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 翌朝、新介が目を覚ました時、隣に武護の姿はなかった。
 のみならず、宿舎の中を隅々探したが、やはりどこにも見つからなかった。
「どういうことだ? 武護の姿が見えないが……」
 茶目っ気のある彼の事、どこかに隠れて驚かせようとしているのかもしれない。そう思ったが、昼を過ぎても何の知らせもないので、さすがに心配になってきた。酔ったせいとはいえ、昨夜怪しげな話をしていたことも気になる。
 暫くして、門衛から武護が宿舎を出て行くのを見た、という証言が得られた。
「我が許しもなく、勝手に外出するとはどういうことだ?」
「それが……明け方近くに新介様の御用で出かけるとの話で出て行った模様でして。陶殿の御立場上、内密の要件をお命じになったことも大いにあり得ることですので、誰も不審には思わなかったと」
「何? 用事など頼んでおらぬわ。一体どこへ行ったのだ?」
 またか。やはり例の京おんなというのは実在するのだな。新介は最初そう思った。
 元々、武護は「出入り自由」だった。だからこそ、女の所へ行くためなのか、本人が言うように、新介の為に何かを調べて回っていたのか知らぬが、いつも新介を置き去りにしてふらりと出て行っていたのである。しかし、最近は例の噂が近臣たちの耳にも届き、半ば「謹慎中」であった。それゆえに、勝手に出て行くこともなく、大人しく宿舎にいたのである。だから、嫌々ながらも、また新介と寺巡りなどしていたのだ。
 しかし、大人しくしていたのは、僅かに数日だけであった。早くも我慢できなくなったと見える。しかも新介に頼まれたなどと嘘をついて門衛を騙すなど。戻ったらきつく叱りつけ、今度こそ本当に出入り禁止にしてやるからな。新介はそう思い、腹を立てただけだった。だが、その日は夜になっても武護が戻る事はなかった。
(とうとう泊まり込むとは……)
 そんなことを考えながらもう一日待った。しかし、武護は戻らなかった。二日経っても。三日経っても。

「まさかとは思いますが、京での滞在も長くなりましたゆえ、例の京おんなと所帯でも持ったのでは?」
 と杉。
「まったくけしからん話ですな。新介様のご寵愛を良いことにやりたい放題ではありませぬか。同じご一門の端くれとして、この件は国許に戻ったら御館様のお耳にも入れ、きつくお叱り頂かねばなりませぬな」  
と問田。
「いやいや、戻ってからでは遅いでしょうが。今すぐ山口にご書状を……」
「黙れ!!」
 新介に怒鳴られて、近臣二人は慌てて口を噤んだ。
「何が『所帯を持つ』だ。そもそも武護が付き合っていた京おんななどおらぬのだ。我が命に従い、京でのあれこれの事情を探っていただけだ」
「探っていた、ですと? では『本当に』何か内々のご命令を?」
 よくは分からないが何かを調べていたと言っていたから、そういうことにしてしまっても構わないだろう。
「そんなことより、何の連絡もなく何日も戻らぬなどおかしいではないか。もしもその……武護の身に万が一のことがあったら」
 原因不明の恐怖が新介の胸を締め付ける。しかし、近臣二人はなおも平然と恐ろしいことを口にする。