第七十四話:幼馴染み

千寿が「ダミー」と間違えて、ホンモノのゲーム機を手に城井谷城に行ってしまったと気付いた鷲塚昭彦。何とか真実を知らせなければ、最悪、千寿のゲーム機だけが破壊され、敵方を喜ばせる結果となる。
「すまない、誰か、私を彼らの元まで連れて行ってくれないか?」
鷲塚は奇怪な目でこちらを見ている村人たちの間を擦り抜け、彼らよりは話が通じそうな兵士らに声をかけた。
「頼む。緊急事態なのだ」
兵士らは皆、巻き込まれたくない、という表情だ。そっと物陰に身を隠そうとしている者すらいる。
「お願いだ。力を貸してくれたら、欲しいだけの金銀財宝をやろう。つまり、お宝の山だ」
鷲塚は丸腰、荷物も革鞄一つしかないのを知っている兵士らは誰も関心を示さなかった。ところが、またしても、村人の中から怖いもの知らずの子どもが現われる。どんなときも、頼りになるのはやはり「子ども」だ。相良とは違い、鷲塚はなぜか子どもと交流するのが上手い。
「おたから、くれるの?」
子どもは金銀財宝の意味は分らなかったが、おたから、のほうは分ったらしい。
「もちろんだ。今ここにはないが、この戦に勝てれば、城の中の金銀……いや、おたからは君の物だ。あの城には宝が溢れている。私もそれを頂戴することを目的にここへ来たのだよ」
いつの間にか、村人と兵士も鷲塚の周りを取り囲んでいた。
(ありがとう、君のお陰だ)
鷲塚は先の子どもにほほえみかけて、その頭を撫でてやる。
「若殿らはもうとっくに城についた時分だぜ。今更と思うがね」
「金銀財宝」に惹かれたらしい兵士が早速恩を売りつけに来たものの、残念ながら「今更」なので、この奇妙な男の望みを叶え「おたから」に与れる可能性は薄い。
「そうだな。間に合わないかもしれない。とにかく急ごう」
隊長らしき人物が馬を引いて来させると、鷲塚にも手綱を渡そうとする。
「それがしがご案内仕る」
「な、なに!?」
鷲塚は馬と目が合って気絶しそうになった。文字通りの馬面。こんな生き物に「乗れ」というのか? この時代、馬に乗れるのは歩行よりずっと上級なことなのだ。我々の時代とて「乗馬」は五輪競技にもあったくらいで、趣味(恐らくはそれなりにセレブな市民専用の)として乗りこなす者はいた。だが、さすがに、タイムマシン、足こぎカート、いや、新時代交通システムに慣れっこになっている鷲塚たちは、もう「馬に乗る」ことを完全にやめてしまっている。
兵士らは再び怪訝そうな目で鷲塚を見た。「乗馬」が趣味であった時代とて、いきなりその日から遠乗りできるようなケースはまれなのでは? 先ずは、とにかくお馬さんに触れてみてください、なんてレッスンから始まったはずだ。
しかし、千寿たちの命にかかわる事態なのだ。ここは恥じも外聞も捨てるしかあるまい。
「す……すまない、その、誰か私と『二人乗り』とやらをしてくれないかな? お宝を倍増しよう」
我も我もと名乗りをあげたのにもびっくりだし、城井谷に実は金銀財宝がなかったらどうしようかと恐ろしくもなったが、鷲塚は名もない兵士とともにやっとのことで馬の背にまたがった。村人も兵士も、なんとか少しでも手助けしたいとばかりに、総出で鷲塚を馬の背に押し上げたのだ。背後の兵士は鷲塚の背にぴったりと張り付くようにして彼の身体を支えつつ、手綱を取る。千寿と隆房ではないのだから、男に張り付かれて吐きそうだ、などと言っている余裕はなかった。
「では、参ろう」
隊長に先導され、鷲塚も必死に馬にしがみついた。
急いでくれたまえ、などと偉そうに言っていた男は、馬が走り出した途端に無様な悲鳴をあげた。その声がだんだんと遠ざかるのを聞きながら、残った者たちはやれやれと思うのだった。