最初の客人

いらっしゃいませ。記念すべき初めてのお客様が、義材様とは。

ふん。あの庭で、記事を書いているのはおぬしであろう? 余に隠そうなどと思うなよ。あまりにヒドい描かれようではないか。余は今、たいへんに機嫌が悪い。

まあまあ。そう仰らずに。私も「雇われ」ですから。ある程度、クライアントの要望に沿った内容にする必要があるのですよ。

な、なに? く、くらい……なんたらとは? どうでもいいが、余は現在、最高に怒っておる。わかるであろうなぁ? こともあろうに、タイトルに『迷惑将軍』などと。

尚順は聞こえないふりをしながら、黙々とカクテルを作っている。

おや? ここは和風喫茶店ではないのか、と?
まあ、そうなのだが、道具さえあれば、入れ物などどうでもいい。

我々が大勢出張し、稼がせてやっている大内政弘の庭園では、メインテーマの大内家について積ん読山となっているからという理由で、いい加減に「穴埋め用」として、我ら足利一門についての、インチキな記事を書き始めたようだ。

その何番目かでやり玉にあがったのが、義材だった。

読む気にもならないので、取り敢えずは記事を貼っておく。

この庭園自体が、大内家を礼賛する目的で作られたとかいう、怪しげな空間であるのに、まったくそれには成功せず、適当な観光地案内として下手くそな写真を貼り、さらに、いい加減な文言を書き加えているだけという手抜きぶり。

にもかかわらず、なぜか自治体からフリーで貰ったリンクなどを大量に貼り付けて、あたかも公認されたかのような「ふり」をしている。

しかし、運営者も頭が足りないとは言え、そこまでばかではないらしく、大内家に関する記事については、慎重を期すあまり筆が止まってしまったようだ。

さて、このようなコンセプトからいくと、

足利はともかく、細川家などが良く書かれているはずがない。

加えて、将軍様についての記述も、相手によりけりだ。

義材様のせいで、長いこと京都に留め置かれ、分国の政治がまともに出来なかったと深く信じている連中は、義材様を、

 我儘、勝手、幼稚

の三文字で片付けている。

たしかにこれはあんまりではないか、と思う。

ん? 書いたのは私ではないか? 姿を見かけた気がする?

気のせいだろう。あそこに住んでいるのは「於児丸」。

永遠に大人になれない哀れな子どもだ。

義材は尚順特製のカクテル「夢の中へ」で、文字通り、すっかり白河夜船となってしまったようだ。

ぼそぼそと寝言を呟く義材をそっと奥の間に運び、毛布を掛けてやりながら、尚順は優しく声をかけてやる。

どうせ、余は我儘で勝手で、幼稚じゃよ。それ以上でも以下でもないわ。

それがあなた様の魅力だとはお思いになりませんか?

思いがけず、義材が一瞬だけ覚醒した。
これには、尚順もびっくりである。

正直、「被害者」の一人として、あまり「魅力的」だなんて、歯の浮くような台詞はつかいたくない。それを本人にきかれたとあっては、気恥ずかしいことこの上ないではないか。

本当にそれだけの男だったとしたら、あれほどの者があなた様を助けるために命を投げ出したりはしませぬよ。あなた様にこの一生を捧げた私のためにも、立派なお方でいてくださらなくては。
我儘勝手というのは身分ある方だけに許された特権。そして、幼稚は裏返せば純粋無垢となります。こんなに羨ましくて、魅力的な方がほかにおられましょうや?

於児丸……いや、尚順、やはりそなただけが余を理解している……

随分とお飲みになって。相当ストレスがたまっておいでだったようですね。まあ、ここはそれらを吐き出すためにあるところです。どうぞ、ご存分に。

さて、明日はどんな客が訪ねてくることやら。