第四十五話:四国討伐

周防・若山城

千寿は茶室の中で、隆房と四国攻めの相談をしていた。
ゲーム機画面上では能島城までのルートはこうなっている。安芸阿賀(毛利領)→阿賀沖→大下島→来島海峡→能島。勿論、これはゲーム運営のインチキの可能性があるので、鵜呑みには出来ない。

問題は能島城を治める村上武吉は村上水軍の大将であり、この村上家・村上水軍は三つの家系にわかれ、武吉のそれは能島村上家、ほかに来島村上家、因島村上家があり、それぞれ、来島と因島を拠点としていたこと。このうち来島村上家は河野家に臣従していた。能島村上家は臣従はしていないものの、やはり河野家と友好関係にある。

しかし、ゲーム画面中には実在するはずの、因島と来島の村上家は存在せず、そして、それらの城にいるべきはずの、来島なにがしのような人物まですべて能島城に詰め込んでしまっていた。それこそ、尼子十旗同様、ゲーム運営の手抜きである。

もしも、リアルで出陣したら、捏造を加えられないこれらの他の村上家、および河野家が援軍を送ってくる可能性があり、ややこしいことこの上ない。

更に、水軍=海賊のような連中であるから、海の上での戦いは相手のほうが格段に有利である。千寿はそこらに一抹の不安を感じていた。

一方、隆房のほうは、ここ数日千寿にべったり、いや、そもそも二人はそれ以前からべったりであったが、それに輪をかけて粘着していた。それこそ厠に行くにもついてくるほど。よって、ゲーム機の操作も容易ではなかった。

ぶっちゃけ、もう四国などどうでも良い。隆房は考えた。千寿が愛らしい稚児姿の間は毎日が天上世界の日々だ。やがて、元服して我が元を去るまでは、一時も惜しまず寵愛しなくては。戦などそのあとで良いのだ。

「ここはもう、巨大兵力でごり押しするしかないよ。村上も河野も一斉に壊しとくから、せっせと城を取って」

千寿は言った。何しろ、村上水軍はあの「厳島の戦い」で毛利に味方した大悪党。千寿にとっては忘れもしない、1000年の時を超えて未来の世界からもたらされた忌まわしい記憶……。

(毛利元就、その息子、家来、裏切り者、そして、毛利に味方した村上水軍、全部死ね!!)

「それから、村上家の連中は捕まえたら全員殺して」

隆房は千寿の鬼気迫る表情と、「殺して」の一言に驚愕した。その前に言った「壊しとく」も怪しかったが、この一言の前では霞んでしまった。

「おい、どうしたのだ? 『全員殺す』などと……。何かあやつらが、お前に酷いことをしたのか?」

千寿の嫌がる事と言えば「寝所の小僧」「公家の稚児」「婢の子」くらいしか思いつかない。あれらの海賊どもが、そんなことを言いふらしているようには思えないのだが。

「ああ、何でもないよ。その……これから先の事を考えたら、取り敢えず生かしておいて、水軍の教練でもやらせておけば。使えるものはなんでも使う」

千寿はごまかした。

「水軍の教練か。大兵力で海を渡るのだから、我らにもそれ相応の支度が必要であろう。すぐにも出立というわけにはいかぬな」

そう、当然のことながら島へ向かうには船が必要である。しかも、若山、岩国、敷山の三つの拠点から総動員した十五万の兵力。これだけの大軍を積み込むとしたら、一体どれだけの数の船が必要なのか?

しかし、心配ご無用。数値をいじるだけで全てが完了する以上、船も勝手に製造されている。水路を行くなら船。つまり、兵力をいじくればそれに必要な船は勝手に準備される。

「安芸阿賀に、既に必要な分の船を捏造……いや、用意してあるよ。それから、船を動かすのに役に立つ海賊も雇ってあるから、心配しないで」

「お前が用意したのか?」

隆房には信じがたい。

「それに……海賊とは?」

「まあ、その辺は良いから。とにかく千寿を信じて、言う通りにして。まさか、このままここでコスプレ……いや、公家趣味のバカ殿の真似をして生涯を終えるつもりはないよね?」

「な……。しかし、能島まで二月として、その後お前の言うように四国の城を落とし続けたら、一体いつになったら帰って来れると思う? それまで会えぬのだぞ?」

千寿にもそれは分かっている。しかし、隆房が四国へ出兵するとともに、千寿は千寿で、人材登用やらあれこれやらねばならないことがあった。

「それは寂しいけど、仕方ないよ。早く兄上に天下を取ってもらえば、この世から戦はなくなり、いつまでも一緒にいられるよ。そのためにも隆房様は急がないとだめなの」

千寿は山田の言葉を思い出した。天下を取るのは、十年二十年かかると。そんな年になってしまったら、今のように隆房の寝所にはいられないだろう。何もかも忘れてここでコスプレごっこをしていたら、どれだけ楽しいか。隆房のためなら、あの妖しい装束を着る事も何とか我慢する。しかし、それでは歴史は動かないのだ。

「いっそ、お前も一緒に来たら良いではないか

隆房は真顔で言った。

「やだ! 隆房様の陣中の稚児とか、絶対にやだからね!!」

本当は一緒に行きたい、そう思ったが、先に言ったようなあれやこれやのために、千寿にもやることがあり、時間が足りない。それに、そんなことをしたら、それこそ隆房の慰み者としての身分が世に知れ渡り、兄や家にとっても恥になる。

「今宵一晩、真心こめて尽くすから、そのあとは真面目に出陣してね」