第二十二話:山田太郎再び

周防の国・山口城の城下のはずれに、怪しい南蛮人が到着した。南蛮人と言うのは普通は船で、海辺に現れるのがお決まりだったが、その男は奇怪な乗り物を用い、まるで瞬間移動でもしたかのように、突如としてその場所に現れたのである。

たまたまその付近に居合わせた城下の者たち数名は、最初は驚いて声も出せない状態であったが、その後、ある者は恐怖に腰を抜かし、そうでない者は我先にと逃げ出した。何やら知れぬが、見たこともない乗り物と、見たこともない装束、そして、突然目の前に現れるという奇怪な現象に恐怖を感じたに違いない。

その男、そう、暁工学部長補佐・鷲塚昭彦は、トレンチコート姿で颯爽と現れた。今回のマシンは、元同僚ジョニー・吉田が自ら設計・製造した最新型で、以前のように着陸と同時に乗組員が吹き飛ばされる、などという不具合はなかった。

山田は愛用の革鞄から端末機器を取り出すと、その画面に向かって言った。

「シールド起動、ステルスモード開始」

すると、マシンを取り囲むように光の幕が張られ、それと同時に、マシンはまるでその場所から消えたかのように、見えなくなった。

鷲塚は満足そうに微笑んだ後、視線の先にある、絢爛豪華な巨城を仰ぎ見てやや顔色を変えた。

「こ、これは……まさか。ここへ来て本当に安土城に着いてしまった、などと言わないだろうな?」

鷲塚は、腰を抜かして逃げ遅れていた町人の一人に尋ねた。

「ここはどこだろうか? 私は大内家の山口館に着いたつもりだったのだが……」

「……」

町人達は、鷲塚を警戒し、何も答えない。

「困ったな。そんなに驚かなくても……私は決して怪しい者ではないのだ。ただのセールスマン、いや、商人だ。君たちと同じだ」

そのうち、一足先に逃げ出した者たちに誘われて、怖いもの見たさのやじ馬が集まってきた。あっという間に、鷲塚の周りには人だかりができてしまった。

「何なんだ、こいつは?」

「俺らの言葉が話せるのか?」

「見たところ、珍しい南蛮人だ。言葉も分かるし、髪の色も目の色も私らと同じじゃないか」

やじ馬達はひそひそと囁いていた。

「えーー、君たちの中に、ここがどこなのか説明してくれる者はいないかな?

鷲塚が言うと、怖れを知らない八つくらいの子どもが人込みをかき分けてやって来た。

「有川のお殿様のお城だよ」

「おお、有川のお殿様だと?」

鷲塚は驚いた。

「それで、場所は? ここは山口なのか?」

「そうだよ」

その子どもは言った。

「ありがとう。では、諸君、私は城に向かう。何しろ、有川のお殿様、いやその弟君は私の大切なクライアントなのだ。失礼する。通してくれないか」

鷲塚はやじ馬の輪から外へ出た。

すると、手に長槍を持った兵士二人と、役人風の男が立っていた。

「怪しげな南蛮人というのはこの者か?」

役人風の男が、鷲塚を指さした。

「へえ、何やら見たこともない箱みたいなもんで、いきなりやって来たんでさ」

町人風の男が説明した。

「うむ。確かに見るからに怪しい」

役人は言った。

「いや、私は怪しい者ではない。当主様の弟、千寿君、いや、千寿様と言うべきなのか? とにかく、弟君に会せてはもらえないだろうか……て、な、何をするのだね?」

鷲塚は役人の命令で兵士らに捕まってしまった。

「おい、千寿君に会わせてくれ。話せばわかる。乱暴はやめたまえ!」

兵士らは鷲塚の腕を掴み、何やら喚いているのを完全に無視して、連行していく。
やじ馬の群れはそのまま、鷲塚を見送っていたが、やがてその姿が見えなくなると、もはや見るべきものはない、とそれぞれの持ち場に帰って行った。