御所@京都
その日、「御所」に現れた謎の男……。

鷲塚昭彦鷲塚昭彦

これよりメンテナンスを開始する

男は、中庭の外れにある、薄汚れた木戸に近づいて行った。
足利義澄足利義澄

そなた、何者だ? そこで何をしておる?

鷲塚昭彦鷲塚昭彦

は? ええと、メンテナンスだが……。(何やら感じの悪い少年だ。あの千寿と同類のようだが、性格は更に悪そうだな。すくなくとも『人たらし』ではない。絡まれたら面倒だ)ええ、少年、細川さん、いや、細川「様」を呼んでくれないか。メンテナンスの許可は得ているんだが

足利義澄足利義澄

あやつは四国に下向中だ。当分帰れぬ。それより、余の問いに答えぬか!!

鷲塚昭彦鷲塚昭彦

余? どっかで聞いたようなセリフだが、誰だ?

足利義澄足利義澄

無礼者!! 余の顔を見忘れたか!!

鷲塚昭彦鷲塚昭彦

おおお、それそれ、20世紀に流行っていたという『暴×ん坊×軍』ではないか。しかし……君が将軍のはずはあるまい

足利義澄足利義澄

ふざけたことを……命が惜しくないようだな。誰かある! この無礼者をつまみ出せ!!

鷲塚昭彦鷲塚昭彦

は? え? おい、ちょっと待ってくれ。まさか……(これが将軍だとかないだろうな? 一応、対目上モードで応対しておくか……)これはとんだご無礼を……。しかし、私も仕事ですので。悪気はなかったのです。これを……

男は小さな紙を取り出すと、義澄に手渡した。 紙には、「セールスマン 山田太郎(仮名)」とある。裏側を見てみると……
「専売特許品:雲外門。お手軽瞬間移動装置販売
骨董品買取:どこよりも高く大量に買い取り
時空を超えた夢、叶えます:未来から欲しい物をお届け。
格安メッセージサービスつき」
足利義澄足利義澄

何なのだ、これは?

常なら、すぐさまその意味を教えてくれる傅役の公家は、隣に居なかった。義澄は中庭で一人寂しく蹴鞠で遊んでいるところだったからだ。とんがっていはいるが、どこか気の毒な少年に、お節介焼の鷲塚は少なからず同情した。
鷲塚昭彦鷲塚昭彦

ええと、将軍、様。それで、細川様にはお会いできるのでしょうか? そろそろ作業を始めねば……

足利義澄足利義澄

だから、あの者は四国へ……

最後まで言い終わらないうちに、その薄汚れた木戸をくぐって、細川政元が姿を現した。
細川政元細川政元

おお、お主、来ておったか。待たせたな

足利義澄足利義澄

な……どういうことだ? そなた四国へ参っておったのでは? さては、余を欺いたのか

細川政元細川政元

(む、なぜ、将軍がここに……)

足利義澄足利義澄

答えろ! どうなっておる?

細川政元細川政元

(面倒な……)おい、そのほう、お答えせぬか

鷲塚昭彦鷲塚昭彦

は? 私が? ああ、その、これは「瞬間移動装置」なるものです。これを……

「山田」本名鷲塚は名刺に続き、パンフレットのような冊子を取り出して、義澄に渡す。何やらカラフルでツルツルした手触りの紙との未知との遭遇に、年頃の少年なりに一瞬だけ目を輝かせた義澄だったが、ここは「将軍」としてのプライドが許さない。すぐにしかめっ面に戻って、冊子を突き返した。
足利義澄足利義澄

……。何だこれは。掻い摘んで用件を述べよ

鷲塚昭彦鷲塚昭彦

つまりですね、一言で申し上げれば、これは瞬時でどこにでも移動できるとてつもなく便利なアイテムです。ご覧のように、細川「様」も一瞬にして四国からお戻りに

足利義澄足利義澄

……

鷲塚昭彦鷲塚昭彦

ああ、その、確かに将軍「様」がお使いになるには、少々見てくれが悪いのですが、その分、性能は抜群です。この怪しげな木戸は……最初に作った実用品が、似たようなボロい木戸だったためでして。ですが、あの時とは違って、現在、登録人数も、登録箇所も上限なしというより進化したものになっております

足利義澄足利義澄

……

鷲塚昭彦鷲塚昭彦

ここはその……やはり、実際にお試しいただかないと、理解するのは難しいかと。よろしければ、もう一度これを……。お好きな行先をお選びいただければ、私がご案内を

鷲塚は先ほどの冊子をもう一度手渡す。今度は、数ページめくったところが開かれていた。義澄が目を通すと……
№01:土佐細川様御分国
№02:阿波細川様御分国
№03:讃岐細川様御分国
№04:紀伊畠山小倅
№05:越中ニセ幕府
№06:周防大内小僧
№07:京師細川様管領執務室
以下略とあった。
足利義澄足利義澄

……。な、なんなのだ、これは!!

細川政元細川政元

(む? なぜわしに……)

鷲塚昭彦鷲塚昭彦

(まずいな……巻き込まれる)ええ、その、ここは試してみましょう。一度お使いになれば、やみつきになるはずです。どこか行ってみたいところはおありでしょうか?

足利義澄足利義澄

この、ニセ幕府というのは?

 義澄は細川政元が「細川様御分国」などと偉そうに書いていたことに腹を立てたのであったが、どこに行きたいか、と聞かれたら、政元同様見たくもない「従兄」足利義材のニセ幕府以外考えられなかった。勿論、ニセモノを「成敗」するためである。
鷲塚昭彦鷲塚昭彦

ああ、そこですか。何もないボロい寺ですが……お望みとあれば参りましょう

足利義澄足利義澄

何もないボロい寺? ニセモノとはいえ「幕府」を名乗っているのは許しがたい。即刻成敗せよ

細川政元細川政元

(あんなところに行ったら、ますます面倒なことに……)ええ、公方様、今はあのニセモノを成敗するときではありませぬ。先ずは、わたくしめの豪華絢爛な守護館に御成を……

足利義澄足利義澄

馬鹿者!! いつまであのニセモノをのさばらせておくつもりだ? もはや我慢の限界である

細川政元細川政元

(参ったな。あのニセモノはともかく、ニセモノの配下は和睦を望んでいる。すでに、賄賂も受け取ってきたところであるし……)ニセモノを退治するとなったら、このような見てくれの悪いボロい木戸などからご出陣なさってはなりませぬ。正々堂々諸国の守護どもを率いてご「親征」なさらねば。ここは、お遊びですから、小者のもとへ向かい、脅かしてやりましょう。

足利義澄足利義澄

小者とは?

細川政元細川政元

そうですなぁ……大内は小者とはいえ、大国です。もしも二心あれば、いえ、あやつらはニセモノの一派ですから、もともと信用できませぬが、とても危険です。紀伊の畠山尚順なら人物も国もともに「小粒」です。ここにいたしましょう。ええ、実は我らの間には、「停戦」の盟約がございまして……

足利義澄足利義澄

なんだと? ニセモノ一派はすべて討伐対象ではないか。なぜ、余に断りもなく「停戦」など?

細川政元細川政元

公方様御自ら仰せになったではありませぬか。政はすべてわたくしめにお任せ下さると。まあ、あんな小僧を倒すことなど造作もないですが、物事にはそれなりに順序という物がございましてな。まあ、しばらくお待ちを。現在、あの男には「史書の編纂」をやらせておりまして……

足利義澄足利義澄

史書の編纂?

細川政元細川政元

左様です。我が足利一門の繁栄の歴史について、あの者にまとめさせておりますので

足利義澄足利義澄

あのニセモノにそのような才があるのか?

細川政元細川政元

ええ、その、ホンモノに比べれば、マシ、とでも申しましょうか……

足利義澄足利義澄

……