スカウトがやって来た♪

えええ、わしは、大内庭園からやってきた……。
あ、いやいや、確か、身元は隠さねばならなかったのだったな。
面倒くさい。
ええ、その、「相樂」と申す者だが。本日これより、ここに事務所を開くぞ。
ここだけの話、見目麗しい召使いを集めている主が、いや、「主の孫」が、目の保養ができる童を探してこい、と。
そんな馬鹿げた命令に従うわしではないのだが、あの主、いや、「主の孫」のメガネにかなうような童に、舞や踊りを教えて、イマドキのアイドルとして売り出そうと考えておるのだよ。
ああ見えて、人を見る目はあるので。どうでもいい才能だがな。
ん? そうだな、そのほうらの時代であれば、これは使い道のある才といえるかもしれん。
なにしろ、アイドルというのも、ビジネスになるのだろう?
そうでなければ、このわしが、こんなわけのわからん田舎町まで出張っては来ぬよ。
さて……。
主の孫に言わせれば「鄙には稀な」「見目麗しき」童が、この辺りにいるとの「お告げ」があったらしいのだがなぁ。
まったく、とんでもない「お告げ」しか見ないお方なのだよ。
その前は、京から仙女が現れると……。
「お告げ通り」天仙のような美女が奥方になられたのだが。
ううむ。人っ子一人いないではないか。
あっ……
げっ……
何かご用でしょうか?
な、なんでもないわ。あ、いや、その……茶でももらおうか。
分りました。お入りください。

相樂、いや相良武任が中に入ると、珍しく店は混んでいた。座る場所もないほどだったが、於児丸が特別に相良を奥座敷に入れてくれた。どうやら、オンボロなあばら屋がいつの間にか増築されたようだった。

何やら繁盛しているようではないか
違いますよ。エラいお方の御成があるので、庭園のほうから役人が来て、勝手に建て増ししていきました。今、別荘を建てているようです。出来上がったらそっちへ移るとかで。そのときは、「ここはぶっ壊す」と、ガラの悪い子どもに言われました。怖かったです……。
ガラの悪い子ども? ううむ、誰であろうな。子どもと言ったら、亀と鶴、それに、お前の親戚の畠山しかいないはずだが。もしやして、誰かの隠し子? まさかな。
で、エラい人、というのは? 上手く取り入ればおこぼれがもらえるからな。こういう情報は早い者勝ちだ。
知らないほうがいいと思いますよ。
まあ、そう言うなよ。お前を面接で不合格にしたことは、主の孫も「勿体ない」と言っておったのだがな。とはいえ、下働きの者を館の召使いにはできないからな。
下働きではありません。亀殿の読書仲間です。ここでは単に、バイトしているだけです。ただの守護家の家来に馬鹿にされるほど落ちぶれてはいませんよ。

初出『大内庭園』: 2020年9月23日 21:58