翌日。有川軍は総攻撃を開始した。

本陣に取り残された昌典は、あれほど嫌っていた兄の無事を神仏に祈り続けた……。

尼子軍は昌典の言葉通り、既に戦意を喪失していた。しかし、ここが最後の砦とばかり、全ての城から将兵を集めていたから、「それなりに」、必死の抵抗を見せた。

昌興の言うところの三カ所の進入路は、それぞれ堀に囲まれ、その先には頑丈な門が行く手を阻んでいた。

堀を埋めて門を破るのがまず第一の課題だが、ここは防御側のほうが圧倒的に有利である。何しろ、相手は固い城門に守られていて、こちらからは様子をうかがい知ることが出来ないのに対し、相手からは攻め手の姿はまる見えになっているからだ。多くの兵士が、敵の矢に射抜かれて命を落とした。それでも、ここは人海戦術で。何しろ、七万の大軍である。

本陣の昌典は、この戦馬鹿ぶりに呆れ果てた。これだけの大軍で囲んでいれば、兵糧攻めをしつつ、開城交渉にこぎ着けるだけで終わる。確かに時間はかかるが、そのための大軍ではないか。それを、何を慌てているのか、全軍突撃などと。その馬鹿者のために祈り続ける自分はさらに惨めであった。

北麓から山頂を目指す徳山隆幸は、大将自ら陣頭に立ちながら、敵の防御を破ろうと必死であった。その、戦馬鹿ぶりに驚いた敵は、更に戦意を喪失したが、それでも絶対に城門は譲らない。半日ほどかかって、漸く堀を埋めることが出来た。

一方、正面突破の弘中隆兼の所は、兵力が一万しかない。ここは、出陣の際、隆房に言われた通り、手抜きする事に決めた。そこで、自らは敵の矢が届かない所まで避難し、やる気なさそうに攻めていた。よって、敵のほうも、同様にやる気なさそうに応じた。無論、門を破るどころか、堀も埋められない。

そして、南麓の総大将・昌興だが……これまた、これぞ戦馬鹿の本領発揮。飛び交う敵の矢を避けつつ、大将自ら先頭に立っていた。まさに、流れ矢で死ぬ可能性を全く考慮していない。昌典が見たら、確実に失神するはずである。

ところが、何と、ここでは、敵側が門を開いてきたのである。

千寿が内通工作をした、乃木孝盛が、内部から呼応したのだ。

「それがしは、乃木孝盛と申す者。ここで貴軍に加わる手筈となっておる。して、貴殿のお名前は?」

昌興は身に覚えのない内通の手筈に驚いた。

「ここから、裏手道を通って山腹に向かえますぞ。それがしがご案内致す」

昌興が一瞬返答に困ったその時、凄まじい横揺れが大地を襲った。

「殿、お怪我はございませんか!!」

井上尚正が昌興の元に駆けつけようとしたが、立っていることもままならぬ大揺れに、思うに任せない。

門の内側の、乃木孝盛もその場に倒れこんでいたが、何と内通しようと声をかけた相手が敵の総大将であったと知り、驚き呆れた。その辺の一武将だと思ったからだ。

(あり得ないよな……)

そんなことを思いながら、孝盛は意識を失った。

その頃の、若山城。

千寿は隆房とコスプレの一夜を過ごした後、またも寝坊してしまった。横で寝息をたてている隆房の寝顔すら愛しいと思いつつ、もう一度横になった時、何かを忘れていたことに気が付いた。

(たいへんだ!!)

慌てで、隆房をほったらかして、自室へ向かう。

ゲーム機を起動すると、昌興の軍勢は既に月山富田城に着いていた。到着する前に、捏造するつもりだったのに、隆房との愛欲の日々に溺れるうち、すっかり忘れてしまっていたのだ。

慌てて月山富田城のデータを改ざんしたが、その時、山田が言ったことを思い出した。

――兵糧をゼロ、兵力を100にし、士気をゼロにすれば城は降伏する。

(どうしよう? やっちゃった……)

そう。昌興らが地震に巻き込まれることを恐れるなら、防御をいじる必要はなかったのに、城の防御を全てゼロにしてしまったのだ。兄が崩れた城壁の下敷きになった様を想像した千寿は顔面蒼白になった。