鶴の後を追ったが見失ってしまった澪は、仕方なく守護館へ戻ってきた。すると、堆く積まれた本の山の中で、兄の尚順が倒れていた。澪に助け起こされ、ようやく正気に戻った尚順。単に、読み切れず力尽きて眠っていたようだ……
畠山澪畠山澪

うわ、兄上、どうしたの? しっかりして!! 何これ? 何を調べてるの?

畠山尚順畠山尚順

わ、我らの祖先は誓って身分卑しい者などではないぞ……絶対に違う……

畠山澪畠山澪

当ったり前じゃん。何寝ぼけてんの?

畠山尚順畠山尚順

そうとも、我らは勿体なくも足利一門の守護なのだ。大内のような外様とは比較にならないほど高貴な……はずだ。それも、半国や一国ではなく多国を治め、代々管領を務めてきた家柄……

畠山澪畠山澪

あれ? 今の管領って誰? まさか、義豊じゃないよね? 兄上がだらしなくて早く父上の仇をとれないもんだから、あいつがでしゃばってるままじゃん。今の将軍はニセモノで、ニセモノに認められているのが義豊の野郎だ。ったく、とっとと追い出しなよ。うちと細川とで、かわるがわる管領やってたんじゃないの?

畠山尚順畠山尚順

ニセモノに認められた者など、同じくまがい物よ。我らこそ正統な血筋……(いや、本当のところどうなのだ? ええと、確か……父上と争っていた義就が先代の息子で、父上は甥。ああ、しかし、義就の母親は身分の低い女子であったとか……ええと……)

尚順は例の『全将軍・管領列伝』をチラ見した。
畠山尚順畠山尚順

いや、良くはない。お前ももう少し、まともに頭を使って物を考えることをせぬか。書物を読むのもいいぞ。多くのことを学べる。亡くなった父上は、義就のような武骨者とは違って、様々な文化にも造詣が深い、立派な教養人であられたのだぞ。お前ときたら、惣領家(義豊)の回し者ではないのか? 歌の一つも詠めぬなど……

畠山澪畠山澪

(本見ながら言うことか……)

澪はカンニングペーパーならぬ、種本を尚順から奪い取った。
畠山澪畠山澪

ん? 政長は、軍事能力も義就ほど高くない上に、政治的手腕にも秀でていなかった……。な、何これ!? 嘘書いてるよ!!

畠山尚順畠山尚順

それはその……父上が明応の政変を防げなかったことで、評価が低くなっておるのだ……

大内義興大内義興

すまぬ。こちらに当家の陶武護がご厄介になっておると聞き、連れ戻しに参ったのだが……

畠山澪畠山澪

今度は誰? てか、すえ? すえなんたら、って誰?……

大内義興大内義興

ああ、あるいは、「富田鶴次郎」と名乗っておるかも知れぬ……

畠山澪畠山澪

え!? あんた、もしかして、「亀」?

畠山尚順畠山尚順

これ、無礼なことを申すな。貴殿は、もしや、大内家の……?

大内義興大内義興

ではあなたが、畠山尚順殿?

足利義材足利義材

な、何!? 大内……おお、周防介の息子ではないか……紀伊国へはいつ?

畠山澪畠山澪

(てか、あんたも、なんでいつも越中の『片田舎』からここまで、一瞬で来れんのか謎)

大内義興大内義興

こ、これは……もしやして……将軍様では?

足利義材足利義材

そうじゃ。将軍は余であって、京にいる小僧はニセモノ……して、大内の二万の軍勢はいつ上洛してくるのかの? 一日千秋の思いで待っておるというのに……周防からは何の連絡もない……そなたの父親は、余を見捨てるつもりなのか……

大内義興大内義興

いえ、その……目下行方不明となった配下の探索中でして。先を急ぎますので、ご無礼致します。尚順殿、書物の読み過ぎはよくありませぬぞ。身体が鈍ってしまいます。私も鶴を見付けたら直ぐにも国許へ帰りますので、後の事はよしなに……では

足利義材足利義材

おい、こら、待たぬか……そなただけが頼りなのだ……見ての通り、尚順はまるで役に立たない。なんとか余の復職を助けてくれぬか……おーーい

畠山澪畠山澪

よく分かんないけど、私も一緒に鶴を探すから。兄上はそんな本なんか、大悪人と間抜けな将軍に送り返しちゃいなよ。それじゃ

畠山尚順畠山尚順

 おい、こら……皆、行ってしまった……仕方がない、一人で「作業」を続けるぞ。  さて、各々方は、そもそも「管領」というものがどういうものかお分かりであろうか? 昨夜は義材様が我らを悪し様に言っていたが、あれは一種のトラウマなるものであろう。まるで、細川家が名門であるかのごとく。他ならぬ、政元自身が持ってきたこちらの書物を見る限りでは、むしろ我らのほうが家格が上ではないか……。
 ええ、そもそも、管領というのは、将軍家の執事のようなもの。もともと鎌倉時代の足利家には「執事」という「職」の者もいたのである。最初に「管領」を名乗ったのは、三代義満様に仕えていた細川頼之である。義満様の元服前までは頼之は「執事」であった。この頃に、将軍様自らが親裁なさることと、執事が補佐してかわりに行うこととが区分されるようになり、幕政における「管領」の地位、権力、発言権も高まった。将軍様のご命令は、管領から守護へと伝達される。「将軍→管領→守護」という命令系統が確立したことをもって「管領制」が成立し、これが室町幕府の統治機構の基本となったわけだ。

内藤篠内藤篠

あ……あの、申し訳ありません……何やらお話しが難しくて、ちっとも……その……「馬鹿にも」……分るようにはなっていないような……

畠山尚順畠山尚順

ええと……いや、その……誰もいないと思ったゆえ……つい、そのまま書物を……あ、いやその、ちゃんと私の口から……。ところで、あなたは?

内藤篠内藤篠

ええと……あの……わたくし、武護様を探してここまで……その、こちらにおられるとうかがい……あ、その、ええと……

畠山尚順畠山尚順

(また捜索隊か……どれだけ皆に心配をかけておるのだ? 陶殿は……)まあ、娘御に名を尋ねるなどというのもその……お一人では危険ゆえ、我が妹が戻ったらお供を……

内藤篠内藤篠

けっこうですわ……わたくし、陶様以外の殿方とは、話したりしませんの……でも、あなた様のお話が、あまりにもわかりにくかったものですから。それでは……

畠山尚順畠山尚順

 ったく、どうせ俺は、鶴のような美男でも、大悪人のような博識でも、大内殿のような頼りがいのある大国の主でもねぇよ……と、たまには、陶殿のような品のない言葉遣いをしてみたかったのだが……それすらも様にならぬとは……って、ここで、2000文字オーバーじゃねぇか。
 つーことで、何だっけ、「管領」とは、ってとこで終わってしまったな。うーーむ。こんなの、文字でやっちまえば、あっと言う間なのに、チャットなるものはなにゆえこのように面倒なのだ……明日にでも、細川家の化けの皮を剥いでやるからな