第十五話:根回し

1000年前の少年・千寿は安芸の国・吉田郡山の雲外門に着いた。

夜中にもかかわらず、ここの木戸もやはり、宇部と同じように厳重警備状態だった。こんな怪しげな「瞬間移動」装置などを配置されたら、警戒するのは当然だ。

実際には通れるのは千寿と殿様だけだから、寧ろ、何かの間違いで辿り着いた丸腰の殿様を捕まえてしまうこともできるのに。毛利家がそこまで気が付いていたかどうかは不明だが、少なくとも千寿は捕まってしまった……。

「怪しい者ではない。宇部の有川昌興の弟だ。密書を携えてきた」

いきなり木戸の前に降ってきた(見張りの者にはそう見えたらしい)子どもに、怪しくない、などと言われて、はい、そうですか、というほど毛利家の見張りは甘くなかった。

怪しいとは言っても、何も出来そうにない子ども一人だから、どう処分しようか戸惑っていたら、相手は盛んに隆元さまに会わせろと喚いている。面倒なので、見張りの者は言われるままに隆元に押し付けることにした。

こうして、いきなり当主の毛利元就に面会するのは難しそうなので、先ずは顔見知りの隆元との面会を求めた千寿であったが、散々待たされた挙げ句、やっとの事で隆元に会うことが出来た。

「おや? これは本物の千寿様では……当家の者がご無礼を致しまして……。何しろ、木戸から降ってきたなどと申しますゆえ」

「お人払いを願います。火急の用件です」

「おお、太守様からのお遣いでございましたか?」

隆元は昌興と同じ種類の人種だ。お人好しで義理堅い。このような人物相手に造反の話など持ちかけても乗るはずはない。

「いえ。宇部の兄から、そちらのお父上に、書状をお持ち致しました」

「昌興様から父上にですか?」

二人して、当主の元就に会いに行く。

千寿は唐突に、山田の話を思い出した。史実通りなら、隆房は厳島で毛利に敗れて死ぬと……。Aランクの隆房はSランクの毛利元就に敵わないのか。しかし、今はCランクなのだから、怖がる必要はない。これから、歴史をいじくれば、毛利など敵ではない。

案の定、毛利元就は造反の話に飛びついた。が、一応は思案するふりをした。

「この場ですぐに返答するのは難しいゆえ、後程使いの者を向かわせる、と昌興殿に返事を」

「そうはいきませぬ。この場でお返事を頂きたい。刻限は明日、です」

「明日? それはまた急なお話ですな」

「そうです。あの門を使わない限り、明日までに宇部には着けぬでしょう。門を通れるのは太守様を除いてはわたくしだけです」

「門? ああ、あの木戸のことですかな?」

毛利元就は眼光鋭く、こちらを睨みつけている。何を考えているのか見当もつかない。

(ああーーいやらしい!! 馬鹿は嫌いだけど、こういうのも嫌だ……)

大内義隆や相良武任なら、手のひらで転がせる千寿にも、毛利の謀神の前ではすぐには良い知恵が浮かばない。色仕掛けも泣き落としも通じないし、造反の仲間に誘おうというこの状況下では、相手がこちらに媚びを売ってくるいわれもないからだ。

――君がこの有川昌春という人物なら、文句なしのランクSだ

――知略120!? 謀神毛利元就も真っ青だ

「頑張りたまえ。君なら何でも出来る!」

山田の言葉が聞こえたような気がした。

「兄が天下に覇を唱えるためには、やがては毛利家とも矛を交える事になるでしょう。ここで、山口館に注進しても恨みは致しませぬ。どちらにせよ、もう我らは意を決しております。十分に鍛え抜かれた五万の精鋭の前で、夜ごと公家の宴会にうつつを抜かしている腰抜けどもが逃げ惑う様は滑稽ではありませんか」

「な、何? 五万の精鋭?」

大内義隆は二万五千で腰を抜かしたが、毛利親子は互いに顔を見合わせた。宇部のような小城に五万もの兵がいるなど、信じられない話だ。この小僧はインチキを言っているのか、頭がおかしいのではないか?

しかし、千寿にはそれくらい、どうとでも出来る自信があった。現在宇部の人口は七万のはず。あれをカンストさせれば、兵力は間違いなく増強される。ここははったりでもなんでもいい。だいたい、前回の秋月城のように、山口館は丸裸にしてしまうから、この際兵数などどうでも良いのだ。