第四十四話:九州進出

こうして尼子家を支配下に置いた有川家は、早速重く取り立てた尼子国久らを伯耆・羽衣石城に向かわせ、昌興らは美作・津山城へ向かう。

一方、宇部では、昌典配下の宇佐美定満と高坂昌信両名が、豊後の杵築城に向けて出立した。

千寿はゲーム機を見ながら、自軍の位置を確認。先ずは、月山富田城を修繕したが、ここはいきなり完全な形に戻すのは憚られたので、最大防御値はMaxにしたが、数値はすべて半分くらい元に戻し、普請奉行の仕事を残してやった。空になっていた金蔵と米蔵を満タンにしたのは言うまでもない。

そして、次のターゲットとなった山名家の城を全て捏造。今回は地震を起こさず、士気をゼロにする事で、怪しまれずに落城させることとした。無論、米蔵と金蔵はすべて空にした。

(九州か……)

昌典が抜け駆けをしているのもまる見えだ。面倒なので、一挙に落とせるよう、大友家の城を全て壊した。

さて、その頃、九州に落ち延びた大内義隆は、立花山城で大人しくしていた。

半年が過ぎれば、またも有川昌興に襲われると思うと、生きた心地がしなかったが、その約束の刻限がすぐそこに迫っていた。

しかし、未だに豊前・筑前二カ国は安泰だった。そう、そこそこの大大名である。とは言え、すでに身の回りに見目麗しい稚児はおらず、出家でもしたかのような慎ましい生活。

「子作り」だけは続けていたおかげで、漸く世継ぎにも恵まれ、もう、勝手に敵に降った娘の辰子と今や不要となった元・養嗣子晴持(現在は一条恒持)のことは元よりいなかった者とみなしていた。

ところが、間もなく停戦期間も尽きるというこのタイミングで、有川家と大友家が戦を始めた、との報告を聞き、忘れていた恐怖が蘇った。

「冷泉はおるか」

最後の側近・冷泉隆豊は、今や一人で相良武任・陶隆房・千寿のかわりを勤めていた(むろん、そういう関係ではない。あくまでも、彼らのやっていた「政務」と「軍事」を担当しているだけだ)。

「はは、御前に」

「その、有川昌興だが……今どこにおるのだ?」

「既に石見と出雲を手に入れ、今は伯耆と美作へ向かっている模様です」

何と、半年の間にそこまで……。

「それで、豊後は? 大友家はどうなっておる?」

「それが……」

冷泉は声を潜めた。

「何やら、豊後は大地震が起ったようでして。本拠地の府内も含め、ほとんどの城が崩壊したとか……」

「何だと!?」

二人は何やら言いしれぬ恐怖を感じた。

「おぬし、有川昌興は妖術使いだという噂を聞いたことがあるか?」

殿様は左右を見回してから、冷泉の耳元で囁いた。

「はい。聞いたことがございます……」

「むむ。あの男、恐らくは手に入れんと欲する城に天変地異を起こし、壊した上で乗り込んでくるのだ。これでは、城などあってないようなもの。我らは一体どうしたら良いのかの?」

どうしたら? と聞かれて、よい方法などあるものか。相手が妖術使いだとしたら、もはや対抗のしようがないではないか。

「そ、その、あの男に負けないような妖術使いはどこかにおらぬかの?」

「それがしは存じませぬが……」

その時、冷泉は妖術使いではないが、多少は殿様よりマシな策を思いついた。

「ここは、その……有川家と停戦の延長を」

「延長?」

「はい。いつまでも停戦期間を続けていれば攻めては来れませぬ」

「おお、そうだな。その通りじゃ」

「昌興の弟・昌典の妻女は城井谷の杉興運の娘。このつてを頼って、昌典を通して延長の申し出を……」

「ふむ。そうだ。その通りじゃ。どうして、今の今まで、このことに気付かなかったのか? そなた知っていて隠していたのではあるまいの?」

殿様は細い目を更に細くして、冷泉を見た。

「そ、そのような……それがしも、まさか有川家が九州まで来るとは考えておりませんでしたので」

「ほお、確かにな」

そう、海を隔ててはいたが、宇部から九州の大内領までは遠い距離ではない。しかし、てっきりこちらは忘れ去られていると思っていたのだ。何しろ、あの家の軍勢は常に昌興を中心に動く。本体が出雲に行っている間に、別働隊が九州に入るなど、想像もしていなかったのだ。

「と、とにかく、まずは杉家に連絡を……。それから、買えるだけの付け届けの品を用意しろ」

「御館様、お忘れですか、有川昌興は、付け届けを一切受け取らない男です」

「む……」

「さらに、当家の金蔵にはそのような余裕はございません」

若山で、隆房と床の中に居た千寿は急に悪夢にうなされて、跳ね起きた。

「どうした?」

隆房が驚いて目を覚ます。

「……今、あの公家館のキモい親父を思い出した」

「キモい? 意味が分らない。また南蛮の言葉か? 申したはずではないか。我が前で南蛮の言葉を用いたらどうなるか」

「あーーやだ、草履番なんかやらない!! そんなことより、聞いてくれないの? キモい、いえ、気持ち悪い山口館の大内義隆が夢に出てきた……」

隆房もあの顔を思い出すと千寿同様、気分が悪くなった。

「その名前を出すな。どうして、急にそんな夢を?」

「分んない。もしかしたら、あいつの死期が近いからかな?」

「死期?」

「だって、もう九州に攻め込んでるんだよ。あいつもそろそろ終わり。それより、隆房様、早く四国攻めの準備を始めてよ。ここはあの公家館じゃないんだから」

隆房はもう、すべてがどうでもいいような気がしていた。こうやって、千寿と二人でいるほうが、面倒な戦に出るよりずっとマシだ。それに、恐らく、共にいれる時間は残り少ない。義隆が自分を寝所から追い出し、かわりに千寿を引きずり込んだ理由が分ったのだ。稚児姿を愛でることが出来る期間は限りなく短いものであった……。