第二十四話:再会

山口館改め山口城には、やはり雲外門は残っていなかったようで、結局鷲塚はまる一日待たされる羽目になった。しかし、鷲塚を仲間と認めた相良による心づくしの歓待のお陰で、待ち時間はそれなりに快適であった。

さて、千寿は別れたあの日と全く同じ愛らしい姿であったが、礼の公家装束は普通の小袖と袴姿になっており、気のせいか、背も少し高くなったようだ。

しかし、鷲塚も相良もともに想定外だったのは、なんと陶隆房が千寿と同道して来てしまっていた。

(む……。スチル画像より更に妖艶なイケメンではないか……)

鷲塚は同性かつノーマルながら、何やら胸が妖しくざわめくのを感じた。勿論、そんな好意ではない。世の中に、このような容姿端麗な男が存在するのかという信じられない思いとでも言うべきか。しかし、一目でこの男とは気が合わない、と感じた。この類いの男は要注意だ。

「山田とか申すのはそのほうか?」

隆房はその涼やかな目にありったけの軽蔑を込めて、舐め回すように鷲塚を見た。

「ふん。南蛮人ともこの国の者ともつかぬ。おぬし、一体何者なのだ? 千寿がこれほど夢中になるとは」

まずい。鷲塚は本能的に危険を察知した。例の泥沼に巻き込まれる……。

「何を勘違いされているのか分らないが、我々は至極健全な、商業的取引を交わしているだけの関係だ」

「ならばその、商業的取引とやらに、我も同席させてもらおう」

ずかずかと部屋に入り込む隆房の腕を千寿がそっと掴んだ。

「隆房様は南蛮の言葉が分らないでしょ? やっぱり二人だけで話させて。一々口を挟まれたり、訳が分らないから説明しろ、って言われたら、話がややこしくなっちゃうよ」

「二人だけでだと?」

「隆房様、千寿のこと、信じてないの? こんないかがわしい男と何か怪しいことをするとでも思っているの!?」

「……」

「……」

信じていないのかと疑われた隆房と、いかがわしい男と名指しされた鷲塚はともに言葉を失った……。

やっとの事で、隆房を追い出した千寿は、早速鷲塚、いや山田に山ほどの疑問を投げかけた。

鷲塚にも、山ほど話したいことがあったが、先ず最初にどうしても確認しておきたいことがあった。そう、それは、こちらの世界に着いてから思いついた疑問である。

「あの、陶隆房という男は、一体君のことをなんだと思っているのだ? 相良とかいう男の話では、君はあの陶の所で半ば軟禁状態にあるようだが……当主の弟である君が、あの男の元に囚われているのだとしたら、事は重大ではないか」

千寿はちょっと悲しそうに俯いて呟いた。

「みんな同じように言うけど、山田にだけは分ってもらえると思ってたのに。未来では、許されるんでしょ? こういうこと」

「いや、そうではない。その……私は君たちの恋愛関係についてとやかく言うつもりはない。だが、何と言えば良いのか……今の君は、元の殿様のところにいたときと、何ら変わらないのではないか? 相手がイケメンなら何をされても良いのか?」

「そうだよ」

千寿は意外にもあっさりと答えた。

「前の殿様はキモかったもの。近くにいるだけで我慢できなかった。でも、隆房様は違うの。愛してるから」

「……」

愛してるから……!? 相手がイケメンで、愛していたら、何をされても良いのか? この少年はドMか? 所謂「健気受け」と言う状態か? いや、その……鷲塚は言葉に詰まった。こういう場合、ジョニー・吉田に相談するしかない。多少は知識を仕入れてきたのだが、やはり理解できなかった……。

「ま、まあ、いい。君がそう言うのなら」

そう言って、誤魔化す以外に鷲塚にはどうしようもなかった。

「我々は商業的な関係だ。取引を始めよう。先ずは、君が困っている事、分からない事を順追って話してくれ。答えられる範囲で答えよう」

「うん」

千寿はまたいつもの聡明そうな愛らしい少年に戻っていた。