第十八話:謎の女もしくは創造(捏造)主?

昌典が兄に意見しようと、昌興を探しに行くと、途中で千寿と陶隆房がいちゃいちゃしながら歩いてくるのが目に入った。また、あの妙な木戸を使ってやって来たに違いない。どうなっているのだ、この家は!!

「兄上、お久しぶりでございますね。お元気そうで何よりです」

千寿がにこやかに言うと、昌典はまるで汚らわしい物でも見るように、上から下まで眺めやってから、嫌みたっぷりに答えた。

「おお、これはまた、どこから湧いてきた公家の稚児なのだ? もしや大内家の間者か?」

千寿はその言葉を聞くと、ぷいっと横を向いた。

「隆房様、あの相良武任がどこから当家の情報を得ていたかご存じですか?」

隆房はそっと千寿の手を掴んだ。今ここでやり合うのはまずい。しかし、千寿はその手を振り解いた。ここは絶対に譲れない!

千寿にとって何よりも許せないのは「寝所の小僧」と「公家の稚児」の二言である。そのうちの一つを聞いてしまった以上、後へは引けない。何しろ、好きでこんな格好をしているわけではない。無理矢理やらされていたのだ!

「兄上があのネズミ野郎に宛てた書状のいくつかは私が持っています。どうせ、昨晩のやりとりも既に山口へ告げ口しているのでしょう? でも、もう間に合いませんよ」

相良武任が宇部の内情を知っていたのは、あの男自身が間者を使い、目を光らせていたことも勿論あり得る。しかし、そもそも、その任務を負っていたのは隆房であったから、義隆から相良に指示は出ていないはず。にもかかわらず詳細を知っていたのは、誰かこちら側から内通者が出ていたからに相違ない。それも、隆房が有川家と通じていたことを知っていた者だ。

実は昌典の書状など見たことはないが、見当はずれなことは言っていないはずだ。何しろ、山田のゲーム機を見れば、おおよその事は把握できるのだ!

「何!? そなた、私が兄上を裏切っているとでも言いたいのか?」

昌典はさすがに「策士」なだけあって、こけおどしなど通じない。眼光鋭い様はまるであの毛利元就のいやらしさに近い。千寿は少しだけ、やりにくさを感じた。

「だって、造反フラグが立っているの見たもの! それに、この城の中で、兄上を裏切るとしたら昌典兄上の一派以外にはないじゃない。他は馬鹿みたいに昌興兄上に忠誠を誓ってるもの!!」

馬鹿みたいに、は余計であった……。しかし、例のゲーム機によれば、城内の武将はそのほとんどが義理堅く忠誠値が低い者だらけ。酷いのは忠誠値が「1」や「2」になっている。こんな連中には造反フラグなど立つはずがないのだ。しかし、昌典のそれはなんと「14」である。しかも、性格も昌興とは合わない設定になっていた。

「な、なんなのだ、そのふらぐとやらは……」

さすがの昌典も南蛮、いや未来の言葉は分らない。

「良いではないか。事ここに至って、大内家についても分が悪いことは、明らか。昌典様ほどのお方がそんな間の抜けたことをなさるはずはない」

同じくフラグの意味が分らない隆房が、これまた厭味ったらしく割って入った。

千寿が例の山田から学んだ怪しげな言葉を使い始めたら、話は更にややこしくなる。ここらで一時休戦の合図だ。

「こうしてはいられない。あの戦馬鹿が五万もの大軍を連れて行くとなったら、城内の米倉は空……いや、そもそも最初から足りぬではないか……」

昌典は何やらブツブツ言いながら、千寿と隆房を置き去りにして、足早に昌興の元へ向かう。

「今、五万の大軍と聞こえたような……」

隆房も愕然とした。

「だから何なの? 五万なら五万で行けば良いよ。兵糧なんていくらでもあるから、湯水のごとく使えば良い」

「……いや、湯水のごとくは無理だ」

賢いふりをして、やはり子どもなのだ。何も分ってはいない……。隆房は思ったのだが……。

「大丈夫。若山にも今頃三万は集まってる」

千寿は自信たっぷりに言った。

「あ、でもね、青景の所は捏造してない。イマイチ信用できないから」

「ね、ねつぞう?」

何やら若山にも三万の兵が、と聞こえた……。しかし、多めに見積もってもせいぜい五千くらいしか集められぬはずだが。隆房は混乱した。

「隆房様、何をぼーーとしているの? 早く兄上の所に行こうよ。この種子島を見せたら、きっとびっくりするよ」

千寿は大事そうに抱えている木箱を顎で指した。

そう、この箱の中には、種子島に伝来した「鉄砲」というものが入っている。ザビエールから貰った物だが、一度手に入れてしまえば、後はいくらでも捏造できてしまう。

ゲーム機で、山田が言っていた織田信長とやらを調べたが、長篠の戦いとかいう戦でこの鉄砲を持たせた部隊を使い、武田家の騎馬軍団を壊滅させたとか。何やらたいへんなものらしい。織田信長なんてどうでも良いから、先に昌興の所で部隊を訓練する。そうしたら、歴史に名を残すのは、織田家ではなくこの有川家なのだ。
千寿は壮大な計画に胸を躍らせていたのだが、目の前で固まったままの隆房に気付いた。

「隆房様、どうしたの?

「……いや、何でもない……お前こそどうしたのだ? 先程から何やら怪しげなことばかり言っておるぞ」

「ん? そうかな? 言ってることは怪しくないけど、この格好は怪しいよね……」

千寿はちょっと悲しそうに言った。昌興に会う前に、この怪しすぎる稚児姿を何とかしたかった。

「良いではないか。先を急ごう」

隆房は千寿の稚児姿を好んでいた。自らも義隆の前でやらされていたのだが、確かに愛らしい。今暫くこのままで愉しむのも良かろうと思うのだった。