第四十話:天下を動かす力

千寿は部屋の中で寝転がってゲーム機をいじくっている。隆房がいないと変なコスプレをさせられることもなく、自由気ままだ。暫く帰って来なきゃ良いんだ。隆房のことを考えるとちょっとばかり腹が立つ。まさか、公家の寝所を建て、コスプレまでやらせて、本当に公家マニアになってしまったのだろうか?

公家趣味の大内家など見限ってやる、と啖呵を切ったのに、今度は自分がやっているではないか。留守の間に山口へ帰ることも出来るのだが、もし、戻ったら今度こそ牢屋にでも入れられてしまいそうだ。

山田の雲外門が山口城にないのがいけない。あれさえあれば、行きも帰りも一瞬なのに。山田が大内義隆の登録を消すことが出来ない、と言った事を知り、昌興は千寿が山口に集めた全ての門を壊してしまった。だから、次ぎに山田が来て、新しい門を作るときまで、もうあの門は使えないのだ。

しかし、実は若山と宇部の門だけは残っていた。この二箇所と、毛利家の吉田郡山、そして、九州の大内家の城とはまだ繋がっている。勿論、大内家がまだあの木戸を残しているとは思えないし、毛利家の木戸だって、とっくに廃棄処分になっているはず。千寿は山田を思い出した。例の発信器は若山に移したが、それを頼りに、本当にまた来てくれるのだろうか……。

山田自身もそうだが、その「同僚」という人物のことも気になる。タイムマシンの技術は山田より遙かに優秀で、しかも、結婚相手は「同性」だ。一体、どんな生活を送っているのだろうか?

千寿がジョニー・吉田とそのパートナーのジェームスを見たら、きっと現在想像している、麗しいイメージは砕け散るであろう。何しろ、イケメンと美少年の清らかな純愛しか思い浮かべることが出来ないのだから。

確かに、吉田とジェームスは、妙なコスプレごっこなどしていないかも知れないが、お世辞にも幸せなカップルとは思えない。まあ、出会った当初はそれこそ、大富豪の父親に勘当されてまで一緒になろうと誓い合う間柄だったのだろうが。

あれこれ考えていたら、千寿は何となく寂しくなった。山田でも、隆房でも、あの相良ですら良いから、誰かに構って欲しかった。

二ヶ月経って、敷山と岩国に城が建ったら、すぐさま捏造して巨大な城に変える。そうすれば、隆房は三つもの城を持つ城主になれる。その時には例の、「勲功の割には報酬が少ない」も消える。

良くやった、と隆房が喜んでくれる様を思い浮かべ、千寿もその日が来るのが待ち遠しかった。でも、今はまず、隆房に会いたい。

隆房様ーー早く帰って来てよ!

しかし、帰城した隆房は何故か機嫌が悪かった。

「敷山と岩国に城を建てろ、と命令したのはお前だな?

相も変わらず涼やかな目元。しかし、今はそこに、何やら憎悪にも似た炎が見える……。

「そうだよ。言ったでしょ? この家を繁栄させるって。その第一歩。先ずは城を増やし、兵力を増やし、そして、更に新しい城を手に入れるために戦に出る。そうしたら、隆房様も活躍できるよね」

「新しい城を手に入れるのは我ではなく、昌興様だ」

隆房のその一言で、千寿は怒りの源がどこにあるのかを察した。

これはもう、生まれついての不忠者だ。誰かの下に付いていることが我慢ならないのだ。大内の御館様は間抜けで公家趣味だから嫌いだったのではなく、自分の上についていることが問題であったのだ。今度は昌興のことを邪魔だと思い始めた。そういうことか?

「どうせお前は当主の弟。しかも、昌興様にはお子がおられぬ。もしかしたら、お家を継ぐことになるかも知れん」

「そう? だったら何なの? 兄上にはもう嫌われてしまったもの。家に戻るつもりはないよ。隆房様が、陶家の名前で天下に覇を唱えれば、それで満足なの?」

千寿は淡々と言った。

「……そんな不忠なこと、考えた事もない。どうせ、我は一家臣だ。有川家のために生涯を捧げる」

「嘘つき」

「何だと?」

「男なら誰でも天下に覇を唱えたいと思うはず。正直に言ってくれて構わない。それが本心ならば、隆房様に手を貸す。誰であれ、千寿の事を大切に思ってくれるのであれば、その人のために力を尽くす。大事なのは、天下を動かす力を持ってるのは、この世のなかで、唯一千寿だけだって事。忘れないでね」

ゲーム機の存在など知らない隆房に、この言葉の意味が分るはずはなかった。

結局、それ以上この恐ろしい会話が続くことはなく、二人の気まずさも時間と共に消えた。