第六十八話:初陣

城井谷でゲーム機を手に転がっていた千寿の元に、兄・昌興からの書状が届いた。
「城井谷城を守り抜け」との命令である。そして、その任務を遂行するために、兄から与えられた「副将」が、書状を持ってきた男、あの陶隆房に「山猿」と馬鹿にされた徳山直幸であった。
何しろ、昌興は最前線で突撃中。その、空になった城を、敷山家は四方八方から攻め立ててくる。城に残っているのは、千寿を除けば、相良のような内政系家来だけである。兄は立花山から援軍を寄越す、と書き送って来たが、実際には援軍など来るはずがなかった。何故ならば、敵は立花山へも向かっていたから、もはや、援軍を出すどころではなくなっていた。千寿にはそれらの敵軍の動きがゲーム機画像から全て見えている。
城井谷へ向かっているのは、秋月城の戸次鑑連を総大将とした、そこら周囲の城からの分も含めると総勢二十万は下らぬ大軍だ。ここ城井谷は、捏造して五万の兵力になってはいるが、それでも四分の一しかいない。
それに、恐らく、高祖帯刀は何らかの捏造を加えてくるであろうから、この五万すら無事でおられるかどうか分らない。
「気にすんなよ。相手が四倍なんて、楽勝だ」
山猿はへらへら笑っている。
「四倍どころか、十倍だって問題ねぇよ」
「何を根拠に?」
一応尋ねてみる。
「一人で十人倒せば良いんだ」
千寿はある意味、この馬鹿さ加減に憧れすら覚えた……。この類いの男には「恐れる」という感覚はないであろう。
「お前は良くても他の者には無理だ。一人で十万倒せるなら別だが」
「一人で十万倒せば良いだろう……じ、十万!?」
(……)
やはり、馬鹿にも怖いという感情はあるようだ……。しかし、千寿はそこで、ふっとある考えが浮かんだのだった。兵は城から出せば捏造できる。つまり、一旦城内の五万を外に出し、その後もう一度満タンにすれば、合計十万にできるではないか。相手が二十万なら、これを六回繰り返し、三十万位にしてしまえば……。
我ながらとんでもない妙案である。あの山田も教えてはくれなかったことだ。何故今までこのことに気が付かなかったのか。
しかし、そうなると、その三十万の大軍を誰が率いるのか? ここには、戦の経験ゼロの千寿と、まだ下働きレベルの徳山直幸しかいない。戸次鑑連のような百戦錬磨の強者を相手に、例え兵数が十万多いからと言って、勝てる見込みは全くない……。
敷山家が、臣従を望む大友家を非情にも攻め滅ぼしたのは、そこに連なる、有能な武将を手に入れるためであったのに他ならない。ゲーム機で調べれば、千寿の能力値は決してこの戸次鑑連に引けを取らないのだが……。
(兄上、初陣がこんな大戦、しかも、総大将とか……あり得ないから)
さすがの千寿も頭がくらくらする。兄に与えられた、甲冑や太刀。それらは、すべて初めて身につけるものなのだ。まさか、こんな形で……。
「おい」
不意に、山猿・徳山直幸が声をかけてきた。
「俺は頭が悪い。作戦はお前が考えろ。俺は言われたとおりに動く」
(なんだってこんな馬鹿を寄越すの!?)
これ以上何も考えたくはなかった。