第二十八話:史実ムービー

鷲塚が1000年前にやって来てから既に4日が過ぎた。後3日で千寿にすべてを教えてやらなければならない。時間がまるで足りなかった。先日の相良言う所の痴話喧嘩以来、隆房はもう遠ざけられ、千寿は鷲塚の部屋に泊まり込んでいた。

鷲塚の名誉のためにしつこく繰り返すが、ノーマルな彼と千寿の間にそのような関係は一切発生していない。二人はほとんど徹夜で議論を続けていた。十代初めの千寿にはどうという事もないが、正直、鷲塚はすでに無理がきかない年齢に差し掛かっていた。連日の徹夜はかなり辛い。その分昼間に睡魔に襲われ、千寿に引っ叩かれる羽目になっていた。

そして、「厠」以外に、この時代の「風呂」にも問題があった。そもそも、ほとんどをシャワーですませている鷲塚には、風呂に浸かるという習慣はないのだが、身だしなみに気を配ることは職業上も必須であり、元々清潔好きであったから、シャワーを使えないことは耐えがたいことである。しかし、それでも、1週間なら風呂など使わなくても構わんだろうと諦め、「時間がない」ことを理由に、「湯を使う」事は遠慮した。帰国後は即シャワーだ!

他にも、あれやこれやの問題があった。金蔵がカンストしているはずの大大名家と言えども、この時代の食事は質素で、当主の弟である千寿が大人しく汁物をすすっている様を見て、鷲塚は彼の栄養状態を心配した。木下綾香とフレンチのフルコースを愉しむことはもう夢のまた夢であったが、せめて立ち食い飯屋の天丼でも良いから食べたい……。

「ねえ、長篠の戦いって言うのを見たんだけど……」

講義の最中、休憩に菓子を食べていた時に、千寿が切り出した。

「種子島を大量に手に入れて、これと同じことをやろうと思う」

「おお、史実ムービーを見たのか?」

ゲーム中には、史実イベントを発生させた際、特別に製作されたショートムービーを見ることができるものがあった。まあ、これも、ゲーム運営の依怙贔屓で選ばれているだけで、どのイベントが映像化するに相応しいかなど、それこそプレイヤーの好みを聞いて考えて欲しいものである。

イベントは条件が揃えば勝手に発生する、と以前説明したが、逆に言うと揃わなければ永遠に発生しない。だから、プレイヤーはこのつまらないムービーを発生させるために、条件をそろえようと必死になる。一度発生させ、見ることが出来たムービーはゲーム機の中に保存され、いつでも好きな時に見ることが出来る。このゲームの元持ち主はすべてをコンプリートしていたから、千寿はそれを見たのあろう。

「だって、つまんないんだもん。ヒマだし」

千寿はそう言ってから、ちょっと意地の悪い目で鷲塚を見た。

「山田がやたら入れあげてた織田信長ってのは、本能寺って所で家来に殺されてるじゃん」

本能寺の変は当然ビッグイベントだから、ムービー化されている。

「相当な間抜けだったんだね」

「ま、間抜け?」

「だって、隆房様も大寧寺で殿様を殺してるじゃん。きっとこの信長とやらも、キモくて、公家趣味の変な親父だったんだよ」

なるほど。家来に殺されるのは、すべてあのような輩だと、そのような固定観念が。まあ、鷲塚とて、別に織田信長など好きなわけではなく、単にメジャーだから名前を知っているに過ぎない。歴史にも疎いので、詳しいいきさつは知らないし、どうでも良い。

「それで、君はムービーをすべて見たのか?」

「……」

千寿は黙ってしまった。

「厳島の戦いも?」

「……見てない」

消え入りそうな声である……。

「見ないほうが良いだろう。見てはだめだ」

その「見てない」が本当なのか、何やら怪しかった。ひょっとしたら、不安と好奇心に駆られて、こっそり見てしまったことは大いにあり得る。

「言っただろう? 勝てば官軍なのだ。あんなのは、勝った毛利が適当に脚色したインチキだ」

「毛利元就とその息子三人、この手で殺す」

千寿は無表情で、淡々と言った。

「……」