第五十四話:陣中の稚児

隆房と千寿はともにやる気をなくした。

いまいましい高祖帯刀のせいで、折角の魔法の「きかい」の存在すらないに等しく感じられた。

「あ!!」

千寿はその時、何かを思いついたのだが、隆房がまたゲーム機を奪い取ろうとしたから、取り返そうとじゃれ合ううちに、それが何だったのか忘れてしまった。

「隆房様、明日の朝一番で支度して。兎に角、四国を全部取る。でも、今は若山や岩国が飛び地になっているから、旗揚げはもう少し先だよ。先ずはあの一条恒持が父親に投降を勧めるより早く、中村御所を落としてしまわないと」

千寿は言った。

隆房も、もはや訳の分からない「きかい」について尋ねようとはせず、全ては千寿に任せることにした。妖術を発する「きかい」と、それを自在に操る千寿さえいれば、この世のすべては隆房のものとなるのだ。高祖帯刀など敵ではない!

「よし。では、お前はその『きかい』を持って、我とともに中村御所に向かうのだ」

「えーー!?」

千寿はまた、とてつもなく嫌な感じがした……。

数日後、大除城から五万の大軍が一条家の中村御所に向けて出立。

一条家はその知らせを聞いて呆然とした。

「恒持からの、有川家に降るように、との書状に返答をしたはずだが。なぜ我ら目がけて攻めてくるのだ?」

主の一条房冬が、息子・房基に尋ねる。

「こちらにもさっぱりでして。恒持の話では我らの領国も、家名も共に残されるとのはずでしたが……恐らく、我らの使者はまだ有川昌興の元に着いてはおらぬのでは?」

「ならば、それを待ってから進軍するのが普通であろうが? 有川昌興は義理堅く情に厚い、信頼に足る人物であると聞いていたが、そうではなかったようだな」

「殿!!」

家老が物見からの報告を告げに戻って来た。

「おお、どうであった?」

「総大将は陶隆房。何やら陣中に稚児など侍らせて、物見遊山にでも来ているかのような風体だそうで……。どうやら完全に我らを見下しておるようですぞ」

「なんと!!」

一条親子は顔を見合わせた。

その頃。陶軍の本陣では……。

「隆房様ーーだから、こんな格好嫌だって言ったんだよ」

千寿は半泣きだった。

「せめてそこらの足軽のコスプレとかに……」

「うるさい! 我がそのようなそこらの足軽風情などと情を交わすはずがないではないか」

千寿は自らの「初陣」がこんな形になるとは、信じたくなかった。いや、それは、然るべき儀式を行ってから……まだ成人したわけではないのだし。これは要するに……隆房の陣中での慰み者ということではないか!

隆房の言い分はこうだ。千寿は「きかい」を持っている。そして、その「きかい」があれば、戦のことは何の心配もいらない。(千寿は隆房の『所有物』であるから、その千寿の持ち物である『きかい』も当然隆房のものだ。)しかし、隆房は「きかい」の使い方が分らない。だから、千寿を共に連れて行かねば。

ゲーム機は大除城の中で管理していれば問題ないので、戦についていく必要はない、これまでもそうやって操作してきた、と千寿は何度も説明したが、隆房は聞く耳を持たない。

更に、先日の例の「忍び」。千寿を一人城に残して行くのは危険だ。確かに、また何者かに襲われたら、と思えば怖かった。しかし、戦場でまるみえになっているよりは、蟻も這い出る隙もない程、防御兵で固めた城内のほうが安全なような……。

しかし、隆房は一度言いだしたら絶対に聞かない。だいたい、これまでも何度も戦場に連れて行こうと企んでいたのだ。だが、千寿が未成年であり、しかも当主の弟だと思って我慢していた。

しかし、今は違う。まだ、その決意を明らかにしてはいないものの、二人は昌興から独立することを画策している。もはや、当主の弟であることは無視してよいだろう。

こうして、千寿は例の妖しげな装束のまま、隆房の陣中に。そして、このいかがわしい光景は、敵側にまる見えなのであった……。