第七十九話:もう一組の対決

未来に戻った鷲塚昭彦は、いつも通りまずはジョニー・吉田のマシン基地に到着した。見れば、もう一台のマシンはやはりない。吉田はなおもタイムトリップを続けているらしい。鷲塚は何やら不吉な思いに身震いした。
鷲塚がオフィスを覗くと、初めてみる顔がデスクについている。金髪の若者、二十代前半といったところか。金髪は文字通りの金髪であって、ヘアカラーでビジュアル系なんぞをやっている同国人ではなく、西洋人だった。鷲塚がオフィスに入るのをためらっていると(こう見えても『人見知り』なのである)、あのジェームスが奥の部屋から出てくるのが見えた。
「Hi~」
ジェームスがその金髪の若者を抱き寄せてキスを交わすのを見て、鷲塚はぞっとした。まあ、性的マイノリティーの人たちを差別したりするような彼ではなかったし、人それぞれだと分かってはいる。だが、そうした主義思想の上での「理解」と実際にそれを目にした時の違和感とはまったくの別物である。それに、このヒモのような男には、吉田というれっきとした「伴侶」がいるわけだから、これは「不義」ではないか。道徳的に許されることではない。
鷲塚はオフィスに乗り込んで、二人の「悪ふざけ」の現場をおさえることにした。無論、その前にこっそり「証拠写真」を撮ってある。
「おい、何をしている?」
「アーー、ユーモドッタネ」
ジェームスは金髪から離れたが、まったく悪びれる素振りも見せず、例によって鷲塚にも友好的だった。
「この男は何なんだ? 吉田の留守に何をしている?」
ジェームスは分からない、というジェスチャーをした。鷲塚の日本語が複雑すぎて理解できない、という意味だ。仮に、言語的に理解できなかったとしても、この状況下で、鷲塚が何を見、なぜ怒っているかを理解できないはずはない。
鷲塚はスマートフォンを振りかざし「証拠写真」を突き付けた。
「これを吉田に見せる、当然の報いだ。君のために、あの男がどれだけ苦労したか、知らない私ではない」
金髪の青年は、オフィスのデスクについていたところから見ても、新しく雇われた「社員」ではないかと思われるのだが、鷲塚の証拠写真を見るや、大慌てで逃げ出した。あるいは、二度と出社することはないかもしれない。
「コマッタネ。ジョニーウタグリブカイ。カレハオカネアツメテル。オイダサレタラワタシタイヘンネ」
「知った事か」
鷲塚は呆れた。しかし、吉田がまたしても金策に走っているとは意外だった。この男、まだ博奕をやっているのだろうか?
「取引しよう」
鷲塚は淡々と言った。
「彼のパソコンの中を見せてもらえたら、この証拠の品は削除してやる」
「オーノー、PC、ダメダメ。ミセラレナイ」
ジェームスは完全なるIT音痴なので、パソコンに触れることは禁止されていた。普通にネットサーフィンやオンラインゲームを楽しむための彼自身のマシンは構わないが、吉田がビジネスに使っている機器に触れたらたいへんなことになる。システムがダウンしたらすべておしまいだからだ。
「安心しろ。私には『技術』がある。君らのビジネスを侵害するつもりもない。ただ、確かめたいことがあるだけだ」
ジェームスには、本当に鷲塚の日本語が通じなかったようだ。いずれにしても、吉田のパソコンに触れることは、先ほどの証拠写真を提出されるのと「同罪」なくらい厳重に禁止されていたから、ジェームスとしても絶対に譲歩できない。
二人が押し問答を続けていた時、何の前触れもなく、吉田が帰国した。
「何をしている? 俺のパソコンを見せろ? どういう意味だ?」
吉田の不機嫌そうな顔を見て、鷲塚はもうこれ以上秘密裏にすませる必要はない、と理解した。