第三十話:人たらし三兄弟

「あのさーー、こうやってデータをいじくったりしてたら、人の場合どうなるのかな?」
不意に千寿が呟いた。
その時、鷲塚は唐突に、ジョニー・吉田の話を思い出した。実際のリアルプレイは、現地に着いてから、せいぜい捏造人物を何人か作るくらいのいい加減なものだった。史実人物にまで捏造を加えるのは禁忌だったはず。
それを聞いて心配になったから、わざわざ高い金を注ぎ込み(吉田には相当の報酬を支払っていた)、命の危険もかえりみずにやって来たのではなかったか。
にもかかわらず、ここ数日千寿との会話に熱が入ったために、すっかりその「本来の目的」のことを忘れ、自らも史実人物に大量の捏造を加えてしまった……。これでは、ますます傷口を広げてしまったのでは?
いや、しかし、今の所、何一つ異常は感じられない。そこそこ、正常に機能しているではないか。
やや不安になってきた鷲塚の耳に千寿の声が聞こえた。
「……だから、心配で兄上や隆房様のデータはいじれないの。って、人の話ちゃんと聞いてる?」
「あ、すまん。聞いている。そうだな……その、出来る事なら、大事な人のデータはいじらないほうが良いかも知れん」
「やっぱり……」
千寿は溜息をついた。
「隆房様は黄色だから、家来を増やせば良いかも知れないけど、兄上はどうしたら? なんでこんな真っ赤になったのかな。一体どこから、謀反の誘いなんか……やはり大内家だよね?」
「いや、それはない」
鷲塚はキッパリと言った。
「寝返り工作は同盟関係にある国の者には持ちかけることが出来ない。君たちは大内家に臣従していたから、同盟関係だったではないか」
「それは、ゲームの中の話だよね? 実際には大内家と裏取引していたのは、明らかなんだよ」
「そうなのか?」
「うん。だって、兄上は大内家の身内だもの」
「身内?」
意外だった。確かに、彼らは捏造された人物だから、鷲塚がいくら歴史大事典をめくっても、その詳細は分らない。事前に知識を仕入れることも、当然できなかった。
そう言えば、例の陶隆房も同盟関係にあった有川家からの造反工作に乗っかったではないか。捏造された世界なだけに、何か特別な力が働いているのかも知れない。
「君たち兄弟は何やら特別のようだな。捏造主はかなり詳細な世界観を構築していたようだ」
「捏造主」と聞いて、千寿はクリスマスの日に現れた謎の女の事を思い出した。まだ、この話は鷲塚に話してはいなかったのだ。
「タイムマシンって誰でも動かせるの?」
「ん? いや、その、誰でも、というわけにはいかん」
誰でもどころか違法な取引に来ているのではないか。しかし、操縦士の資格を見せる訳にもいかない。何しろ、ここではセールスマン・山田太郎なのだから、鷲塚名義の名刺すら渡せない。
「でも、山田以外に、タイムマシンで来た女がいたんだ」
「女?」
別に女性の操縦士など珍しい事ではない。しかし、歴史研究のためでないのなら、その女も間違いなく密売人ということになる。
「そう。『私がいなければあなた方はいなかった』とか、『私があなた方の創造主』だとか、訳の分らないことを言ってた。でも、千寿は捏造されたのだから、もしかしたら、本当にその女が作ったのかも知れない、って思ったら物凄く怖かった……」
「創造主? いや、私の同僚の話が正しければ、君たちを捏造したのは我々よりも数百年前の人物だ。タイムマシンなどなかったはずだ。君の聞き間違いだろう。あり得ない話だ」
「同僚って、同性婚の?
千寿の話題は一挙に同性婚のほうに行ってしまい、謎の女の事はそれ以上語られることはなかった。
鷲塚から未来には「同性婚」というものが存在すると聞かされて以来、未来の人間が羨ましくてならない千寿。それを実行しているという鷲塚の「同僚」についても興味津々である。
しかし、鷲塚のほうはそんな話をしたことなどすっかり忘れていたから、「同僚」と言った途端に「同性婚の人」かと問われ、その記憶力の良さにまたも驚かされてしまった。
「ああ。よく覚えていたな。その男だ。今回ここへ来たのも、彼のマシンを使った。マシンについての知識は私よりずっと優れているので」
「ふーん。じゃあ、その人に感謝しないとね」
またも、キラキラした瞳に見つめられ、鷲塚は思わず目を逸らした。