第五十話:快進撃

千寿は若山城で荷物をまとめていた。隆房と共に大除城へ向かうのである。山田からもらった発信器と蓄電器に充電器、全てを大切に長持に収める。そして、ゲーム機だが、これより数ヶ月の長の道のり、隆房とべったりになるから、暫く確認する事が出来ない。

しかし、昌興の配下にはそこそこ優秀な家来が揃ってきたし、領国も増え、もはや捏造に頼らなくても無双できそうである。そう思って、丁寧に衣類の間に包み、やはり長持の中に入れた。

大除城には、一足先に江良を向かわせてある。捏造完了後の城に着き、相良のように、「築城名手」のふりを決め込んでもらえば、いきなり巨城と化した大除城を見て隆房が腰を抜かすこともないだろう。

江良は千寿から「密命」を受けていた。大除城は既に若山の溢れる金蔵のおかげで、人手も資材も集め放題。おかげで、とっくに普請が済んでいる。しかし、それを、すべて「有能すぎる築城名手」江良の手柄にしてもらえる。そのかわり、江良は新しい城でも何故か溢れてくる金とコメを管理し、その秘密を守りうる人材を見つけねばならぬのだ。

江良が大除に着いたとき、もう遙か彼方からその巨大な天守を仰ぎ見ることができた。

「おお、これが大除城であるか。なるほど、これはすごい。いや、当然ではないか。この『築城名手』たるそれがしの手になるのだから、このくらいの城の一つや二つ、いくらでも建てられるというもの。隆房殿がこれを目にしたら、またそれがしへの信頼が増し、それこそ、陶家に江良ありとして、国中にその名が知れ渡るに違いないのだ。はははは」

通行人達は、城下の入り口で一人大声で話し、笑っている人物を不審に思い、遠巻きにヒソヒソと話し合った。

「何やら知らんおかしな事ばかり起るから、こんな風に頭がいかれたお侍がでるんじゃろか」

「かもしれんが、関わらんほうがよか」

「まったく、一晩のうちにあれだけどでかい城が建っちまったんだから、正気でいろっていうほうが無理だろう」

勿論、そんな陰口は江良の耳には届かず、そのまま上機嫌で馬に揺られて行った。

この頃、隆房と千寿は江良よりかなり遅れ、まだ周防を出ていない。そこに、早馬で伝令が駆けつける。

「少弐家の勢福寺城、龍造寺家の村中城が敷山家に落とされたよしにございます」

「な、何!?」

隆房と千寿は同時に叫んだ。

千寿は山田の言葉を思い出していた。

――時には敵を助けることも必要だ。

敷山家の五万の軍勢を二千に変える捏造は出来ない。それならば、攻め込む先の城を一時的に防御を上げて防ぐべきであったのだ。そう、前回毛利家を追い払うために、尼子家に落とされた山吹城にそうしたように。

「何故敷山家などに、龍造寺の本城を落とすことが出来たのだ?」

隆房が伝令に尋ねていた。

(だって五万の大軍だもんなーー)

千寿はそう思ったが黙っていた。

「それが……何やら居城の高祖山はいつの間にやら、我らの山口城を凌ぐほどの巨城になっておるようでして」

「いつの間にやら? ふん。馬鹿馬鹿しい。有川家の情報収集能力もこの程度のものか。そんな巨城が一晩で建つなどあり得ぬわ。あやつらが密かに力を蓄えていたのを見逃したのであろう。しかし……あのような輩が」

本当に一晩で巨大な城に生まれ変わるんだよ。千寿は笑いを堪えるのに必死だ。しかし、あの城はとっくにすべて壊してあるから、もう心配はいらない。確かに伝令が遅すぎるのだ。まだ、城が壊れた事を知らないのだろう。

だが、またゲーム機の故障でどこかの数値が勝手に最大になっていたら……。千寿は嫌な予感がした。しかし、ゲーム機は長持の中で運ばれているし、隆房の前で確認は出来ない。まあ、これまでであんなことは一度きりだったのだから、そう気にする必要はないだろう。

「隆房様、先を急ごうよ」

千寿は、高祖隆久とその弟を思い出し、不機嫌になって固まっている隆房に声をかけた。

「ああ、そうだな。あのような輩、この陶隆房の前では霞んでしまうはず」

「そうだよ」

千寿は隆房が戦の話をしているものと思ってそう答えたが、実際隆房の頭のなかにあったのは、高祖隆久とその弟も容姿端麗な陶隆房の前では霞んでしまう、という事なのである。

その後も暫く続いた伊予の国までの道のりの間に、肥前で起っていたとんでもない事態は二人の耳には届かなかった。