第二十三話:南蛮人? とネズミ妖怪

「おい、そこのお前、出て来い」

1000年前の世界で投獄され、居心地が良いとは言えぬその場所で、途方に暮れていた鷲塚は、所謂「牢屋番」のような男に声をかけられた。

「千寿君に会えるのか?」

鷲塚は感激したが、牢屋番は知らぬ顔だった。考えてみたら、こんな木っ端役人に、当主の弟の名前など分るはずはなかった。

牢屋から出してもらった鷲塚は、そのまま、先に取り調べを受けた警護役の武官らしき男の元に連れて行かれた。

「ついて来い」

武官に伴われて、建物の外に出ると、30分かそこら歩かされて、何やら厳めしい門の前に到着した。門が開くと、今度は、内政系家来のような人物と任務交代して、先の武官は去って行った。

何やら、貴人の住まいと思しき和風の建築物。これは良い感じだ。鷲塚は大いに期待した。千寿と出会ったのも、このような豪勢な館の中であったからだ。少なくとも、殿様の身内くらいでなければ、このような場所にはいないはず。

その後、離れの一部屋に通された。

「こちらで、暫し待たれよ」

そう言うと、その内政系家来は、鷲塚を残して立ち去った。

ややあって、障子が開くと、一人の小男が入って来た。

「貴殿が山田太郎殿かな?」

何なんだ? このネズミのような男は?

鷲塚はがっかりした。つぎに会えるのは千寿だと思っていたからだ。しかし、まあ、牢屋の中ではないから良いとしよう。

「そういうあなたは?」

小男は偉そうに咳払いを一つして、答えた。

「それがしは、相良武任と申す。殿の元で、右筆を勤めておる」

ゆうひつというのが、何なのか、鷲塚に知識はなかったが、いかにも貧相なのに威張りくさっている所から、そこそこの高官かも知れない。一応礼儀正しく接しておこう、鷲塚がそんなことを考えていたら、その男は急に相好を崩し、妙になれなれしい態度になった。

「聞くところによれば、貴殿は千寿様と懇意の仲であるとか?」

「懇意? いや、それは何とも……彼は私のクライアントで……」

鷲塚は言葉に詰まった。確かに1000年もの時空を飛び越えて、二度までも会いに来たのだから、そこそこ縁があったとは言える。しかし、「懇意の仲」かと、問われれば、ほんの数時間話したことしかない少年について、そうだと答えるのもおかしい。

「くらいあんと、とは?」

相良は眉をしかめた。元々見栄えが良くない顔が更にゆがむ。

「顧客です。取引の相手です」

「取引!?」

相良はまたしても相好を崩す。

「山田殿はご存じかどうか知りませぬが、ここだけの話、我が殿にはお世継ぎがおられぬ。それで、千寿様を養子に、というお話があるのだ。つまりはその……次のお殿様と言うわけで……」

「お、お殿様?」

山田ならぬ鷲塚もごくりと唾を飲み込んだ。殿様の弟よりも、殿様そのものがクライアントになってくれるほうがよっぽど嬉しい。

「あーーええーー、その、今の話は内密に」

相良はまたも咳払いを一つ。

「これも、ここだけの話だが、我が殿は年がら年中戦に出ておられて、ほとんど城に留まるということがないお方だ。つまりは……その……いつ何時、万が一の事が起こるか分らん。」[

相良は左右を見回してから、鷲塚の耳元で囁いた。

「つまり、その、流れ矢にあたることや、刺客に襲われることがないとも……」

なるほど。鷲塚はメガネのブリッジを持ち上げる。

「要するに、千寿様と縁あるこの私とコネクションを持ちたいと?」

「こ、こねく……?」

相良は額の汗を拭った。南蛮人の言葉はやはり意味不明だ。しかし、今はこちらに分がある。

「今、殿は石見に兵を進めておられる。よって、それがしが留守を預かっておる。つまり、貴殿が千寿様に面会できるか否かは、それがしのさじ加減一つで決まるわけで……」
「それで? あなたの条件は?」