鷲塚は警護担当武官のような者の元に連れて行かれ、そこであれこれと取り調べを受けたが、頭が悪いのか、固いのか分らぬその武官には鷲塚の話はさっぱり通じなかった。しかし、相手が千寿の名前を連呼している以上、本当に殿様の弟君の知り合いである可能性がゼロではないので、乱暴な事はできない。

結局、殿様に裁断を仰ぐということになったようで、鷲塚は一時的に牢屋に入れられてしまった。

(まったく、この私が投獄されるなど……)

あり得ない、とは言えない身分であることを、鷲塚は一瞬忘れかけた。そう、彼は「立派な」犯罪者である。何しろ、タイムマシンの私的利用をしているのだから。しかも、密売にまで手を染めているではないか。元の世界で拘置所に入れられても今と同じような気分になるのだろうか?

いや、少なくともここよりはマシであろう。裁判がすみ、刑が確定するまではただの「容疑者」であるし、仮に有罪になったとしても、服役囚の人権とてきちんと守られているはず。刑務所にだってテレビくらいあると聞いた。しかし、ここには何にもないではないか。それこそ、時代劇で見たことのあるそのまんまの牢屋である……。

戦国時代でリアルに投獄されてきたぜ! などとSNSで自慢して喜べるような物好きではない鷲塚は、面倒な事になった、と当惑した。そもそも、そのような連中であったとしても、自慢するためには、タイムマシンの不正使用がバレてしまうから、基本無理である。しかも、持ち物はすべて没収されてしまったから、通話は無理でも、撮影くらい出来そうなスマホも手元にはない。

怪しげな南蛮人云々の事案が、殿様にとってどれだけ重要であるかによって、この牢屋での滞在期間は変わるものと思われる。以前の公家趣味の殿様も、千寿の取り次ぎがなければ、鷲塚に会ってくれたかどうか怪しいものだった。今度の殿様、つまり千寿の兄だが、一体どのような人物なのだろうか? 確か、武芸に秀でたSランクであったはず。まさか、戦にでも出ていたら、帰ってくるまでここから出られないではないか!

鷲塚は会社に一週間の有給をもらっていた。今は会社を辞めて米国に帰ったジョニー・吉田を訪ね、彼の起こした怪しげなIT企業の地下室で、最新のタイムマシンの試運転を頼まれたのだった。

そう、吉田の会社は表向きはただのIT企業で、吉田がその分野に通じていることで、そこそこ普通の会社、社長兼社員合計1名というとてつもない零細企業として機能しているように見えた。しかし、裏の顔はタイムマシンを使った密貿易の会社として運営される予定であった。

どうやら、海外では日本より以上にこれらの密貿易のルートが確立されているようだ。その分、取り締まりも厳しいが、抜け道もまた数多く用意されている。まあ、いずこも同じイタチごっこだ。

しかし、吉田の頭脳は桁外れていたから、様々な研究と計算を重ね、何とか鷲塚がもう一度千寿がいるはずの空間に辿り着けるよう考えてくれた。勿論、実際に計算通りに行くとは限らないし、マシンそのものが、吉田自作の新製品だったから、試運転に志願することは自殺行為でもあった。

だが、鷲塚は、吉田の言っていた、テレパシーにかけてみることにしたのだ。もしも、1000年前の少年が自分に対して何らかの記憶を持ち、再会を望んでいるとしたら、会える確率は高い、そう信じていた。

どうやら、思いは通じたようで、千寿に関係ある時代に着いた事だけは間違いないようだ。しかし、実際会うことが出来るのかどうか微妙になってきた。まさか、こんなところに投獄されて、そのまま忘れ去られるようなことはないと信じたい。取り敢えず、一週間以内に帰れないと困るのだが……。