馬鹿だ」と平然と罵倒するのであるが。
 しかし、さすがの政則も今回ばかりは政元のやり方に腹が立ったのであった。それと同時に、武護のような有能な配下を以てしても、てこでも動かない大内義興というお人好しについても非常に興味を持った。

 新介の奇怪な病は恐らくは、友である陶武護の出奔という耐えきれない出来事のゆえであったのか、もはや武護が戻っては来ないことが濃厚となると、自然に回復に向かった。だが、将軍様からの再三のお呼び出しに応じることが出来なかっため、ご寵愛第一に仲間入りして、直属軍と共に最前線に向かうという栄誉は得られなくなってしまった。
 床上げをすませた新介は武護の残した「指示書」に従い、赤松政則の元を訪ねた。いきなりぽっと出の田舎の守護の、それも息子に過ぎないから、門前払いの可能性もあったが、政則は機嫌良く招き入れてくれた。
「お目通りが叶いましたこと恐悦至極に存じます」
 新介が丁寧に礼を述べると、政則のほうではその人が良さそうな笑顔で、緊張して固まっている若者の心をほぐしてやる。
「そう固くなりなさんな。先日も結構な品々を頂戴し、返礼に伺わねばと思っておったのですよ」
 そう言って、政則は一振りの太刀を差し出した。
「我らは大内殿のように、貿易で儲けるような術を持ちませぬ。そのかわりと言ってはなんですが、趣味の道楽でこしらえたものをお近づきの印にと存じましてな」
 例の、お気に入りの家臣に下賜しまくっているという自作の刀剣である。
「拝見致します」
 赤松政則といったら名工・長船宗光に師事したこともある、自身も一流の「名工」であった。例の珠の言うところの「刀鍛冶をやっている変わり者のお殿様」どころではないのだった。
「これは……見事な品ですね。とても趣味の道楽などという作品ではございませんよ」
 新介は思わず溜息をついた。思ったままの感想を平然と口にしているあたり、政則はこの若者が、どうやら武護の言う通り、まだまだ「付き合い」のいろはについて疎いとみた。こちらは一応、父親の政弘と同格なので、「目上」であり、応対するにはそれなりの礼儀作法が必要だが、既に将軍様の御前にも上がった割にはその辺りの心遣いがまだ足りていないようだ。まあ、そこも正直な人柄と思えば、それで片付けてしまう政則であった。
「いやなに、先日頂いた高価な品々に比べたら取るに足らぬ物でございますよ」
 そこで、二人は暫し沈黙した。何しろ、今は互いに親征の準備で忙しく、悠長に宴会など開いている余裕などない。勿論、新介としても、そんな理由で訪れたわけではなかったが。